【関連】アルバネーゼ報告を読む
・「占領経済からジェノサイド経済へ〔抄訳〕――パレスチナ地域における人権状況に関する国連特別報告者報告書」フランチェスカ・アルバネーゼ(国連告別報告者)
・「世界はこの報告書を受け止められるか――アルバネーゼ報告の射程と意義」早尾貴紀(東京経済大学教授)
国連特別報告者に対する制裁
2025年7月9日にマルコ・ルビオ米国国務長官は、1967年以降のパレスチナ被占領地の人権に関する国連特別報告者であるフランチェスカ・アルバネーゼ氏に大統領令14203に基づき制裁を課すことを宣言した(1)。いずれもICC(国際刑事裁判所)規程の当事国でない米国またはイスラエルの国民――具体的には、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアフ・ギャラント元国防大臣――に対して、両国の同意のないICCの捜査、逮捕、拘留、起訴に向けた動きに、同氏が直接関与したというのが、その理由だ。これに先立ち米国は、2025年2月6日付の同大統領令でICC関係者に対する制裁を発表していた(2)。具体的には、附属書記載の人物と「保護された人物」の定義に該当する人物(米国市民、またはICCに加盟していないか、ICCの管轄権に同意していない米国の同盟国の市民または合法的居住者)に対するICCの捜査、逮捕、拘留、起訴に向けた動きに直接関与するか、これを支援する外国人についてアメリカ国内の資産凍結、アメリカへの入国禁止、アメリカ企業との取引禁止を規定した。
ルビオ国務長官の発表を受けて国連人権理事会の特別手続調整委員会は、「これらは国連人権理事会によって任命された一人の独立の人権専門家に対する制裁というだけではない。むしろそれらは、現在の米国政権による国連制度全体と人権、正義、説明責任、法の支配というその核となる価値に対する継続した攻撃を反映するものだ」(傍点筆者)と強く非難し、「このような人権法へのあからさまな無視と侮辱を前に沈黙することは選択肢にない」として、全国家、人権理事会、国際共同体の全てのメンバーに人権の促進と保護のための多国間システムを防衛するため断固とした行動をとるよう求めた(3)。
本稿では、以下、国連特別報告者とは何か、また国連の人権保護の歴史と特別報告者の独立性の意義を確認する。これらは、米国トランプ政権による国連特別報告者に対する制裁の問題点を国際人権法、国際法の観点から考える上で避けて通れない。それをふまえ、とりわけ特別報告者の独立性の観点から、本件の制裁の何が問題かについて最後に確認したい。