フランチェスカ・アルバネーゼ(翻訳=甘糟智子)
※特別報告者は国連人権理事会に任命された個人の独立専門家で、特定の国における人権状況やテーマ別の人権状況について調査、監視、報告を行なう。アルバネーゼ氏はイタリア出身の研究者で、イスラエルによるガザ攻撃を強く批判してきた。今年7月10日、米国はアルバネーゼ氏に制裁を科すと発表。国連は撤回を求めている。
【関連】アルバネーゼ報告を読む
・「世界はこの報告書を受け止められるか――アルバネーゼ報告の射程と意義」早尾貴紀(東京経済大学教授)
・「国際人権法へのあからさまな攻撃を前に沈黙という選択肢はない――トランプ政権による国連特別報告者に対する制裁」小坂田裕子(中央大学大学院法務研究科教授)
Ⅰ 序文
1 植民地事業とそれに伴うジェノサイドを、歴史的に推進し、また可能としてきたのは、企業セクターである。商業的利益は先住民の土地の剝奪に寄与しており、これは「植民地的人種資本主義(コロニアル・レイシャル・キャピタリズム)」と呼ばれる支配形態である。同様の構図はイスラエルによるパレスチナの土地の植民地化、そのパレスチナにおける占領地の拡張、そして入植者植民地主義的アパルトヘイト体制の制度化にも当てはまる。イスラエルは何十年にもわたり、パレスチナ人の自己決定権を否定してきたが、いまやパレスチナにおけるパレスチナ人の存在そのものを脅かしている。
2 イスラエルによる違法な占領、およびガザ地区で進行中のジェノサイド攻撃を支えている法人組織の役割が、本調査報告書の主題である。特に本報告書は、イスラエルの入植者植民地主義における「排除」と「置き換え」の二重の論理、すなわちパレスチナ人の土地を奪い、パレスチナ人の土地から彼らの存在を抹消する行為を企業利益がいかに下支えしているかに焦点を当てている。特別報告者が報告する法人組織は、兵器製造、テクノロジー、建設関連、資源採掘、サービス、銀行、年金基金、保険、大学、慈善団体と多岐にわたる。これらの法人組織は、占領下にあるパレスチナの自己決定権の否定を含む構造的な人権侵害、すなわち、占領、併合、アパルトヘイトおよびジェノサイド犯罪に加え、それに付随する差別、無差別破壊、強制移住、略奪から超法規的殺害、飢餓に至る一連の犯罪行為と人権侵害を可能にしている。
3 適切な人権デューデリジェンスが行なわれていれば、法人組織ははるか以前にイスラエルによる占領から撤退していたはずである。ところが、2023年10月以降、法人組織は、ガザ地区を壊滅させ、ヨルダン川西岸で1967年以来最大規模のパレスチナ人の強制移転をもたらした軍事作戦全体を通じて、排除・置き換えの過程の加速に加担してきた。
4 被占領地パレスチナでの搾取における法人組織の数十年にわたる黙認的関与の規模と範囲を完全に把握することは不可能であるが、本報告書は、入植者植民地主義に基づく占領経済とジェノサイド経済とが一体化している実態を明らかにしている。本報告書において、特別報告者は法人組織およびその経営幹部の国内外における責任追及を求めている。無辜の人々の抹殺を可能にし、そこから利益を得る商業活動は、ただちに終止されねばならない。法人組織は人権侵害および国際犯罪への加担を拒否しなければならず、さもなくば責任を問われるべきである。〔……〕
Ⅳ 入植者植民地主義に基づく占領経済からジェノサイド経済へ
22 入植者植民地主義とは、土地の所有者を排除することで、その土地を搾取し、利益を享受し、植民地化を進めるものである。パレスチナではアラブ系住民の排除と置き換えというプロセスが、入植者植民地主義に基づく抹消の論理の核心を成しており、歴史的に企業がこれを推進、可能にしてきた。1901年に土地買収を目的として設立された法人組織であるユダヤ民族基金は、パレスチナのアラブ人の段階的排除の計画と実行を支援した。その排除はナクバを契機に激化し、以来、現在に至るまで継続している。
23 イスラエルは特に1967年以降、法人組織のさらなる支援を受けつつ、パレスチナにおける土地剝奪と強制移転を進めてきた。企業セクターは、住宅や学校、病院、娯楽施設、礼拝施設、生計手段、オリーブ園や果樹園などの生産資産を破壊し、またコミュニティを隔離・統制し、天然資源へのアクセスを制限するために必要な武器や機械を提供し、この計画に実質的な貢献を果たしてきた。さらに、被占領地パレスチナにおける違法なイスラエルの存在の軍事化およびその促進を支援することによって、パレスチナ人に対する民族浄化(エスニック・クレンジング)の条件の形成に加担してきた。
24 法人組織は占領地におけるイスラエルの拡張を支えつつ、パレスチナ人の置き換えを促進し、パレスチナ経済の抑圧に重要な役割を果たしてきた。貿易・投資、植林、漁業、共同体への水供給などに対する苛烈な規制は、農業および産業を弱体化させ、被占領地パレスチナを囲い込まれた市場へと変貌させた。企業はパレスチナの労働力と資源を搾取し、天然資源を破壊・転用し、入植地を建設し、それに電力を供給し、そこから派生する商品やサービスをイスラエル、パレスチナ被占領地、さらには世界市場で販売・宣伝することで利益を上げてきた。ヨルダン川西岸およびガザ地区に関するイスラエル・パレスチナ暫定合意(オスロ合意Ⅱ)はこのような搾取構造を固定化し、資源豊富なヨルダン川西岸地区の61%(C地区)に対するイスラエルの事実上の独占を制度化した。この搾取によってイスラエルは利益を得ている一方、パレスチナ経済はその国内総生産(GDP)の少なくとも35%に相当する損失を被っている。
25 金融機関や学術機関もまた、パレスチナ人の排除と置き換えの条件を整えてきた。銀行、資産運用会社、年金基金、保険会社は、違法な占領に資金を流入させてきた。また知的成長と知的権力の中心地たる大学は、パレスチナ領の植民地化を正当化する政治的イデオロギーを支え、兵器を開発し、組織的な暴力を見逃し、あるいは容認してきた。また国際的な研究協力は、学問的中立性というベールの下、パレスチナ人の抹消を覆い隠してきた。
26 2023年10月以降、長年にわたる支配・搾取・剝奪のシステムは、集団的暴力と甚大な破壊を遂行するための経済的・技術的・政治的インフラへと変貌した。これまで占領経済の下でパレスチナ人の排除と抹消を可能にし、そこから利益を得てきた法人組織は、手を引くどころか、現在ではジェノサイド経済に加担している。
27 以下の各セクションでは、排除と置き換えを基盤とする入植者植民地主義経済の中核的柱を通じて、主要な8つの産業部門が個別に、また相互に依存しながら機能し、そのジェノサイド的実践にいかに適応してきたかを示す。
A 強制移転
28 2023年10月以降、パレスチナ人の追放を進めるために使用されていた武器や軍事技術は、大量殺戮と破壊のための道具と化し、ガザ地区およびヨルダン川西岸の一部を居住不能な状態にしてきた。通常は隔離/アパルトヘイトを強制する手段として用いられていた監視や拘禁技術は、パレスチナ人全体を無差別に標的とするための装置へと進化した。かつてヨルダン川西岸で住宅の解体、インフラの破壊、資源の接収に用いられていた重機は、ガザの都市空間を消し去り、追放された住民の帰還と共同体再建を阻むために転用されている。
軍事部門──排除のビジネス
29 イスラエル国家を作り出した軍事化された暴力は、現在に至るまで、その入植者植民地事業の原動力でありつづけている。イスラエルおよび国際的な武器製造企業は、パレスチナ人をその土地から排除するためのより効果的なシステムを開発してきた。彼らは協力と競争を通じて、イスラエルによる抑圧・弾圧・破壊の強化を可能にする技術を洗練させてきた。
30 長期にわたる占領と繰り返される軍事作戦は、最先端の軍事技術の実験場となってきた。防空システム、無人機(ドローン)、人工知能(AI)による標的捕捉装置、さらにはアメリカ合衆国が主導するF‐35戦闘機プログラムに至るまで、こうした技術は「実戦証明済み」として売り込まれている。
31 軍事産業複合体は、イスラエル国家の経済的支柱となっている。2020年から2024年にかけて、イスラエルは世界第8位の武器輸出国であった。イスラエルの二大兵器メーカー、エルビット・システムズ(官民連携事業として設立され、後に民営化)と国営イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ(IAI)は、いずれも世界の武器製造企業上位50社に含まれる。2023年以降、エルビット・システムズはイスラエルの軍事作戦に緊密に協力し、主要スタッフをイスラエル国防省に常駐させており、2024年には「イスラエル国防賞」を受賞した。両社はイスラエルにおける兵器の国内供給体制の中核を担うとともに、武器輸出や軍事技術の共同開発を通じて、イスラエルの軍事同盟関係を強化している。
32 兵器および技術支援を提供する国際的なパートナーシップは、イスラエルがアパルトヘイトを維持し、最近ではガザ攻撃を継続する能力を強化している。イスラエルは米国のロッキード・マーティンが主導する史上最大規模の防衛調達計画であるF‐35戦闘機プログラムの恩恵を受けている。このプログラムには、イタリアのレオナルド社を含む少なくとも1650の企業と8カ国が参加している。イスラエルのF‐35戦闘機部隊には世界各地で製造された部品が供給されており、ロッキード・マーティンおよび国内企業との協力の下、イスラエル独自の仕様変更や保守管理が行なわれている。イスラエルは2018年にF‐35を世界で初めて実戦運用した国であり、2025年には同機を「ビーストモード」[ステルス性よりも攻撃力を重視した機外兵装]で運用した最初の国ともなった。ロッキード・マーティンのF‐35およびF‐16戦闘機はイスラエル空軍の主力戦力であり、GBU‐31統合直撃弾(JDAM)や無誘導爆弾MK‐84(2000ポンド爆弾)を含む高い兵器搭載能力と攻撃性能を有している。F‐35は一機当たり1万8000ポンド超の爆弾を搭載可能である。2023年10月以降、F‐35およびF‐16戦闘機は、イスラエルにかつてない空爆能力を提供する主力となっており、推定8万5000トンもの爆弾(その多くは無誘導)を投下し、17万9411人を超えるパレスチナ人を殺傷し、ガザ地区を壊滅させている。
33 ドローン、ヘキサコプター(六旋翼ドローン)、クアッドコプター(四旋翼ドローン)は、ガザ上空において至るところで殺戮マシンと化している。エルビット・システムズおよびIAIが主に開発・供給するドローンは長年、戦闘機と共に飛行し、パレスチナ人の監視や標的情報の提供を担ってきた。イスラエルが運用するドローンは過去20年間、これら企業の支援およびマサチューセッツ工科大学(MIT)などの機関との協力により、自動兵器システムおよび群れ(スウォーム)飛行能力を獲得するに至った。
34 イスラエルにこれらの兵器を供給し、輸出入取引を円滑に進めるため、メーカーは法律事務所、監査法人、コンサルティング会社に加え、兵器ディーラー、代理人、仲介業者などから成る仲介ネットワークに依存している。日本のファナックのようなサプライヤーは、IAI、エルビット・システムズ、ロッキード・マーティンなどの兵器製造ライン向けに産業用ロボットを供給している。デンマークのA・P・モラー・マースクをはじめとする海運会社は、部品、兵器、原材料の輸送を担い、2023年10月以降、米国が供給する軍事装備の安定的な流通を支えている。
35 エルビット・システムズやIAIなどのイスラエル企業にとって、現在進行中のジェノサイドは、利益を生む事業となっている。イスラエルの軍事支出は2023年から2024年にかけて65%増加し、総額465億米ドルに達した。国民一人当たりの軍事支出額は世界でも最高水準である。この急増により、両社をはじめとするイスラエル企業の年間利益は大きく跳ね上がった。外国の兵器メーカー、特に弾薬や火器の製造企業もまた、この状況から利益を得ている。
監視と監獄化──「スタートアップ国家」の暗部
36 パレスチナ人に対する抑圧は次第に自動化が進んでおり、テクノロジー企業は被占領地パレスチナが軍事技術にとって他に類を見ない実験場となっている状況から利益を得つつ、大量のデータ収集と監視を統合する軍民両用型(デュアルユース)インフラを提供している。米国の大手テクノロジー企業がイスラエルに子会社や研究開発センターを設立したことで、イスラエルの安全保障上の必要性の主張は、監視・監禁関連サービスにおける空前の発展を促してきた。これには閉回路テレビ(CCTV)ネットワーク、生体認証監視、先端技術を用いた検問所ネットワーク、「スマートウォール」、ドローン監視から、現場の軍事要員を支援するクラウドコンピューティング、AI、データ分析までが含まれる。
37 イスラエルのテクノロジー企業は多くの場合、軍事インフラや軍事戦略に由来しており、イスラエル軍「8200部隊」[サイバー攻撃・防御を扱う情報収集精鋭部隊]の元メンバーによって設立された「NSOグループ」はその一例である。スマートフォンを密かに監視するために設計された同社のスパイウェア「Pegasus」は、パレスチナ人活動家に対して使用されてきた他、各国の指導者、ジャーナリスト、人権活動家らの監視を目的としてグローバルにライセンス供与されてきた。NSOグループの監視技術は、防衛輸出管理法に基づく「スパイウェア外交」を可能にするとともに、国家による違法行為の免責を強化している。
38 IBMは1972年からイスラエルで事業を展開しており、特に8200部隊の軍事・情報要員を対象に、テクノロジー業界やスタートアップ企業向けの人材育成を行なってきた。2019年以降、IBMイスラエルは人口・移民局の中核データベースの運用と更新を担当し、パレスチナ人の生体認証データの収集・保存および政府による利用を可能にし、イスラエルの差別的な許可制度を支えている。IBMの前にはヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)が同データベースの管理を行なっていたが、そのイスラエル子会社は現在もサーバーを提供している。ヒューレット・パッカード(HP Inc.)は長年にわたり、イスラエル占領地政府活動調整官組織(COGAT)や刑務所当局、警察などに技術提供を行ない、イスラエルのアパルトヘイト体制を支援してきた。2015年の分割(HPEとHPInc.)以降、不透明な事業構造により、イスラエルに残る両社の子会社7社の役割は不明瞭となっている。
39 マイクロソフトは1991年からイスラエルで事業を展開しており、米国外では最大の拠点を設置している。同社の技術は、入植地を含む刑務所当局、警察、大学、学校などに組み込まれている。2003年以降、マイクロソフトはイスラエル軍に対してシステムや民間技術の統合を進める一方、イスラエルのサイバーセキュリティおよび監視関連のスタートアップ企業の買収も行なっている。
40 イスラエルのアパルトヘイト体制、軍事システムおよび人口管理システムが生み出すデータ量が増加する中、クラウドストレージとコンピューティングへの依存度が高まっている。2021年、イスラエルは基幹技術インフラを提供するため、アルファベット社(グーグル)とアマゾン・ドットコムに12億ドルの契約(「プロジェクト・ニンバス」)を発注した。この契約は主にイスラエル国防省の予算によって賄われている。
41 マイクロソフト、アルファベット、アマゾンは、イスラエルに対し事実上、政府全体にわたるクラウドおよびAI技術へのアクセスを許可しており、それによりイスラエルはデータ処理、意思決定、監視・分析能力を強化している。2023年10月、イスラエル国内の軍事クラウドが過負荷状態に陥った際には、マイクロソフトのクラウドサービス「Azure(アジュール)」と「プロジェクト・ニンバス」のコンソーシアムが支援に乗り出し、不可欠なクラウドおよびAIインフラを提供した。イスラエルに設置された彼らのサーバーは、データ主権を確保すると同時に責任追及の防波堤ともなっており、制限や監視がほとんどない有利な契約条件下で提供されている。2024年7月、イスラエル軍のある少将はこれらの企業名を挙げ、クラウド技術はあらゆる意味で武器であると述べた。
42 イスラエル軍は「Lavender」「Gospel」「Where’s Daddy?」といったAIシステムを開発し、データ処理や標的リストの作成に活用している。これにより現代戦の様相が一変するとともに、AIの軍民両用性が如実に示されている。パランティア・テクノロジーズは2023年10月以前からイスラエルと技術協力を行なっていたが、同月以降、イスラエル軍への支援を拡大した。同社が警察活動向けの自動予測技術、軍事ソフトウェアの迅速かつ大規模な構築・展開を支える中核的防衛インフラ、さらには自動意思決定のためのリアルタイム戦場データ統合を可能にするAIプラットフォームを提供していることを示す合理的な根拠がある。2024年1月、パランティアはイスラエルとの新たな戦略的パートナーシップを発表し、「連帯」の意を表してテルアビブで取締役会を開催した。2025年4月、パランティアの最高経営責任者(CEO)は、同社がガザ地区でパレスチナ人を殺害したとの非難に対し「ほとんどがテロリストであり、それは事実だ」と応じた。これらの出来事はいずれも、イスラエルの違法な武力行使に対する経営陣の認識と意図を示すものであり、かつ、そうした行為の防止や関与撤回を怠っていることを示している。
43 「スタートアップ国家」としてのイスラエルは、9・11以降の世界的な安全保障強化の波に乗り、ジェノサイドの期間中に大きな躍進を遂げた。イスラエルは国民一人当たりのスタートアップ企業数で世界一であり、2024年には軍事技術関連のスタートアップが143%増加した。ジェノサイド期間中、イスラエルの輸出の64%を技術分野が占めている。
民間の仮面──入植者植民地主義的破壊に用いられる重機
44 民生技術は長年にわたり、入植者植民地主義的占領の軍民両用ツールとして機能してきた。パレスチナ人を彼らの土地から「駆逐」し、その住宅、公共施設、農地、道路、その他の重要インフラを破壊するイスラエルの軍事作戦は、世界有数のメーカーの重機に大きく依存している。2023年10月以降、これらの重機はガザ地区の構造物の70%、農地の81%の破壊・損壊に不可欠な役割を果たしてきた。
45 キャタピラー社は数十年にわたり、パレスチナの住宅やインフラの破壊に使用される機材をイスラエルに供給してきた。これは米国の対外軍事融資(FMF)プログラムおよび、イスラエル法に基づき軍事目的で徴用された独占ライセンス企業の両方を通じて行なわれてきた。イスラエルは、IAI、エルビット・システムズ、レオナルドDRS傘下のラダ・エレクトロニック・インダストリーズなどの企業と提携し、キャタピラー製ブルドーザー「D9」を自動化・遠隔操作可能な軍の主力兵器へと進化させてきた。この重機は2000年以降、ほぼすべての軍事作戦に投入され、侵攻ルートの整地、パレスチナ領の「無力化」、パレスチナ人の殺害に用いられてきた。2023年10月以降、キャタピラー社の機材は、住宅、モスク、生命維持に不可欠なインフラの大規模な破壊、病院への急襲、負傷したパレスチナ人の生き埋めにまで使用されてきたことが記録されている。2025年、キャタピラー社はイスラエルと新たに数百万ドル規模の契約を締結した。
46 韓国のHD現代(ヒョンデ)およびその一部出資子会社である斗山(ドゥサン)、ならびにスウェーデンのボルボ・グループなどの主要重機メーカーは、いずれもイスラエルにおける独占販売ディーラーを通じて機材を供給し、長年にわたってパレスチナの財産破壊に関与してきた。ボルボのライセンス保有企業は、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のデータベースに掲載されている。ボルボおよびそのライセンス保有企業は、入植地で使用される装甲バスを製造するメルカヴィム・トランスポーテーション・テクノロジーズを共同所有している。少なくとも2007年以降、ボルボの重機は、東エルサレムやマサーフェルヤッタを含むパレスチナ地域の破壊に使用されてきた。HD現代の重機も10年以上にわたり、パレスチナの住宅やオリーブ園を含む農地の破壊に使用されてきた。2023年10月以降、イスラエルはガザ地区の都市破壊においてこれらの企業の重機使用を拡大し、ラファやジャバリヤの更地化にも用いたが、その後、イスラエル軍は重機のロゴを隠蔽した。
47 これらの企業は、イスラエルによる重機の犯罪的使用を示す豊富な証拠や、人権団体による度重なる関係断絶要求にもかかわらず、イスラエル市場への供給を続けている。受身的に供給を続ける業者は、強制移転体制に加担する意図的な共犯者とみなし得る。
B 置き換え
48 法人組織は、被占領地パレスチナにおけるパレスチナ人の生活破壊に加担してきただけでなく、それに代わるものの構築にも寄与してきた。すなわち、入植地およびそのインフラの建設、資源・エネルギー・農産品の採取と取引、さらにはあたかも一般的な観光地であるかのような入植地への訪問者の誘致などである。2023年10月以降、これらの活動は入植事業のかつてない成長を支え、法人組織は水・電力・燃料のほぼ全面的な供給遮断を含む、パレスチナ人の生活破壊を目的とした環境の創出に引き続き加担し、そこから利益を得ている。
建設──盗まれた土地に建つ住宅
49 被占領地パレスチナでは、イスラエルによる在来住民の置き換えを促進する企業によって、371を超える入植地および違法な前哨拠点が建設され、運用され、取引の対象となっている。2024年、入植地の運営が軍から文民政府に移行し、建設・住宅省の予算が倍増、入植地建設に2億ドルが割り当てられたことで、この動きはいっそう加速した。2023年11月から2024年10月にかけて、イスラエルは新たに57の入植地と前哨拠点を設置し、イスラエル企業および国際企業が重機や資材、物流支援を提供した。
50 キャタピラー、HD現代、ボルボの掘削機と重機は少なくとも10年間にわたり、違法な入植地建設に使用されてきた。ドイツのハイデルベルク・マテリアルズ社はその子会社ハンソン・イスラエルを通じ、ヨルダン川西岸のパレスチナ集落から接収された土地に位置するナハル・ラバ採石場から、数百万トンに及ぶ苦灰岩(ドロマイト)の略奪に加担してきた。2018年、ハンソン・イスラエルは、同採石場から入植地建設用の資材を供給する公開入札で落札した。以後、同採石場をほぼ枯渇させるに至っており、現在も採掘拡大の申請を続けている。
51 さまざまな企業が、入植地の建設・拡張およびイスラエル本国との接続に不可欠な道路や公共交通インフラの整備に関与し、その過程でパレスチナ人の排除・隔離が行なわれてきた。スペイン・バスク地方の建設会社コンストゥルシオネス・イ・アウクシリアル・デ・フェロカリーレス(CAF)は、「エルサレム・ライトレール」のレッドライン路線の維持・拡張および新設のグリーンライン建設を担うコンソーシアムに、OHCHRデータベース掲載企業とともに参加したが、当時、他の企業は国際的な圧力を受けて撤退していた。これらの路線は、ヨルダン川西岸において27キロの新軌道と50の新駅を含み、入植地と西エルサレムを結んでいる。ドゥサンおよびボルボの掘削機と重機が使用され、ハイデルベルクの子会社がライトレールの橋梁用資材を供給した。
52 不動産会社は入植地内の不動産をイスラエル人や国際的な買い手に販売している。世界的な不動産グループであるケラー・ウィリアムズ・リアルティは、イスラエルのフランチャイズ事業者であるKWイスラエルを通じて入植地内に支店を展開している。2024年3月、ケラー・ウィリアムズは別のフランチャイズ事業者であるホーム・イン・イスラエルを通じ、入植地で数千戸の住宅を開発・販売する複数の企業と共同で、カナダおよびアメリカ合衆国で巡回説明会を開催した。
天然資源の掌握──破壊を意図した生活条件の創出装置
53 1967年以来、イスラエルはパレスチナの天然資源を体系的に支配し、入植地を自国の国家システムに統合するインフラを構築し、パレスチナ人がそれに依存せざるを得ない構造を恒常化してきた。
54 2023年10月9日、イスラエルのヨアヴ・ガラント国防相がガザ地区に対する「完全封鎖」を命じ、水・電気・燃料の供給を即座に遮断したとき、生命の支配と排除を目的として意図的に創出されたこの依存構造は、ジェノサイドを実行可能とした。これらの供給はいまだに完全復旧されておらず、パレスチナ人という集団の破滅を企図した生活条件の創出に加担している。これもまた、2023年10月以降に強化されたヨルダン川西岸における資源支配が、ガザ地区で進行中の破壊と切り離して考えられない理由である。
水
55 イスラエル軍はパレスチナ人に対し、自治区にある2つの主要な地下水層から採取された水を、高額かつ断続的な供給の下で購入することを強いている。イスラエルの国営水道会社メコロットは、被占領地パレスチナにおいて水の独占的な供給権を握っている。ガザ地区では沿岸部帯水層の水の97%以上が世界保健機関(WHO)の水質基準を満たしておらず、住民は飲料水の大部分をメコロットの送水管に依存している。2023年10月以降の少なくとも最初の6カ月間、メコロットはガザ地区の送水管を22%の容量で運用し、ガザ市などの地域では95%の時間、水が供給されなかった。この状況は、水をジェノサイドの道具として積極的に転化させるものだった。
電気・ガス・燃料
56 国際的なエネルギー企業は、膨大なエネルギー消費を伴うイスラエルのジェノサイドを後押ししてきた。イスラエルは燃料や石炭の輸入に依存しながら、自国および被占領地パレスチナを一体化したエネルギーインフラを維持し、違法な入植者には絶え間なく電力を供給する1方で、パレスチナ人のアクセスを制御・妨害している。ガザ地区の発電所は、地区内の電力需要の10~20%しか供給できず、発電機用の燃料とイスラエルの10本の送電線に大きく依存していた。2023年10月以降、イスラエルはガザ地区の大部分の電力供給を遮断した。電力も燃料もない中、大半の給水ポンプ、病院、交通機関は壊滅寸前に追い込まれた。下水処理システムの崩壊はポリオの再流行を引き起こし、重要な海水淡水化プラントも停止を余儀なくされた。
57 イスラエルの発電用石炭は主にコロンビアから輸入されており(2023~24年のイスラエルの石炭輸入量の60%)、米国に本社を置くドラモンド・カンパニーとスイスに本社を置くグレンコアが主要な供給元となっている。それぞれの子会社は鉱山および2023年10月以降のイスラエルに対する15回の石炭輸送に関わる3つの港湾を所有している。この15回の輸送には、2024年8月にコロンビアがイスラエルへの石炭輸出を停止した後に行なわれた6回の輸送も含まれる。グレンコアは南アフリカからの輸入にも関与していた。南アフリカは2023年および2024年のイスラエルの石炭輸入量の15%を占めていた。
58 アメリカ合衆国のシェブロン社は、イスラエルのニューメッド・エナジー(OHCHRデータベースに掲載されているデレク・グループの傘下企業)とのコンソーシアムを通じて、レヴィアタンおよびタマルのガス田から天然ガスを採掘し、2023年にはイスラエル政府に対し、採掘料および税金として4億5300万ドルを支払った。シェブロンのコンソーシアムは、イスラエルのエネルギー消費量の70%以上を供給している。また、シェブロンはパレスチナ海域を通過する東地中海ガスパイプラインの共同所有であり、エジプトやヨルダンへのガス輸出からも収益を得ている。ガザの海上封鎖は、イスラエルがタマルからのガス供給および東地中海ガスパイプラインの確保を図る動きと連動している。暴力が激化する中、英国のBP社はイスラエル経済への関与を拡大しており、2025年3月に承認された探査ライセンスにより、イスラエルが違法に搾取しているパレスチナ海域での探査が可能となった。
59 BPとシェブロンは、戦略的パイプラインであるアゼルバイジャンのバクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)パイプラインおよびカザフスタンのカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)、ならびにそれらに付随する油田の主要所有者として、イスラエルの原油輸入における最大の供給元となっている。両コングロマリットは、2023年10月から2024年7月までの間にイスラエルに供給された原油の実質8%を占めており、これに加えて、ブラジルの油田(ペトロブラスが最大株主)からの原油輸送や軍用ジェット燃料が補完的に供給されている。これらの企業による原油は、イスラエル国内の2つの製油所に供給されている。ハイファ製油所からは、OHCHRデータベース掲載企業二社が政府契約に基づき、イスラエル全土および入植地を含む被占領地パレスチナに展開する自社スタンドや軍に供給を行なっている。アシュドッド製油所からは、O
HCHRデータベース掲載企業パズ・リテール・アンド・エナジーの子会社が、ガザ地区に展開するイスラエル空軍にジェット燃料を供給している。
60 企業はイスラエルに石炭・ガス・石油・燃料を供給することにより、同国が永久的な併合を強化するために活用し、現在ではガザ地区におけるパレスチナ人の生活破壊の手段として武器化している民間インフラの構築に加担している。まさにこれらの企業が資源を供給するインフラは、イスラエル軍とそのエネルギー集約型かつテクノロジー主導型のガザ壊滅作戦を支えてきた。こうしたインフラは表向きは民生用であっても、それが企業を免責することにはならない。
不法利得の取引
■アグリビジネス
61 アグリビジネスは、イスラエル主導の資源収奪と土地収奪によって繁栄してきた。イスラエルの入植者植民地主義的利益に資する製品や技術を生産しつつ、市場支配を拡大し、国際投資を呼び込む一方で、パレスチナの食料システムを消滅させ、強制移転を加速させてきた。
62 現在、中国の食品企業ブライト・フード(グループ)が過半数株主となっているイスラエル最大の食品コングロマリットであるトゥヌヴァは、土地の強奪を助長し、そこから利益を得てきた。トゥヌヴァの会長は「農業全般、特に酪農は戦略的資源であり、入植事業における重要な柱である」と認めている。イスラエルはパレスチナ人の土地を接収し、彼らに取って代わるために、キブツや農業前哨拠点を利用してきた。トゥヌヴァのような企業は、こうした入植地から製品を調達することで入植事業を支援し、その結果形成されたパレスチナ人に閉ざされた市場を利用して、独占的支配を強めている。2014年にイスラエルがガザの酪農業を破壊して以降の10年間で、イスラエルの酪農産業へのパレスチナ人の依存度は160%増加し、業界全体で推計4300万ドルの損失が生じた。トゥヌヴァはガザ市場の損失を吸収したが、状況に影響を及ぼし得る大きな影響力を行使することはなかった。
63 点滴灌漑技術の世界的リーダー企業ネタフィムは現在、メキシコのオルビア・アドバンス社が80%を保有しており、イスラエルの拡大政策と協調して農業技術の開発を進めてきた。ネタフィムは持続可能性を重視する企業というグローバルイメージを維持しつつ、その技術によってヨルダン川西岸の水資源と土地の集中的搾取を可能にし、パレスチナの天然資源をいっそう枯渇させながら、イスラエルの軍事技術企業との協力を通じてその技術を改良してきた。ヨルダン渓谷では、ネタフィムが支援する灌漑システムがイスラエルの農地拡大を促進している一方、土地の93%が灌漑されていないパレスチナの農民は水の供給を拒まれ、イスラエルの生産と競争できずに排除されている。さらに、こうした灌漑技術はヨルダン川と死海の枯渇を招く脅威となっている。
64 トゥヌヴァやネタフィムといった企業は、イスラエルの食料安全保障を支え続けている一方、彼らが属する食料システムは他者に食料不安、さらには飢饉をもたらしている。ネタフィムは自らを持続可能性を追求するイノベーターと位置付けつつ、植民地主義的搾取という古典的な手法をさらに洗練させている。
■グローバル小売業
65 入植地で生産されたものを含むイスラエル製品は、大手小売業者を通じて世界市場に氾濫しているが、それらはしばしば十分な審査を受けずに流通している。企業は高まる批判を回避するために、誤解を招くラベル表示やバーコード、供給網の混合などによって生産地を偽装しており、これにより占領地産品が当然のように流通している状況が既成事実化されている。
66 国際物流大手のA・P・モラー・マースクは、このエコシステムに不可欠な存在である。同社は長年にわたり、入植地から出荷された製品やOHCHRデータベース掲載企業の製品を、米国やその他の市場へ直接輸送してきた。
67 多くの国では、イスラエル産の製品と入植地産の製品の区別がなされていない。表示義務がある欧州連合(E
U)でさえ、これらの製品の流通を許容しており、その責任は十分な情報を持たない消費者に転嫁されている。国際法上、入植地の違法性が認められている以上、これらの製品は取引されるべきではない。
68 多くのOHCHRデータベース掲載企業を含むスーパーマーケットチェーンや、アマゾン・ドットコムなどの電子商取引プラットフォームは、入植地内で直接事業を展開し、入植地経済の維持・拡大に寄与するとともに、差別的なサービス提供を通じてアパルトヘイトに加担している。
■占領地観光
69 宿泊予約に多くの人が利用するオンライン旅行プラットフォーム大手は、入植地を支え、パレスチナ人を排除し、入植者の言説を宣伝し、併合を正当化する観光を販売することで、占領から利益を得ている。
70 ブッキング・ホールディングスとAirbnb(エアビーアンドビー)は、イスラエルの入植地にある物件やホテルの客室を掲載している。ブッキング・ドットコムのヨルダン川西岸物件掲載数は、2018年の26件から2023年5月には70件へと倍増以上の増加を見せ、東エルサレムの物件掲載数も2023年10月以降の1年間で39件と3倍になった。Airbnbも入植地での利益拡大を図り、掲載物件数は2016年の139件から、2025年には350件に増え、最大23%の手数料を徴収している。これらの掲載物件は、パレスチナ人に対する土地へのアクセス制限や、近隣集落の安全に対する脅威と結びついている。テコアでは、Airbnbが入植者による「温かく愛に満ちたコミュニティー」との宣伝を可能にし、隣接するパレスチナ人の村トゥクアに対する入植者の暴力行為を隠蔽している。
71 ブッキング・ドットコムとAirbnbは2020年以降、OHCHRのデータベースに掲載されている。ブッキング・ドットコムは「パレスチナ領、イスラエルの入植地」と表示することもあるが、入植地から依然として利益を得ており、オランダ王国では収益の資金洗浄容疑で刑事告発されている。Airbnbは2018年に一時、違法な入植地物件の掲載を取り下げたが、圧力を受けて方針転換し、現在では利益を「人道的」目的に寄付することで、入植地からの不当利得を覆い隠している。
C 加担者
72 金融、研究、法律、コンサルティング、メディア、広告企業などは、知識、言説、技能、投資を通じて、入植者植民地主義に基づく占領を長年にわたり支えてきた。加担者たるこうした企業は現在に至るまで、ジェノサイド遂行態勢で稼働する経済を支援し、そこから利益を得るとともに、それを常態化させてきた。本セクションでは、こうした加担者のうち、金融部門と学術部門という2つの主要分野に焦点を当てる。
侵害行為への資金提供
73 金融部門は、多くの企業が「責任投資原則」や「国連グローバル・コンパクト」への支持を表明しているにもかかわらず、イスラエルによる占領とアパルトヘイトの背後にある国家および法人組織に対し、重要な資金を提供し続けている。
74 イスラエルの国家予算の主要な資金源である国債は、現在進行中のガザ攻撃を支える資金調達において極めて重要な役割を担ってきた。イスラエルの軍事予算は、2022年から2024年の間にGDP比4・2%から8・3%へと急増し、その結果、公的財政は6・8%の赤字に陥った。イスラエルはこの膨張した予算を賄うために国債の発行を拡大し、2024年3月に80億ドル、2025年2月には50億ドルを発行した他、国内市場でも新シェケル建債を発行した。BNPパリバやバークレイズなどの世界最大手銀行がこれら国際・国内の国債を引き受け、市場の信任を下支えすることで、イスラエルは信用格付けの引き下げにもかかわらず、金利プレミアムの上昇を抑制し得た。こうした国債を購入した36カ国の少なくとも400の投資家には、ブラックロック(6800万ドル)、バンガード(5億4600万ドル)、アリアンツ傘下の資産運用子会社P
IMCO(9億6000万ドル)といった資産運用会社も含まれていた。一方、イスラエル開発公社(通称イスラエル・ボンズ)は、海外の個人投資家およびその他の投資家に向けて、イスラエル政府の国債購入を勧誘する業務を担っている。同公社は2023年10月以降、年間の国債販売額を3倍に増やし、これまでに約50億ドルをイスラエルに流入させた。さらに投資家には、国債投資による収益をイスラエル軍や入植地支援の慈善団体に送るという選択肢も提供している。
75 これらの金融機関は、イスラエル政府が発行する国債および、占領とジェノサイドに直接関与する企業に数十億ドルを投入している。ブラックロック(子会社のiシェアーズを含む)やバンガードは、多くの企業において最大級の機関投資家であり、投資信託や上場投資信託(ETF)の構成銘柄に組み込むために、そうした企業の株式を保有している。ブラックロックは、パランティア(8・6%)、マイクロソフト(7・8%)、アマゾン・ドットコム(6・6%)、アルファベット(6・6%)、IBM(8・6%)にとって第2位の機関投資家であり、ロッキード・マーティン(7・2%)およびキャタピラー(7・5%)においては第3位の機関投資家である。バンガードは、キャタピラー(9・8%)、シェブロン(8・9%)、パランティア(9・1%)にとって最大の機関投資家であり、ロッキード・マーティン(9・2%)およびエルビット・システムズ(2・0%)では第2位の機関投資家である。これらの企業は資産運用を通じて、大学や年金基金、さらには投資信託やETFの購入によって貯蓄を間接的に運用している一般市民をも意図せず関与させている。こうした資産運用会社は、投資判断に際して多くの場合、金融サービス企業が作成したベンチマーク指数(例:FTSEオールワールドex‐US指数、J・P・モルガン・米ドル建て新興市場社債UCITS、MSCIACWIUCITSなど)を参照している。
76 アリアンツやアクサを含む世界的大手保険会社もまた、占領およびジェノサイドに関与する株式や債券に多額の資金を投じている。これらの投資は、一部は保険契約者からの請求に備える資本準備金や規制上の要件を満たすためであるが、主な目的は収益の獲得である。アリアンツは本報告書に列挙された追跡対象企業に関連して少なくとも73億ドルの資産を保有し、アクサは一部撤退の動きがあるものの、依然として同様の企業に少なくとも40億9000万ドルを投資している。これらの保険契約はまた、他の企業がイスラエルおよびその占領地パレスチナで事業を展開する際に必然的に負うリスクを保証しており、それによって人権侵害の実行を可能にし、事業環境のリスク軽減を促している。
77 政府系ファンドや年金基金もまた重要な資金供給者である。世界最大の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金は、自ら「世界で最も包括的な倫理ガイドラインを有する」と主張している。しかし2023年10月以降、同基金のイスラエル企業への投資額は32%増加し、19億ドルに達した。同基金は2024年末時点で、本報告書に記載された企業に対するものだけで1215億ドル、すなわち総資産の6・9%を投資していた。カナダ人600万人の年金資金、総額4733億カナダドル(3289億米ドル)を運用するケベック州貯蓄投資公庫(CDPQ)は、持続可能な投資方針および人権方針を掲げているにもかかわらず、本報告書に記載された企業に約96億カナダドル(66億7000万米ドル)を投資している。2023年から2024年にかけて、同基金はロッキード・マーティンへの投資をほぼ3倍に、キャタピラーへの投資を4倍に、HD現代への投資を10倍に増加させた。
78 金融セクターはまた、企業が資金を調達するために直接融資を行なったり、社債の引き受けをして、債券市場で社債を売却できるようにしたりしている。2021年から2023年にかけて、BNPパリバはイスラエルに武器を供給する兵器産業に対する欧州有数の金融機関であり、レオナルド社などに4億1000万ドルの融資を行なうとともに、OHCHRデータベース掲載企業に対し52億ドルの融資および社債の引き受けを実施した。同様に、2024年にはバークレイズがOHCHRデータベース掲載企業に対し20億ドルの融資および引き受けを行ない、ロッキード・マーティンに8億6200万ドル、レオナルドに2億2800万ドルを提供した。
79 この直接投資を支えているのは、金融コンサルティング企業や責任投資団体が、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の評価において被占領地パレスチナにおける人権侵害を考慮しない方針を採っていることである。その結果、責任投資/道徳ファンドは、イスラエル国債や、被占領地パレスチナでの侵害行為に関与する企業の株式に投資しながらも、ESG基準に準拠しているとみなされつづけている。
80 こうした市場環境の下でガザ攻撃開始以降、テルアビブ証券取引所の上場企業の株価(米ドル換算)は記録的な179%の上昇となり、評価額は総額1579億ドルの増加となった。
81 宗教系慈善団体もまた、被占領地パレスチナを含む違法プロジェクトの重要な資金提供者となっており、慈善活動を規制する厳格な枠組みが存在するにもかかわらず、イスラエル以外の国々で税控除を受けていることが多い。ユダヤ民族基金(JNF)および20を超える関連団体は、入植地の拡張や軍事関連するプロジェクトに資金提供している。2023年10月以降、「IsraelGives(イスラエル・ギブズ)」などのプラットフォームを通じ、イスラエル軍や入植者に対するクラウドファンディングが32カ国で税控除の対象となっている。米国に拠点を置く「クリスチャン・フレンズ・オブ・イスラエリ・コミュニティーズ(CFOIC、イスラエル共同体と連帯するキリスト教徒)」、オランダの「クリスチャンズ・フォー・イスラエル(イスラエルのためのキリスト教徒)」および世界各地の関連団体は、2023年に計1225万ドル以上を入植地支援の各種プロジェクトに送金した。その中には、過激派入植者の訓練を行なうものも含まれている。
知識生産と侵害の正当化
82 イスラエルでは大学、特に法学部、考古学部、中東研究部門がアパルトヘイトの思想的支柱を形成する役割を担い、国家に沿った物語を作り上げ、パレスチナの歴史を抹消し、占領政策を正当化している。一方、理工系学部はイスラエル軍およびエルビット・システムズ、IAI、IBM、ロッキード・マーティンなどの軍需企業との共同研究・開発拠点として機能し、監視、群衆制御、都市戦闘、顔認識、標的殺害などに用いられる技術の開発に貢献している。こうした技術は事実上、パレスチナ人を対象に試験されている。
83 主要大学、特に世界の人口的少数派(グローバル・マイノリティー)国家[いわゆる先進国]の名門大学は、パレスチナ人に直接的な被害をもたらす分野でイスラエルの機関と連携している。マサチューセッツ工科大学(MIT)では、イスラエル国防省の資金提供による兵器や監視技術の研究が行なわれており、これは同大学において外国の軍事機関が資金を提供する唯一の研究である。イスラエル国防省の注目すべきプロジェクトには、2023年10月以降のガザ攻撃の特徴であるドローン群制御、追跡アルゴリズム、水中監視などが含まれる。2019年から2024年にかけて、同大学はロッキード・マーティンの初期研究支援金(シードファンド)を通じ、学生とイスラエルの研究チームをつないできた。2017年から2025年には、エルビット・システムズが同大学の産学連携プログラムの参加費を支払い、研究成果や人材へのアクセスを得ている。
84 欧州委員会のプログラム「ホライズン・ヨーロッパ」は、アパルトヘイトやジェノサイドに加担する機関を含むイスラエル機関との協力を積極的に支援している。2014年以降、欧州委員会は国防省を含むイスラエルの機関に対し、21億2000万ユーロ(24億米ドル)を超える資金を助成してきた。一方、欧州の学術機関はこうした緊密な関係から利益を得るとともに、さらに関係を強化している。ミュンヘン工科大学は、欧州委員会の「ホライズン・ヨーロッパ」から1億9850万ユーロ(2億1800万ドル)を受け取り、そのうち1147万ユーロ(1260万ドル)が軍事・技術企業を含むイスラエルのパートナーとの共同研究22件に充てられている。同大学とイスラエル・エアロスペース・インダストリーズ(IAI)は、ガザで使用されるIAI製軍用ドローンに関連するグリーン水素供給技術を他の参加者と共同開発するために79万2795・75ユーロ(86万8416ドル)を受け取っている。同大学は差別的なイスラエル人口登録システムを運営するIBMイスラエルと、クラウドおよびAIシステム分野で提携しており、これはIBMイスラエルが「ホライズン・ヨーロッパ」から受けている775万ユーロ(852万ドル)の資金の1部である。同大学はまた、都市交通を通じて併合の恒常化を進めているエルサレム市を含む「シームレスな共有型都市モビリティ」に関する1076万ユーロ(1171万ドル)のプロジェクトにも協力している。イスラエルのパートナーがこれらの提携事業に貢献している専門知識を、彼らが関与する侵害行為において獲得・使用されている専門知識と切り離すことは不可能である。
85 2023年10月以降の軍事的緊張の高まりにもかかわらず、多くの大学がイスラエルとの関係を維持し続けている。英国の代表的事例の1つであるエディンバラ大学は、その基金の2・5%に相当する約2550万ポンド(3172万ドル)を、イスラエルの監視体制と現在進行中のガザ攻撃の中核を成す主要テクノロジー企業4社(アルファベット、アマゾン、マイクロソフト、IBM)に投資している。エディンバラ大学は直接投資およびインデックス投資の双方を通じ、英国においてイスラエルとの経済的結びつきが最も深い教育機関の1つに数えられている。同大学はまたレオナルドやベングリオン大学など、イスラエルの軍事作戦を支援する企業や大学と提携しており、ベングリオン大学のAI・データサイエンス研究所を介して、パレスチナ人に対する攻撃に直接結びつく研究成果を共有している。
86 本報告書における分析は、特別報告者が受け取った情報の氷山の一角に過ぎない。特別報告者は、大学の責任追及に取り組む学生や職員の重要な活動を高く評価している。本分析は、世界各地で行なわれている大学キャンパスでの抗議活動に対する弾圧に新たな光を当てており、その動機がいわゆる反ユダヤ主義との闘いではなく、イスラエルの擁護と大学・関係機関の財政的利益の保護にある可能性が高いことを示唆している。
V 結論
87 ガザ地区における生活が徹底的に破壊され、ヨルダン川西岸への攻撃が激化する中、本報告書はイスラエルによるジェノサイドがなぜ継続しているのか、その理由を明らかにしている。すなわち、それが多くの者にとって利益をもたらすからである。本報告書は、占領からジェノサイドへと転化した政治経済に光を当て、終わりなき占領が兵器メーカーや大手テクノロジー企業にとっていかに理想的な実験場となっているかを明らかにしている──そこには無限の需要と供給が存在し、監視はほぼ皆無で、責任は一切問われない──投資家および民間・公的機関は、そうした中で自由に利益を享受している。あまりにも多くの影響力ある法人組織が、イスラエルのアパルトヘイトと財政的に切り離せない関係にある。
88 2023年10月以降、イスラエルの防衛予算が倍増し、需要・生産・消費者信頼感がいずれも低下する中にあって、国際的な企業ネットワークがイスラエル経済を支えつづけている。ブラックロックおよびバンガードは、イスラエルのジェノサイド兵器体系にとって不可欠な軍需企業に対する最大級の投資家として名を連ねている。主要な国際金融機関はイスラエル国債を引き受け、その資金は破壊行為に充てられてきた。また、最大規模の政府系ファンドも公共・民間の貯蓄をイスラエルのジェノサイド経済に投資しており、いずれも倫理指針を尊重していると主張しつつ、そうした行為を続けている。
89 軍需企業は、ほぼ無防備な民間人の生活を破壊してきた最新鋭兵器をイスラエルに供給することで、記録的水準に迫る利益を上げている。世界的な大手建設機械企業の重機は、ガザ地区を一面の更地とし、パレスチナ人の帰還と生活再建を阻む上で決定的な役割を果たしてきた。資源・エネルギー分野の複合企業は、民間用のエネルギー源を提供する一方で、イスラエルの軍事およびエネルギーインフラを支えてきた。これらのインフラはいずれも、パレスチナ人の生活を破壊することを目的とした生活環境を生み出すために用いられている。
90 ジェノサイドが荒れ狂う中、東エルサレムを含むヨルダン川西岸における暴力的な併合プロセスは容赦なく進行している。アグリビジネスは入植地事業の拡大を支えつづけ、最大手のオンライン観光プラットフォームはイスラエルの入植地の違法性を常態化させ、世界中のスーパーマーケットはイスラエルの入植地製品を販売しつづけている。そして世界中の大学は、研究の中立性を装いながら、ジェノサイド遂行態勢にある経済から利益を得つづけている。実際、大学は入植者植民地主義への協力と資金提供に構造的に依存している。
91 企業活動は平然と続けられている。しかし、企業が不可欠な構成要素を成すこのシステムにおいて、中立的なものなど一切存在しない。人種資本主義(レイシャル・キャピタリズム)の根深い思想的・政治的・経済的原動力が、イスラエルによる占領体制における「排除と置き換えの経済」を、ジェノサイド経済へと変貌させた。これは「共同犯罪事業」にほかならず、個々の行為が最終的に、ジェノサイドを推進し、ジェノサイドに供給し、ジェノサイドを可能にする一体化した経済を形成している。
92 本報告書に記載された法人組織は、被占領地パレスチナにおける侵害行為や犯罪から利益を得、それらを可能にしている企業関与のはるかに深層的な構造の一端にすぎない。本来、法人組織がデューデリジェンスを適切に遂行していれば、はるか以前にイスラエルとの関与を断っていたはずである。今日、責任追及の緊急性はいっそう高まっている。なぜならば、いかなる投資も、重大な国際犯罪を構成する体制を支えているからである。
93 被占領地パレスチナにおけるイスラエルの違法な入植者植民地主義事業と、ビジネスと人権に関する義務は切り離せない。イスラエルの入植事業は、国際司法裁判所が完全かつ無条件の解体を命じたにもかかわらず、現在ではジェノサイドの装置として機能している。企業のイスラエルとの関係は、占領とアパルトヘイトが終了し、賠償が行なわれるまで断たれなければならない。企業セクターおよびその幹部は、ジェノサイドを終結させ、またそれを支える人種化された資本主義のグローバル体制を解体するための必要不可欠な一歩として、責任を追及されねばならない。
Ⅵ 提言
94 特別報告者は加盟国に対し、強く要請する
(a)イスラエルに対し、すべての既存の協定および技術や民生用重機などの軍民両用物資を含む制裁および全面的な武器禁輸措置を課すこと
(b)すべての貿易協定および投資関係を停止または防止し、パレスチナ人を危険にさらす可能性のある活動に関与する法人組織および個人に対し、資産凍結を含む制裁を課すこと
(c)法人組織に対し責任を厳格に追及し、国際法の重大な違反に関与した場合は確実に法的責任を負わせること
95 特別報告者は法人組織に対し、強く要請する
(a)国際的な企業責任および自己決定権に関する法に則り、パレスチナ人に対する人権侵害および国際犯罪に直接関与し、加担し、またはそれらを引き起こしているすべての事業活動を速やかに停止し、かつ関係を解消すること
(b)ポスト・アパルトヘイト期の南アフリカにおけるアパルトヘイト富裕税に倣った形態を含め、パレスチナ人に対して賠償を支払うこと
96 特別報告者は国際刑事裁判所(ICC)および各国の司法機関に対し、国際犯罪の遂行およびそれに伴う犯罪収益の洗浄に関与した法人組織幹部および/または法人組織を捜査・訴追するよう強く要請する。
97 特別報告者は国際連合に対し、強く要請する
(a)2024年の国際司法裁判所(ICJ)勧告的意見を遵守すること
(b)イスラエルによる不法占領に関与するすべての法人組織を、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のデータベースに記載し、同データベースをOHCHRのウェブサイトで適切に閲覧可能にすること。
98 特別報告者は、労働組合、法律家、市民社会および一般市民に対し、国際・国内レベルにおいてボイコットや投資引き揚げ、制裁の実施、パレスチナのための正義の実現と責任追及を求めて行動するよう強く呼び掛ける。世界の人々が結束すれば、この言語に絶する犯罪を終わらせることができる。
99 本報告書は、深遠かつ激動する変革の瀬戸際にあって執筆された。世界が目撃している残虐行為には、緊急の責任追及と正義の実現が不可欠であり、大量殺戮へと変質した占領経済を維持し、そこから利益を得てきた者たちに対し、外交的・経済的・法的措置を講じることが求められている。今後の展開は、すべての人々の手に委ねられている。
1 本報告書における「法人組織(corporate entities)」とは、民営・公営・国営の別を問わない、多国籍のものを含む企業、および営利・非営利の事業体を指す。法人組織の責任は、その規模、業種、活動状況、所有形態、組織構造にかかわらず適用される。〔報告書原文、Ⅱ「方法論」5項に記載〕
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