『地平』2025年3月号

熊谷伸一郎(『地平』編集長)
2025/02/05

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編集後記

 イスラエルとハマスとの6週間の「停戦」が成立した。イスラエル軍の殺戮を生き延びた人々は、いま、破壊し尽くされた街で何を思うだろう。殺害された何万ものパレスチナの人々、とりわけ子どもたちのことを思うと、停戦を言祝ぐ気にはとてもなれない。今号で早尾貴紀氏が書いているように、イスラエルはヨルダン川西岸への侵出を強めている。批判を弱めてはいけないと思う。

 その野蛮な軍事作戦で「性能」が検証されたというイスラエル製「自爆ドローン」の購入を防衛省が予算案に計上した。昨年11月号の特集などで触れてきたが、これは倫理的に許されないはずだ。イスラエル製でなければよいわけではないが、それだけはやめてほしいという一線だ。

 トランプ政権が発足し、また「同盟国」への軍拡の圧力が強まる。 GDPの5%という数字さえ聞かれる。日本でいえば30兆円だ。恐ろしいのは、従米以外の振り付けを忘れた与党と官僚、野党とマスメディアの大部分がそれを受け入れかねないことだ。そうなれば社会福祉や教育、医療などはさらに壊滅的打撃を受けることになる。日本は「安全保障環境の一層の変化」「同盟国との関係強化」とお題目を唱えながら、アメリカ製の武器を抱えて亡国への道をまっすぐに進んでいくこととなろう。

 アメリカの軍事産業に我々の税金を献上しつつ没落していくだけならまだよい。最悪なのは、その尖兵として中国など隣国との戦争に駆り出されることだ。実際、南西諸島や九州など西日本を中心に軍備強化が着々と進められている。再び隣国と戦火を交えるという過ちだけは繰り返してはならない。

 こういう状況であれば、治安維持法100年の特集を、「過去の悪法」として振り返るだけの内容にできないことは自明だ。「経済安保」の国策のもと警察が事件を捏造した大川原化工機のケースは象徴的だが、戦前的発想を払拭できていない警察の現状を今後も報じていきたい。戦前と異なるのは、「もの言う」市民がまだまだ存在することだ。その点で市民の力と司法の良識が公安警察の活動に制約をかけた大垣事件に注目したい。青木理氏の新連載にもご期待を。

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熊谷伸一郎

(くまがい・しんいちろう)月刊『地平』編集長。株式会社地平社代表取締役。1976年8月生まれ。フリージャーナリストを経て2007年、岩波書店『世界』編集部に参加。2018年7月から2022年9月まで同誌編集長をつとめる。2023年7月、独立のため退職。著書に『なぜ加害を語るのか』(岩波ブックレット)、『反日とは何か』(中公新書ラクレ)、『金子さんの戦争』(リトルモア)、『私たちが戦後の責任を受けとめる30の視点』(合同出版)、坂本龍一氏らとの共著に『非戦』(幻冬舎)など。

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