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非正規公務員たちを取材していて、判で押したように話題にのぼるのが、職場でのハラスメント体験だ。民間企業でのハラスメントやいじめが労働相談のトップを占める時代に、非正規公務員にハラスメントがあっても別に不思議ではないのでは、という声も出てきそうだ。だが、民間と異なるのは、行政でのハラスメントを監視・指導するのは行政自身、という点だ。「泥棒が警官役」とも見えるこの構造が、非正規公務員を追い詰める。
ハラスメントは「捉え方の問題」
2020年、ウヅキは、新聞社の取材に実名で応じる決心をした。国の非正規公務員である「期間業務職員」として1年契約を反復更新し、ハローワークで就職相談にあたってきた。だが、3年を上限にいっせいに任用を打ち切り、あらためて公募しなおす「3年公募」制度などの非正規公務員の働き方の矛盾に、これ以上は黙っていられない思いに駆られたからだ。
同僚の非正規公務員たちの間では、次の任用があるかどうか不安を抱き、3年目の公募が近づくとメンタルの不調を起こす例が続出していた。公募の際に誰が残るかをめぐり、上司に同僚の告げ口をするなど、足の引っ張り合いも激しくなった。
公務職の効率アップを旗印に、ここ数年、ハローワークの現場には就職達成件数の数字がノルマのように降りてくるようになっていた。件数を増やすだけなら、労働条件が過酷でやめる社員が多くいつも求人している企業を紹介すれば簡単だ。市民のためには、良質の就職先が見つかるまでじっくり相談に乗りたい。だが、3年公募で残るため、安易な手法に追い込まれていく例も珍しくない。そんなやり方に異論があっても、上司や正規職員に異論を唱えることはご法度という空気に縛られ、声が出せない。
ウヅキの疑問が実名で報道された後、仲のいい非正規仲間が蒼い顔でやってきた。正規職員たちの間で「職場を批判するような生意気な奴を辞めさせろ」「あいつはテロリストだ」といった会話が交わされているという。廊下で元上司とすれ違いざまに、「ヤメロ!」とも言われた。やがて、仕事の担当を外されて座っているだけになり、高い衝立で仕切られて誰からも見えない席に移動させられた。
この体験のあと、ウヅキは、実名での発言を再び控えるようになった。ウヅキへの正規職員の態度を見て、上司の一方的な命令に疑問を抱いていた非正規たちも、「正規職員には同調しなければならない」「関わると自分が雇止めになる」という態度へと急変した。同僚との食事会にも声がかからなくなり、LINEも切られた。
思い切って、上部機関である厚生労働省のハラスメント相談窓口に訴えた。だが、「ハラスメントをしたとされる本人に聞き取りをしたが、やっていないという。ハラスメントはなかったという結果になった」と返事が来た。
国家公務員の人事施策をつかさどる人事院の相談窓口にも訴えたが、「判断するのは所属する部署の上司なので」と言われ、ハローワークを所管する労働局の相談窓口に戻ってきてしまった。










