『地平』2025年2月号

熊谷伸一郎(『地平』編集長)
2025/01/05

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編集後記

 アメリカのトランプ再選、ネタニヤフへの逮捕状発布、韓国の非常戒厳とその失敗、シリアのアサド独裁の終焉と、2024年後半は「激動の情勢」とでも特集するしかないような特大ニュースが次々に起こった。

 内幕をさらすようで恐縮だが、今号は校了から刊行までに年末年始をはさむ関係で、動きの激しい話題を取り上げることが難しいタイミングである。それでも校了ぎりぎりまで原稿を練ってくださった李起豪さんはじめ、情勢に噛み合う原稿を多く掲載できた。

 韓国の一連の動きでは、何よりも、民主主義の破壊を許さない断固たる市民の姿勢に感銘を受けた。一方で、反民衆的な政治指導者にもたれかかって韓国との関係「改善」を歓迎してきた日本の政治やマスメディアは、次なる「反日」政権の誕生を警戒している。日本の外交が、いかに深い洞察や長期的展望を欠いた不誠実なものかがよくわかる。相手国の民衆の支持を得られる外交こそ持続可能だろう。そのことを今回の尹政権の行く末は何よりも明確に証明した。

 韓国の少数与党は強硬策をとって自滅したが、日本の少数与党のほうはどうか。第一特集では、焦点化している「103万円の壁」をはじめ、税制をとりあげた。冒頭でインタビューをした宇都宮健児さんとは個人的に縁が深い。編集側のスタンスとして情報公開しておくと、宇都宮さんが東京都知事選に挑戦した最初の3回(2012年、14年、16年)で私はその選対に参加していた。編集の独立性を確保すべき原則から、私は政党・党派とは距離を置くが、政党選挙ではない自治体選挙では一市民として参加したことが何度かある。その中でも、都知事選は刺激的で学びにあふれた機会だった。その後も窮状に直面する市民のために献身しつづける宇都宮さんは、私がもっとも尊敬する執筆者の一人である。

 宇都宮さんが語っていることは、会田弘継さんがクリアに分析しているアメリカの状況と軌を一にする。ここで示されているテーマを今年は追っていきたいと考えている。

 同時に、第二特集のような、生活や環境、ライフスタイルに関わるテーマ、医療・福祉なども、タブーなき本誌ならではの切り口で迫っていきたいと思う。

 本誌は2025年も、民主主義のインフラとしての独立したメディアとして邁進していきます。どうぞ今年も本誌をご愛読ください。

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熊谷伸一郎

(くまがい・しんいちろう)月刊『地平』編集長。株式会社地平社代表取締役。1976年8月生まれ。フリージャーナリストを経て2007年、岩波書店『世界』編集部に参加。2018年7月から2022年9月まで同誌編集長をつとめる。2023年7月、独立のため退職。著書に『なぜ加害を語るのか』(岩波ブックレット)、『反日とは何か』(中公新書ラクレ)、『金子さんの戦争』(リトルモア)、『私たちが戦後の責任を受けとめる30の視点』(合同出版)、坂本龍一氏らとの共著に『非戦』(幻冬舎)など。

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