【中野晃一さんに聞く】突破された立憲主義――左派を路上から再建する

月刊『地平』編集部
2026/03/06
中野晃一氏

「上げ底」選挙制度の問題

(聞き手:『地平』編集部)──総選挙では自民党が単独で三分の二超となる三一六議席を獲得しました。この結果をどうご覧になりますか。

中野晃一 ここには、近年の選挙に共通する根本的な問題と、今回に特異な問題の両面があったとみています。

 近年の選挙に共通する問題として、日本において解散が「首相の専権事項」だという憲法上、何の根拠もない伝説が広く受け入れられるようになってしまっていて、自己都合で議会を解散することが可能になっている点があります。政権与党側に非常に有利な形で選挙を実施できるということです。今回、野党はもちろん、一般の有権者も想定していないタイミングで選挙に突入していきました。

 そして、最大野党だった立憲民主党が公明党と合流して中道改革連合という新党を結成するという動きに出ました。事前の調査などを見ても自民党の勝利は避けられない状況でしたが、問題は野党側がどこまでの負け幅になるかという点で、正直、ここまで「中道」が総崩れの結果になるとは思っていませんでした。ただ、仮に自民党がここまで圧勝とはならず、「中道」がもう少し議席を得ていたとしても、それはそれで別の地獄が待っていただろうと思います。

 私はもともと小選挙区制の導入に反対でしたが、この選挙制度下で「政権選択選挙」というある種のプロパガンダがここ何十年も行なわれてきました。野党側や有権者もこれを一定程度受け入れてしまっています。しかし、いわゆる二大政党制という枠組みはすでに崩れているので、政権選択といってみたところで、実際には自民党に対抗する選択肢なんてないわけです。ところが、高市首相は、私を信任してください、国論を二分することを怯まずにやるから力をくださいといって、全権委任あるいは白紙委任を求めました。そして国民がそれに応じたとみなされる、そういう結果になったと思います。

 二大政党制や小選挙区制の強みの一つとしてアカウンタビリティが語られますが、まったくそういうことになっていません。解散後も高市さんは説明責任を回避しつづけてきました。NHK『日曜討論』を計画的にドタキャンし、テレビのインタビューも断る。一方でYouTubeの再生回数が一〇日間ぐらいで一億回を超えるとか、資金力にものをいわせて都合のいい情報だけを垂れ流す。裏金議員も復権しました。長期的に見れば、かつて「政治改革」といって旗を振った人たちがリベラル側の政治学者などにもいたわけですが、そこで追求されていたことは何も実現していません。残酷なほどに、何一つ実現できていないわけです。二大政党制にしても、アカウンタビリティが果たされる政治にしても、いわゆるマニフェスト選挙みたいなものにしても、まして本来のスタート地点だったはずの金権政治の打破という問題にしても。場合によっては、55年体制の時よりも悪くなっているのが実態で、悪い形で完成を見たのが今回の選挙です。

 自民党は小選挙区では約25%の絶対得票率で85%ぐらいの議席を獲っています。これは全く合理的な説明ができないものです。絶対得票率ではなく相対得票率をとっても、半分もいかない得票で八割強の議席なので、「上げ底」にもほどがある。

 実はまた別の問題もあって、多党化が維持される装置も残したままになっている。というのは比例復活という制度を組み込んでいるので、国会の議席配分は小選挙区と比例を組み合わせた形で出てくる。これは単純小選挙区制よりもましだという言い方もできるし、単純小選挙区制の問題を複雑骨折させているという言い方もできるわけです。 

 いわゆるポピュリスト政党、排外主義政党も議席を確保できているのは、この比例代表制の部分です。特に参議院選挙は全国区ですから顕著に出る。これはヨーロッパでも直面している共通の問題です。

 現在の選挙制度には、候補者の世代交代が起きにくいという問題もあります。自民党が負けた二〇〇九年もそうですが、「大物」であればあるほど、小選挙区で負けても比例復活してしまうわけですね。現職のベテラン候補を降ろして新人を候補者にするのは、勝てないリスクが高まるので、騙し騙し、状況を変えずに続けようとしてしまう。立憲民主党も、いつまでも同じ政治家がセンターステージに出てくるのは、この選挙制度の問題がありました。ただ今回、中道に関しては、比例も含めて惨敗したわけなので、これをある種のチャンスとして捉え、新しい人が出てくるスタート地点にするべきだと思います。

 風呂のお湯はどんどんぬるくなっているのに、外に出たらもっと寒いからと言いつづけて、中で風邪をひくみたいなことがずっと続いてきました。今回はもうお風呂から出されちゃったわけですから、この際、お湯をちゃんと換えて、温かくするところから始めないといけない。

 今回の選挙は、現在の選挙制度の悪いところがかなり多層的に出てきた、ある種の決算といえます。

「勝手にいなくなった」立憲民主党

中野晃一

上智大学国際教養学部教授(政治学)、2024–2025年はハーバード大学ウェザーヘッド国際問題研究所日米関係プログラム客員研究員。主著『右傾化する日本政治』ほか。

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