参政党の台頭はなぜ可能になったか――解かれた極右の封印

マルカントゥオーニ・ロメオ(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程在籍)
2025/09/05

 参政党は2025年7月の参議院選挙で14議席増を果たした。両院合計で18議席を確保し、政界における存在感を高めた。その躍進の背景には、後述する同党の陰謀論的世界観に立脚した政策があると考えられる。今回の「勝利」によって、周縁化されていたはずの日本の極右勢力が戦後初めて本格的に国政に進出することとなった。

 それでも、日本の有権者が近年になって極右化したわけではあるまい。むしろ、極右思想は戦後を通じて日本社会に浸透しつづけてきたが、戦後の政治制度と社会的規範の下で、投票行動とはほぼ無関係であった。しかし、今年の参院選で状況は一変した。

 著者は、早稲田大学高等研究所のロバート・ファーヒ招聘研究員と共同で2年間にわたり参政党を研究してきたMarcantuoni, Romeo. 2025. “Sanseito Brings Far-Right Populism to Japan.” Nikkei Asia, July 16. https://asia.nikkei.com/Opinion/Sanseito-brings-far-right-populism-to-Japan; Nikkei Asia. 2025. Unpacking Sanseito and the “Japanese First” Movement. August 4.。今回の躍進の規模が想定を上回ったことに懸念を抱いている。なぜなら、自由民主主義に本質的に反する極右思想は、民主主義の制度を侵食し得るからである。

 本稿では、参政党がいかに陰謀論的世界観を用いて極右思想を政党政治に持ち込んだか、そして、その思想にもとづく訴えがなぜ得票につながったのかを考察する。結論を先にいえば、同党の選挙での成功は、極右思想を、一般社会に受容可能な「ふつう」のものにしたことに起因する。仮に参政党の政治的な寿命が短命に終わったとしても、自由主義・民主主義的な社会に対するネガティブな影響は長期に及ぶに違いない。

極右陰謀論政党出現の意味

 選挙期間中から、日本の報道においても「極右」「排外主義」という語が参政党と結びつけられた。この評価は妥当だが、それに加えて、同党の主張の前提に、事実とは相容れない陰謀論的世界観があることが見逃されてはならない。

 比較政治学では、「極右」(far right)は反自由主義勢力と反民主主義勢力の総称として用いる。参政党は選挙制度を通じて議席を争う政党として、反民主主義とは言いがたいが、人権やメディアの独立性といった価値観にもとづく自由主義に反する思想を標榜しているのは明らかである。参政党の政治家たちが街頭演説やYouTube等で、人権を「行きすぎた概念」として揶揄する場面は少なくない。

 また、参政党の参院選での公約や、「新日本憲法(構想案)」で定義されている「国民」が明示しているように、外国人が常に経済的・社会的な脅威となり得るという立場をとっている。これは自由民主国家が担うべきマイノリティの擁護という規範と相容れない。

 参政党の国会質疑や、YouTubeで発信するトピックでは、中国政府が積極的に観光客、移民、資本を日本に送り込んでいるという「サイレント・インベイジョン」が脅威として繰り返し語られる。

 参政党は自らの立場を反グローバリズムだと述べる。そして、自分たちの政策が「排外主義」や「極右」ではなく、グローバリズムの症状への対抗だと主張し、「行きすぎた外国人優遇」や「多国間組織への支援」を標的に掲げる。グローバリズムとは、「国境を超えた経済競争による行き過ぎた新自由主義、他国籍企業に富が偏在し、それぞれの国の中間層が没落してしまう」仕組みだと、神谷宗幣代表は予算委員会で答弁した参政党. 2025.「【国会中継】11:25〜『グローバリズムとトランプ関税について』参議院議員 神谷宗幣 国会質疑 令和7年8月5日」 YouTube. 。この説明は、やや左翼的な人にとっても耳触りのいい構造的理論に聞こえるかもしれない。

 しかし、同党の資料やYouTubeをさらに確認すると、参政党の言うグローバリズムは、構造的理論ではなく、「闇に潜む世界エリートが企てる陰謀」だとされる。

 陰謀論を厳密に定義することは難しいが、少なくとも、政治の場では「世界の中で起きている多くの出来事はつながっており、少人数のエリートによって闇の中から意図的にかつ有効的に操られているという世界観」と捉えてよい(Marcantuoni, Romeo, and Robert A. Fahey. 2025. “Fighting the Cabal from the Diet: Sanseitō and the Role of Conspiracy as Political Ideology.” The Asia-Pacific Journal: Japan Focus. Forthcoming.)。参政党はこれを懐疑心から、あるいは「おもしろおかしく」語っているのではない。森羅万象の裏にある仕組みを暴く包括的な世界観として提示している。

 たとえば、同党の吉川里奈衆議院議員が行なった選択的夫婦別姓に関する質問がある。

 選択的夫婦別姓の背景には、マルクス主義を源流とする批判的人種理論や、それに基づく過激なジェンダー運動の影響があることがしばしば指摘されます。実際、元FBI捜査官クレオン・スカウセン氏は、裸の共産主義者という書籍の中で、文化破壊の戦略として家族制度が標的にされていると警告しています。このような動きは日本社会においても深刻な分断と混乱を引き起こす可能性があり、私たち参政党はこれに強い懸念を抱いています(衆議院. 2024. 『第216回国会 衆議院 法務委員会 第4号』12月18日)

 いわゆる「文化マルクス主義にもとづく国家弱体化」というイメージは、米国では典型的な極右の陰謀論として久しく認識されてきた。この種の陰謀論は、参政党の資料に繰り返し現れ、これを重視していることがわかる。参院選の直後、神谷代表もインタビューで、ジェンダー平等やLGBTQの権利運動について、共産主義者が国家を弱体化するために中枢に侵入し、家族制度を壊す思想を導入する、いわゆる「文化マルクス主義」だと位置付けている『荻上チキ・Session』TBSラジオ「参政党・神谷宗幣 代表インタビュー〈参院選2025・選挙特番〉」 7月21日。。要するに、〈ある勢力〉がジェンダー平等やLGBTQの権利という概念を敵対国に導入し、国民を混乱させる計画を実行し、すでに成功したという認識である。だが、これらの権利が獲得されるまでには、規範や権利意識の普及をめざした社会運動が存在した。その成果を、困難な妥協や様々な努力の積み重ねとして理解せず、強大な黒幕を設定して解釈するのが、参政党の思考である。

 しかし、この世界観には大きな弱点がある。ファーヒ氏が述べたように、世論調査ではコロナ禍を経て陰謀論を拒否する傾向が高まった(ファーヒ・ロバート. 2023. 「世論調査に見る日本人の陰謀論支持」『中央公論』137(12): 62–69.)。というのも、世界のあらゆる側面を効果的に操れるとする発想自体が、多くの有権者には非現実的だからである。参政党の現在以上の拡大は、今後、容易ではないだろう。

封印はなぜ解けたか

マルカントゥオーニ・ロメオ

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程在籍。日本政党政治研究。日本の民主主義社会における極右思想および陰謀論と政党の相関性について分析。テンプル大学ジャパンキャンパス非常勤講師。ベルギー生まれ。ルーヴェン大学文学部修士課程修了。

2025年9月号(最新号)

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