【関連】ルポ 無法労働――非正規公務員の荒野(1)妊産婦切り
【関連】ルポ 無法労働――非正規公務員の荒野(2)公務員小国への道
【関連】ルポ 無法労働――非正規公務員の荒野(3)「公僕」から「公奴」へ
【関連】ルポ 無法労働――非正規公務員の荒野(4)泥棒が警官役の労働世界
【関連】ルポ 無法労働――非正規公務員の荒野(5)ツケは住民に回される
公務員削減の穴を埋めるため、非正規公務員は、あいまいな位置づけのまま、増やされつづけてきた。その無権利状態に批判が高まると、国の非正規には「期間業務職員」、自治体では「会計年度任用職員」という名前が与えられ、政府は「非正規を法に位置付けた」と胸を張った。だが、取材で出会った非正規公務員の窮状から浮かんできたのは、労働権の行使を事実上ふさぐ「無法状態の合法化」だった。
いま、ようやく、そんな「非正規公務員の荒野」からの脱出へ向けた、一線からの模索が始まりつつある。
「鳥取方式」への注目
2024年11月30日。10月に首相に就任したばかりの石破茂は、地元の鳥取県で開かれた「日本創生に向けた人口戦略フォーラムinとっとり」に出席した。石破が「男女の賃金格差の是正」や「非正社員から正社員への転換」とともに発したのが、「会計年度任用職員の待遇改善に取り組む」という言葉だった。
その発言から4カ月後の翌年4月、鳥取県は「短時間正職員制度」をスピード発足させた。マスメディアは「『会計年度任用職員』からの転換で安定的な労働環境を整え、多様な人材確保につなげる」(共同通信、2025年3月24日配信)などと報じ、それは「非正規公務員の改善を目指す鳥取方式」として全国に知られるようになった。
2025年8月26日朝、私は、この「鳥取方式」の調査に参加するため、鳥取県庁の前に立った。北海学園大学の川村雅則教授の県への働きかけによって、弁護士や労働組合員、鳥取県で働いてきた元会計年度任用職員を含む計6人による現地調査が可能になり、その中に、ジャーナリスト兼研究者として私も参加したからだ。
レクチャーは、県庁の一室で午前10時から始まった。「全国から大きな反響をいただきまして」と、にこやかに始まった県職員たちの説明によれば、「短時間正職員制度」は「日本創成へ向けた人口戦略」の一環であり、「若者・女性にとって魅力的な地方での職場環境づくり」として、子育てなどと両立でき、かつ安心して働ける働き方として始めたという。
公務員はフルタイムが前提とされ、これを「定数」という枠で管理して人件費が支給される。働き方が変わる中、子育てや介護などを大切にしたい職員のために、既存の常勤職員の中に新しく「短時間正職員」を設けたい。とはいえ、フルタイムの原則を変えるのは簡単ではない。そこで、労働時間の短縮分を、すでにある無給の「働き方支援休暇」を一括承認する形にして充てる工夫を施した――という言葉から浮かんできたのは、正規職員の両立支援としてのこの制度の顔だった。
確かに、定数の空きを生かし、この枠に「会計年度任用職員」を一部移行させて正規化すれば、係長級を上限として正規並み昇給も保障され、安定雇用が確保される。だが、会計年度任用職員の制度そのものを変えるのではなく、図表1のように、別建てでつくった新しい正規の枠に一部を移行させるということだ。

「空いた定数」を利用する方法では、計2500人を超える同県の会計年度任用職員を吸収するのは難しく、適用対象者も、保育士、看護師など、県が必要とする4つの資格専門職や障害者に限られる。初年度の今年度は10人に声をかけて応募は4人だ。
こうした枠組みの中で、従来の会計年度任用職員をめぐる制度は維持され、5年目の全員を一斉に公募にかけて新しく任用する「5年公募」の仕組みも残っている。つまり、県が必要な資格職の確保には一定の効果がある一方で、会計年度任用職員全体の処遇改善にはつながりにくい。
県担当者は「今後、対象となる職種や数など枠の拡大もありうる。今回は『鳥取を発火点』として全国に広げるための第一歩」と言った。
その日の午後の調査で訪れた自治労鳥取県本部でも「正規化は悪いことではないが、対象は一部の資格職だけで、一般行政職の非正規などは対象外と範囲が狭い。今後の動向を見守りたい」という評価が聞かれた。











