『地平』2025年4月号

熊谷伸一郎(『地平』編集長)
2025/03/02

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編集後記 

 今月の校了作業は、通常の月以上にドタバタだった。2月の短さを、今さらながら、なめていたというのが一つ。なんで2月だけが短いのか、お隣の1月と3月から1日ずつもらって平準化すればいいのではないか、天皇誕生日の休みなどいらぬ、とボヤいたところで意味はなかった。もう一つは、今号の特集でなるべく各地からの報告を多く入れたいと思い、記事の数が増えたこと。技術的なことでいえば、10頁の原稿1つと5頁の原稿2つであれば、ページ数は変わらずとも、執筆者の方々とのやりとりなどは2倍になる。だが、時間不足で特集に含められなかった地域も多い。石垣・宮古・奄美などだが、続報していきたい。

 校了直前、政府は新しいエネルギー基本計画を閣議決定し、原発を推進する路線を確定した。前号で、もはや補助金なくして成立しない原子力産業の「終活」を特集したが、原子力ムラの巻き返しが功を奏す形になった。審議会に顔を並べる関連産業の代表者や御用学者、経産省の官僚、あるいは再稼働をすすめる政治家やメディア関係者は、今後、3・11と同様の事故、同じ過ちが繰り返されても、自分だけは責任を問われないとでも思っているのだろうか。

 まったく同じことが、急速に進められる戦争準備についても言える。今号の特集を準備していて、驚き、憤ることばかりだった。たとえば、塚崎昌平氏、山田和幸氏、小嶺博泉氏(座談会)の各テキストで語られる与那国島の状況が象徴的だ。戦争の反省にもとづき積み重ねられた80年の不戦がいつ崩されるかわからない状況だが、また同じ過ちを繰り返すつもりか、と思う。

 さて、嬉しいニュースについても触れたい。小社から刊行した東海林智さんの『ルポ 低賃金』が貧困ジャーナリズム賞の特別賞を受賞した。貧困と労働に真摯に向き合ってきた東海林さんのジャーナリズムが評価されたものだ。おおむね、賞というのは、「上」から与えられるものは下らないし、コマーシャリズムのものは浅ましい。だが、この賞は、素直に嬉しい。評価してほしい方々に評価してもらえた、という気がする。

 貧困は、この国でさらに厳しい。実質賃金が下がりつづけ、軍事費拡大のあおりで税と社会保障費の負担が増えているのだから、当然の帰結だ。このような状況で本誌を支えてくださる方々に、誌面のさらなる充実でお応えしていきたいと思う。

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熊谷伸一郎

(くまがい・しんいちろう)月刊『地平』編集長。株式会社地平社代表取締役。1976年8月生まれ。フリージャーナリストを経て2007年、岩波書店『世界』編集部に参加。2018年7月から2022年9月まで同誌編集長をつとめる。2023年7月、独立のため退職。著書に『なぜ加害を語るのか』(岩波ブックレット)、『反日とは何か』(中公新書ラクレ)、『金子さんの戦争』(リトルモア)、『私たちが戦後の責任を受けとめる30の視点』(合同出版)、坂本龍一氏らとの共著に『非戦』(幻冬舎)など。

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