高市早苗首相(自民党総裁)が率いる自民党が、二月八日投開票の衆院選で「三分の二」の議席を獲得した。衆院選後に起こることに、メディアや市民はどんな心構えを持てばよいのか。
元広島市長の平岡敬さん(九八)が二月一五日、広島市の「Social Book Cafeハチドリ舎」で講演した。中国新聞の記者や編集局長、中国放送社長を経験し、いまも現役記者たちと日本酒を酌み交わしている平岡さん。各地の記者が参加する中、「このままいけば戦争したくなくても戦争が起こる可能性がある」と警鐘を鳴らした。講演での主な平岡さんの話を紹介する。
保守政権の教育
この結果、大変びっくりしましたね。高市さんが勝ったというよりは、むしろ、中道改革連合が負けて、今の選挙制度の中で大差がついた。でも、二、三日経ち、なぜこうなったかということをやっぱり考えなきゃいけないなと私なりに考えましたが、長い保守政権のいわゆる国民教育が実を得てきたのかなと。
私はかねてから、「平和への道を開くのも、戦争への道をたどるのも、教育とマスコミのせい」と言ってきましたが、戦後ずっと日本の保守勢力は、教育に手を突っ込んできた。第二次安倍政権の間に顕著になりましたが、若い人たちの歴史観を変えていこうということが、いま実ってきたんじゃないかという気がします。
そして、格差社会が広がって、絶望してきた若い層が「支配されること」を苦痛に思わなくなった。むしろ強い人、強い発言を求め、高市さんの威勢のいい言葉に惹かれていったんじゃないだろうか。
昨年一〇月、高市さんが自民党総裁になった時に、共同通信から「何を期待しますか」と取材を受けました。私は「期待はしない。むしろ不安が先に立つ」と言った。一つは外交問題、中国の問題。もう一つは、メディアに対する抑圧というか、弾圧が強まるだろうと。おそらく弱者が切り捨てられる政治が起こるんじゃないか、と言った。
最初の一つ、中国については、不安はすぐ当たりました。(台湾有事をめぐり「存立危機事態になりうる」といった国会答弁は)取り消せば何でもなかったが、右翼の支持をつなぎとめたいばかりに取り消さなかった。高市さんの言う外交は、ただアメリカに追随していく。おそらく三月にトランプさんと会い、そこで大きな荷物を背負わされることになるんだろう。たぶん軍事費の増大です。
広島サミットの罪
安倍さんの時代に、中国を敵視するということで、二〇一六年から沖縄の与那国島に基地を作り始めました。それから、宮古島、石垣島と南西諸島の基地化が進んでいますが、その基地へ配備するのはトマホークです。
二〇二二年ごろからアメリカから買う交渉を始めていますが、トマホークは核を積める兵器です。そして、二〇二三年に広島で開かれたG7サミットで「広島ビジョン」が発表されて、日本が核抑止力を認めることになった。トマホークに核を積むためには、日本が核武装するきっかけを作らなきゃいけないが、それが広島サミットの核抑止力容認だったと思います。それで拍車がかかり、沖縄の基地化がどんどん進んだと私は見ているんです。
米国はとにかく中国を抑えたいと思っています。そのためには日本を使おう、ということもあったんでしょう。首相を辞めた安倍さんが「台湾有事」をあおり立てた。
そして、二〇二二年に岸田政権が安保三文書を改定しました。はっきりと中国を敵視する敵基地攻撃の概念を持ち出した。私は、日本を「専守防衛」から、いわゆる「戦争ができる国」へと道を開いたのは、(広島選出の)岸田さんだと思っています。そのことについて、広島は非常に鈍感でした。
中国との向き合い方
私たちは一九七二年の日中共同声明に立ち返らないといけないと思います。
共同声明で言ったことは大きく三つあります。一つは、中国の「唯一の合法政府」は中華人民共和国であること。裏返せば、台湾は内政問題であるということです。二つ目は、日本に対する賠償請求権を放棄したことです。これは非常に大きなことですが、皆さんあんまりそれを知らない。三つ目は、これからのいろんな問題は平和的に解決していきましょう、戦争はしませんよ、ということ。それをきちっと確定したのが、日中平和友好条約(一九七八年)です。あの時に中国から賠償請求をされたら、日本は大変困った状態になったでしょう。しかし、中国は賠償請求を放棄したのです。私たちは共同声明の精神をもういっぺん思い出さなきゃいけないと思います。仲が悪くなる要素はないんですよ、本来は。
やはり歴史を学ぶことが非常に大事です。日本は一五年戦争で、満州事変からずっと中国と戦ってきている。ほとんどの日本人は、米国と英国には負けたけれども、中国に負けたとは思っていない。中国と戦争したことすら意識の外にある。しかし、中国との戦争の行き詰まりが米英との戦争に至ったのです。中国への侵略、満州国を作ったことが間違いだった。
当時、マスコミも国民もはやしたてたが、今もそういう状況になりかねない。高市さんをはやしたてる。そうすると、高市さんはますます強いことを言わざるを得ない。言えば言うほど支持率が上がる。そういう状況が生まれているわけです。
スパイ防止法のおそろしさ
高市政権でこれから私が心配しているのは、スパイ防止法です。安全保障に関わる情報については、なんでも因縁をつけられるわけです。例えば、今みたいにちょっと中国寄りの発言をしたら、「中国の回し者」「敵ではないか」となるわけです。成立すると、マスコミも萎縮せざるをえない。批判ができなくなるわけで、スパイ防止法は絶対に防がなきゃいけない。戦前の治安維持法とよく似ています。国民の声を抑えつけ、軍事国家を完成させるため、最終的に憲法改正なんでしょうけど、スパイ防止法ができれば完全に政府の思うままになります。
弱みを握られたメディア
これからいったい、どうすればいいかということになるわけですが、(衆院で)三百いくつの議席を持った政権を止められる人は誰もいない。その中で止める役割を果たすのは、私はマスコミ、とくに新聞だろうと思います。
放送は、高市さんが総務大臣時代に停波発言で脅し、今でもびびっていると思います。しかし、新聞も実はびびっている。消費税の問題です。軽減税率(の宅配新聞への適用)は、なぜ自分たちが特権を得たのか、国民にはっきりと説明できない。安倍政権時代の「首相動静」を見たら、毎日のように新聞・放送のトップが(安倍首相と)飯を食っているわけですね。かつてはこういうことはなかった。あの頃からマスコミは丸め込まれ、その最たるものが消費税の軽減税率だと思っています。
私は(政権に)抵抗できるのは新聞だと思っていますが、新聞も弱みを握られている。振り切ったらいいが、今の経営者に勇気があるか、ないか。おそらくないでしょう。これは戦前と同じです。戦前もいろいろ抵抗した記者、新聞社もあったが、最終的には全部、国の言いなりにならざるを得なかった。紙の配給でのど頸を締めたということもあるし、同時に、当時の朝日新聞経営者の回想録を読むと、「従業員の生活を守るために政府の言うことを聞かざるを得なかった」という弁解をしています。そういう弁解を戦後もずっと繰り返してきたと思う。「まだ大丈夫だろう、まだ大丈夫だろう」と一歩ずつ下がってきて、今日のような状況が生まれた。
国会の歯止めが効かないとするならば、もうマスメディアしかないんです。SNSは金によっていくらでも動きますから。どれだけマスコミがブレーキをかけられるか。その覚悟は、やっぱり私たち一人一人、問われると思います。「現役じゃないからそんな気楽なことを言っているんだ」と皆さん思われるかもわかりませんが、みんなその時代、時代に悩んで抵抗してきている。そしてちょっと言い訳をしながら、ズルズルと下がってきた。しかしもう下がれません。このままいけば戦争したくなくても戦争が起こる可能性があるということなんです。
素直に怒る
「やっぱり従順だな」と今回の衆院選で思ったのは、例えば高市さんがNHKの日曜討論(での党首討論会)をすっぽかした件です。
選挙という大事なときに、その人の思想・政策・考え方を聞く討論会をすっぽかしたということは、大変なことなんです。言論を消して、選挙民を馬鹿にしているということなので、徹底的に批判しなければいけなかったが、(メディアは)通り一遍にちょっと報道していたが、批判しなかった。こういうところが、ズルズルと今日のような事態を招いたんだろうと思います。
(メディアの)現場の人はしんどいと思いますよ。一つは、孤立を恐れず、みんなと連帯していく。それを励ましてくれるのは何かと言ったら、本当は怒りなんです。私は国家に対して、ものすごい怒りを持っています。戦争、戦後の引き揚げ体験があり、見捨てられたという怒りが強くある。青臭いし、子どもっぽい言い方かもわかりませんけれども、マスコミには、不正義、理不尽なことへの怒りが一番必要で、素直に怒っていくことが大事だと思う。
SNSで「ママ、戦争止めてくるわ」というフレーズがすごく共感を呼んでいる。こういう感覚を取り戻さなきゃいけないですね。それを掘り起こしていくのがメディアの仕事なんです。「戦争反対」をわかりやすい言葉で言うことが、これから期待されるのではないかと思います。
「戦争できない国」の自覚を
日本は「戦争できない国」だということを、皆さん知らなきゃいけない。
「米がなくなった」と大騒動になりましたが、日本の食料自給率はカロリーベースで38%。それからエネルギーがない。石油は全部外国から入れなきゃいけない。さらに原発が五十数基、海岸沿いに並んでいる。こんな国が戦争できるはずないし、してはならない。そういうことを、もっとリアルに国民に言うべきだと思います。それを抜きにして、「中国はけしからん」「北朝鮮がやってくるぞ」と勇ましいことを言っても、自分たちの足もとを見なきゃいけない。
足もとを見るのは、大変つらいことです。日本はG7でも最低の国で、一人当たりのGDPは韓国に抜かれています。なぜ、そうなったのか。長く続いた自民党政治の責任を問わずに、ただ高市さんを持ち上げているだけでは、これは回復しないと思います。
米国との向き合い方
(中道改革連合の安住淳共同幹事長が、辺野古新基地建設をめぐり、「ストップは現実的ではない」と発言したことを参加者に問われ)中道が敗れた原因は、イメージの問題もあるが、変節したことです。辺野古を認めちゃった。これは間違いでした。言いつづけなきゃいけない政党が必要なんです。確かに日本は米国に抱きしめられていますが、やっぱり基地に対して反対だと言いつづけなきゃ駄目です。
本当は、対米独立しかないんですよ。非常に難しいことだけど、精神的にも米国から離れていくことをやらなきゃいけない。米国に頼っていればいいという戦後の日本政治は間違いで、自分たちの頭で考え、米国一辺倒から脱していく。そのためには、日本はやっぱり、中国と仲良くすることによって、両天秤でやっていくしかないと思います。
高市さんは口には出さないけど、軍国主義的な国家をつくりたいんでしょう。私たちはそれに対峙し、「こんな社会をつくりたい」ということをもっと提示していく必要がある。それが高市政治に対する対抗軸だと思います。例えば、広島は「核兵器廃絶」を言っていますが、何のためにやるのか。最終目標があるわけです。そういう理想的な社会像をわかりやすい言葉で提示していくということがこれからの仕事になるのではないかという気がします。









