生き延びようとする女性たちのために――性暴力被害を司法に問いつづけて

角田由紀子(弁護士)
2025/05/08

人間について考えること

 「性暴力被害と裁判」についての寄稿を求められて考えているうちに、結局、50年間の弁護士としての仕事を振り返ることになってしまった。

 弁護士はどういう姿勢で仕事をするべきかを最初に学んだのは、1977年に参加した徳島ラジオ商殺し再審事件の弁護団活動であった。弁護士3年目のことだ。

 事件は1953年に発生。私が参加したのは5次再審中であった。再審請求人は冨士茂子さん。それまでは弁護人はすべて男性だった。5次で初めて4人の女性弁護士が参加し、女性の目で判決や捜査手続きを見直した。その弁護団会議で、団長であった和島岩吉弁護士のことばが印象的であった。「人間について考える」「普通の人間の考えや行動はどういうものであるか。(登場人物は)それに照らして合理的かどうかを吟味する」という趣旨であった。

 民事事件でも刑事事件でも、事実認定がきちんとできなければ始まらない。多くの事実の中から何をどういうふうにして選びだすか。その事実認定が弁護士の仕事の第一歩と理解した。和島弁護士の教えは私の中で繰り返し蘇った。私はなぜか刑事事件が好きであったので、いつも刑事事件を抱えていた。と言っても、そのほとんどが国選事件で、弁護士をしていなければ出会うことのなかったさまざまな人にめぐりあってきた。人間について、犯罪について、考えさせられることが多い日々であった。

 もう一つ、この仕事をしていて学んだのは、司法に深く根差している女性差別性であった。

性暴力被害事件との出会い

角田由紀子

(つのだ・ゆきこ)弁護士。1942年北九州市生まれ。1967年東京大学文学部卒業。第二東京弁護士会所属。性暴力被害や女性の権利に関わる事件を多く手がけている。著書に『性と法律』(岩波新書)、『性差別と暴力』(有斐閣)など。

2025年6月号(最新号)

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