見えない公的セクター
元タレントの中居正広氏の女性への性加害問題をめぐり、フジテレビの第三者委員会は「業務の延長線上における性暴力」と認定した。単にプライベートな問題ではなく、フジテレビという企業の体質に深く根差し、しかも日本のメディア・エンターテインメント業界全体にはびこる構造的な問題と指摘している。
この構造的な問題とは、女性に対する賃金・昇進における差別、男性偏重の意思決定過程などである。これはまさに、長年にわたって日本が国連の女性差別撤廃委員会をはじめとする国際社会から改善を繰り返し勧告されてきたことにほかならない。
旧ジャニーズ事務所における性加害問題にも共通する構造として、国(政府)が被害者の救済に積極的に動こうとした形跡は見られない。だが、国際的に見れば、国が設置する国家(内)人権機関が主導的に対応すべきケースである。2023年に来日し、旧ジャニーズ問題などを調査した国連「ビジネスと人権」作業部会が公表した報告でも、救済制度の不備は指摘され、国家人権機関の設置が勧告された。
こうした救済制度の整備と運用が状況の改善に資することは明らかだと思われるが、日本政府の動きはきわめて鈍い。国際的に報道されるほどに注目される性暴力事件が日本で繰り返される要因とその背景に、こうした日本政府の人権問題に対する取組の弱さと独特の対応があるのではないか。
そこで、今回のフジテレビにおける性加害問題を国際人権保障制度の視点からあらためて検証してみよう。