【連載】歌舞伎町で。(6)世界各地の実践と議論に学ぶ

仁藤夢乃(一般社団法人Colabo代表)
2025/12/05
フランスで買春処罰法の制定に関わった元国会議員のモード・オリビエ氏と筆者。(提供筆者)

売春強要――逮捕された男女

 2025年10月、東京・池袋のガールズバーの店長ら男女2人が、売春防止法違反(管理売春)の疑いで逮捕された。報道によると、2人は共謀の上、20代のガールズバーの女性従業員を路上に立たせ、売春させていたという。

 男女は被害女性に「ブスで客がつかないから風俗で働くか立ちんぼするか選べ」などと言い、性売買スポットとなっている大久保公園周辺に立つように指示し、GPSで位置情報を監視していた。被害女性は2024年9月頃にそのガールズバーで勤務をはじめ、その2カ月後には店長に住居を無断で解約され、その後、店の一畳ほどしかないバックヤードで寝泊まりさせられていたという。そして、2025年4月ごろから3カ月間ほぼ毎日、多い日は1日約13人、計400人を相手に売春させられ、計600万円ほどを得て、その金のほとんどを店長らに渡していた。店長らは生活費として女性に1日3000円を渡し、女性の体形管理などを理由に購入したもののレシートを提出させて女性をコントロールしていたという。

 被害女性の体には20カ所以上の打撲痕があり、日常的に暴行されていたとみて警視庁が調べているとの報道や、「非常階段に店長からよく呼び出されシャンパンの瓶で頭を殴られたり、蹴られたりしていました」という元従業員の証言もある。被害女性は「身も心もぼろぼろで逃げる気力がなかった。人間として扱われていなかった」と話しているという。

 被害女性は売春目的で客待ちをしたとして、今年7月に、大久保公園の路上付近で売春防止法違反の現行犯逮捕をされていた。取り調べでははじめ、「生活費のためにやった」と嘘をついていたが、1カ月後には「指示を受けていた」と管理売春の実態を打ち明けたと報じられた。

性売買は人身売買である

 日本では、性売買が女性に対する暴力だと認識されておらず、被害者が売春防止法で逮捕されている。被害者が、加害者からグルーミングされていたり、報復を恐れていたり、虐待や借金や障害などの様々な背景から売春の状況にあることを自己責任や自己選択だと思わされていることから、警察には「生活費のため」「遊ぶ金のため」だったと話すこともよくあることだ。しかし、その背景に目を向けない報道が続いてきた。性売買が人身売買として認識されていないことが問題の根本にある。

 2025年11月には、タイ人の12歳の少女にマッサージ店で性売買をさせていたとして、経営者が逮捕された。少女は母親に店に置き去りにされ、1カ月で60人以上を相手に売春させられていた。少女が「捕まる覚悟」で入管に助けを求めたことで事件が発覚。事件を受けて、「娘を売るなんて」と母親を責める声があがっているが、母親は借金を背負い、日本以外の国でも性売買の「出稼ぎ」を繰り返し、少女と共に暮らしたことはほとんどなかったという報道もある。母親も性売買の被害者であり、もしもこの事件が、性売買女性を保護する法律のあるフランスやスウェーデンで起きていたら、母親も保護され、人権回復と脱性売買のための様々な支援を利用できる。

 この事件をきっかけに、「外国人による売春」が問題視されているが、日本における性売買の加害者も被害者も、そのほとんどが日本人である。母親に売られている娘は日本人にもたくさんいる。生活のために母親と一緒に風俗で性売買している若年女性も、家族や「彼氏」のために体を売っている少女たちもいる。この事件はタイ人母子の特殊な事情ではなく、子どもや女性を性的に商品化することと、それを購入して消費することを容認している日本社会だから起きたのだ。

 この事件では、店のオーナーが労働基準法違反で逮捕されており、売春防止法や、児童買春に関する法律が適用されていない。法的には、これが性搾取の問題ではなく労働問題として扱われている状況だ。刑法には人身売買罪も存在するが、これまでの人身取引事件でもこの罪が適用されることは稀だった。日本には、加害者の厳罰と、被害者の保護や支援を含めた包括的な人身取引禁止法がないことも問題だ。

買春処罰がない日本――問題は「外国人」ではない

仁藤夢乃

一般社団法人Colabo代表。1989年生まれ。主な著書に『難民高校生 絶望社会を生き抜く「私たち」のリアル』(英治出版)、『当たり前の日常を手に入れるために 性搾取社会を生きる私たちの闘い』(影書房)など多数。

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