特集「困窮ニッポン――物価高騰と排外主義」(2026年1月号)
2025年7月の参院選告示前、JR高田馬場駅前で参政党の参院選東京選挙区の予定候補さや氏(現参院議員)が街頭演説している場面に偶然出くわした。平日の午後、うだるような暑さの中、白いパンツスーツに身を包んださや氏が声をからせて、政策を訴えていた。
その直前の都議会選挙(6月22日投開票)で4候補を立てた同党は、練馬、大田、世田谷で計3議席を獲得して、注目の的になっていた。都議選の告示日、同党の街頭演説を聴いた。その候補者は、「日本の根本を守り、日本人を守り、日本人を豊かにしたい」と主張していた。記憶ではその演説では「日本人ファースト」とは言っていなかったが、いずれにせよ「日本人」を強調する主張を繰り返す姿に苦いものを感じた。しかし、筆者の感じた思いは、後景に押しやられるように、参政党の主張は注目を集め、呼応するかのようにヒートアップしていった。勢いは参院選でも続くだろうと感じ、高田馬場駅前の演説にも足を止めた。
現場は数十人が立ち止まっている程度。前のめりに聞くというよりは、遠巻きに眺めているといった感じだ。党員だろうか、オレンジ色のTシャツやポロシャツを着た5~6人のメンバーがビラを配っている。平日ということもあってか、配っていたのは中高年の女性が多かった。キャップのような男性の指示を受け、特に大きな声でアピールすることもなく、静かにビラを配っている。現場には参政党の主張に反対するカウンターの男性が2人、トラメガを手に「排外主義は許さない」「差別するな」と繰り返していた。さや氏は演説を続けながら「差別はしていない」などと時折反論するが、聴衆は反論に同意するでも、カウンターの人々にヤジを飛ばすわけでもなく、静かに演説を聴いていた。さや氏の演説が終わっても、さざ波のような拍手がわいただけで、〝熱狂〟とはほど遠かった。「こんなもんか」が正直な感想だった。ところが、この様子は参院選が告示され、日を追うごとに加速度的に変化し、〝熱狂〟へとつながっていった。
演説を聞いていた青年
ともあれ、この日の様子に拍子抜けした筆者は、街頭演説会終了後、集まった聴衆数人に声をかけてみた。取材に応じてくれた30代前半だという男性は、交流サイト(SNS)でさや氏が高田馬場の駅頭で街頭演説をやるという告知を見つけて駆けつけたという。「党員なのか」と聞くと、「いや、全然関係ない」と首を振った。練馬区在住で、同様に都議選の際にSNSで知った江崎さなえ氏(現都議)の街頭演説を聴いたのがきっかけだったという。「参政党が来ている(勢いに乗っている)って友人から聞いて、SNSでチェックしていた」という。「最初は日本人、日本人っていう内容に『何だかなぁ』と思ったけど、支持が広がっているのを見ると、正しいことなのかなぁって」と徐々に惹かれていったのだという。
「外国人が日本を食い潰していると思う?」と聞くと、「動画では外国人の生活保護の〝不正〟が盛んに言われているが、それが事実でないことぐらいは、ちょっと調べれば分かる。けれど、外国人にうまいことやられている感覚はあるんですよ」という。その理由は、彼の仕事での経験にある。彼はかつて、食事を配達する仕事をしていた。配送の受注をめぐって、外国人の登録者に「仕事を横取りされた」という。外国人は数人で固まって、発注が多く受けとれる場所にいて、次々仕事を取っていくのだという。「それは横取りではないよね」と問うと、「正確には違うけど、『あいつら……』って思いましたね。彼らがいなければ僕が取れた仕事かもしれない」と答えた。











