この国家情報局法案は日本の民主主義に禍根を残すだろう――必要不可欠な3点の法案修正を提案する

海渡雄一(弁護士)
2026/05/24
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参考人質疑を終え、国家情報局設置法案に反対する市民集会で報告する海渡弁護士(5月19日)

 2026年5月19日、参議院内閣委員会で、参考人として意見を公述する機会があった。一緒に公述したのは安倍政権の下で内閣情報官を7年にわたって務めた北村滋氏と、インテリジェンス研究の第一人者である小谷賢氏であった。

 『地平』の紙面を借りて、当日の公述と、議場に配布した公述要旨、さらには議員からの質問と私の回答なども含め、公表させていただく。採決が迫る中、この法案の問題性を、一人でも多くの人と共有したい。

 私は、人権保障を専門とする弁護士として、国家情報会議設置法案=国家情報局法案の人権保障上の問題点を指摘し、情報法制に対して人権保障の角度から提言を行なった。この参考人質疑のあと、立憲民主党は法案の原案に反対する姿勢を明らかにし、修正案を提起すると伝えられている。有効性のある修正案が提起され、野党が多数を占める参議院で可決されることを願っている。

 新たに設置が提案されている「国家情報会議」とは、内閣総理大臣を議長として、安全保障やテロ、緊急事態などについての情報収集(インテリジェンス)と、外国のスパイ及びそれと一体と疑われる活動への対処(カウンター・インテリジェンス)についての調査審議をする機関である(法案2条)。そして、「国家情報局」は、内閣総理大臣を議長とする国家情報会議の事務局として、インテリジェンスの司令塔となる機関とされている。

 戦後の歴史において、日本も情報局を持つべきだという議論は幾度もなされてきたが、それは今日まで実現せずにきた。むしろ、歴代の自民党政権は、このような選択を自制してきた。それはなぜなのか。戦時中は内務官僚としてキャリアを積み、戦後、政治家として官房長官もつとめた後藤田正晴氏は、新聞記者に「新たな政府の情報機関」の必要性を問われ、「日本は各国の総合的な情報をとる『長い耳』が必要だと思う」「ただ、これはうっかりすると、両刃の剣になる。いまの政府、政治でコントロールできるかとなると、そこは僕も迷うんだ」と述べている(2004年朝日新聞)。

 このように、国際紛争の解決手段として戦争という方法を放棄し、すべての国際紛争を外交などの平和的手段によって解決することを宣言した日本国憲法のもとで、戦争の道具となりかねない国家情報局や対外情報庁は、平和国家日本にはふさわしくないと考えられてきたのではないか。

諸外国は情報機関を規制し監督している

(1)ドイツの監督制度と相次ぐ司法判断

 ここで、諸外国がそれぞれの情報機関に、どのような法規制や監督制度を設けているかを見ていきたい。

 まず、ドイツ連邦情報局(BND)はドイツ連邦共和国にとって外交・安全保障にとって重要な外国に関する知見を得るため、必要な情報を収集・評価する機関である。ドイツには今回日本政府がつくろうとしている国家情報局に相当する組織はない。テロリズム組織を調査する憲法擁護庁もあるが、これは日本における公安調査庁に対応する組織である。この組織についても、G10委員会という監督制度が設けられている。また、データコミッショナー制度という、個人情報についての強力な是正機関も活動している。

 BNDの活動において見るべき重要な点は、BNDが警察機関に付属してはならないと定められていることである(BND法1条)。情報の取得にあたっては、それが必要な情報であり、他の方法で得られない、他の官庁が所持していないものに限って収集できること、警察権限を持たないこと、警察に代行させることも禁止されていること、対象者への侵害が最も小さい措置を選ばなければならない(BND法2条)など、厳しくその行動規範が設定されている。

 個人情報について、誤っているものについては訂正と削除をしなければならない (BND法7条)。国外にいる外国人の通信内容データの収集は認められるが、ドイツ国民、国内法人、国内に滞在する者の通信・個人データを取得することは原則として禁止され、誤って取得した場合は即時に削除しなければならない(BND法19条)。

 聖職者、弁護人、弁護士、ジャーナリストからの情報収集は禁止される(対象者が一定の重大犯罪の実行者・共犯者である場合は例外、BND法21条)。

 そして、BND法の第22条は、「私的生活の核心領域」、すなわち内心の思考・感情・感覚、個人的な日記や記録、極めて親密なコミュニケーション、家族やパートナーなど極めて親しい者同士の秘匿性の高い会話や通信など、身体的・精神的な親密空間、自宅などのプライベートな空間において、ありのままでいられることの絶対保護を規定している。私的生活の核心領域は、絶対不可侵とされている。

 こうしたドイツの情報活動をめぐる厳しい規制をめぐっては最近でも注目すべき動きがある。2020年5月19日、ドイツ連邦憲法裁判所はBNDの外国間通信偵察活動について、BND法と憲法に反するとの判決を言い渡し、厳格な法規制と監督メカニズムの導入、そして独立した監視機関を設けることを求めた。この判決は、ドイツ国外にいる外国人であっても、ドイツの国家権力が及ぶ以上は基本法が適用されると判断した。BNDによる自動化された大規模な通信傍受(キーワード検索によるデータ収集など)は、通信の秘密およびジャーナリストの取材の自由に対する重大な侵害であると認定した。

 さらに、2024年10月8日、連邦憲法裁判所は、G10法上の「戦略的通信監視」に関しても違憲の判断を示している。この決定は、サイバー脅威への対応を目的とするG10法上の戦略的通信監視について判断を示したもので、裁判所は、国際的サイバー脅威の早期把握および重要インフラの保護という公共利益の重大性自体は認めたが、国内通信の偶発的取得データの除去ルールと私的生活の核心領域に対する保護が不十分であり、ログ保存期間が短すぎること、さらにG10委員会による独立監督が厳格な憲法上の要請を満たしていないことを指摘した。

 連邦情報局は、情報収集のみを任務とし、工作などは行なわないことが法に規定されている。にもかかわらず、2017年2月24日、ドイツのシュピーゲル誌は、連邦情報局がBBCやニューヨーク・タイムズ、ロイター通信などの電話などを盗聴していたことが報じられている。法的な透明性が確保されているドイツの制度の下でも、このような事象が起きていることは注目に値する。情報機関の設置には、極めて慎重な姿勢が必要であることが示されている。

(2)オランダの情報機関への統制

 オランダは2017年の法改正で情報機関法制を整備した。情報機関に強い権限を認めつつも、それを多層的な監督のもとに置くことで、プライバシー保護と民主主義の擁護を図る制度が構築されている。情報・安全保障審査委員会(TIB)による事前審査、情報・安全保障監督委員会(CTIVD)による事後監督と苦情処理、情報・安全保障に関する議会委員会(CIVD)による議会監督、そして特定場面での司法関与は、秘密活動を一元的な行政裁量に委ねないための複線的な統制回路を形成している。

 オランダでは、政府の提案が国民投票にかけられ、反対が多数であったため、原案がさらに修正された。このようにオランダの制度は固定的なものではなく、国民投票、監督報告、苦情申立て、学術的批判を通じて、絶えず修正と再調整を受けているといえる。

(3)イギリスにおける法規制と監督制度

 著名なMI6が知られているイギリスの情報機関は歴史的に秘密性が高く、強い権限を持っている。しかし、権限行使は「必要性」・「相当性」が必須とされ、低侵襲代替手段の検討義務、目的に比べて過剰でないかなどを確認しなければならない。

 また、情報機関は政党のために行動してはならないことが定められている。

 そして、英国の情報機関制度には、精密な監督制度が定められている。多くの人権を侵害しうる権限の行使には、担当大臣の承認だけでなく、司法コミッショナーの承認も必要で、いわゆるダブルロックが採用されている。次に、捜査権限コミッショナー局(IPCO)は、情報機関の権限行使を監査、査察、調査する独立監督機関で、継続的に運用をチェックしている。さらに、捜査権限審判所(IPT)は、保安局(MI5)、秘密情報部(MI6)、政府通信本部(GCHQ)による秘密調査によって違法な被害を受けたと考える個人が、救済を求めるための特別の司法機関である。さらに、情報安全保障委員会(ISC)は、MI6ら三つの情報機関の政策、支出、行政、そして一定範囲の活動について議会に代わって監督することとなっている。

(4)アメリカの情報機関

 アメリカにはCIAに代表される数多くの情報機関があり、多くの人権侵害を引き起こしてきた。その概要については図を参照してほしい。最近のベネズエラの大統領の拘束・連行、イランの最高指導者らに対する暗殺なども、CIAの収集した情報にもとづくものである。しかし、多くの人権侵害事件の発覚と追及を経て、これらの情報機関の制度についても活動の透明化、監督制度の整備が進められてきた。

(5)   韓国国家情報院に対する規制の強化

 5月13日の東京新聞は、韓国国会の情報委員会のナンバー2であり、文在寅政権期には国家情報院のナンバー2をつとめていた朴善源議員に対するインタビューを掲載している。

 KCIAの後継組織である国家情報院が、1999年に法が策定された後も、保守系の李明博、朴槿恵大統領の下で、反政府的文化人(ポン・ジュノ監督、作家のハンガン氏らを含む)のブラックリストを作成していたことや、アルバイトを雇って革新系大統領候補を貶めるネットの書き込みをしていたことなどの不祥事発覚を受け、2020年に法が全面改正された。

 3条で政治的中立の維持、集めた情報の職務外使用の禁止、5条で調査は必要最小限で行なうこと、11条で政治活動への関与の禁止、13条で職権を乱用した逮捕と監禁の禁止、14条で、違法な検閲、通信傍受、位置情報の追跡が禁止された。

 2024年の尹錫悦大統領による非常戒厳宣言の発令時、尹大統領は、政権に批判的な政治家の拘束や位置情報の追跡を国家情報院に命じた。しかし、国家情報院の幹部はこの改正法を根拠に拒否し、大統領の指示した違法行為に加担しなかった。明確な法規制があったことによって、韓国の民主主義体制は守られたといえる。

国家情報局法案の問題点

(1)立法事実はあるのか

 そもそも、なぜ今、国家情報局を設置する必要があるのか、現行のありかたではどのような公益が満たされていないのか、情報極を設置することでどのような公益が得られるのかが示されなければならない。

 また、その組織を設置するという法律(組織法)のみでは、その国家機関の正当性とその活動の限界を示すことはできない。情報収集・分析・管理の過程を直接規律する法律(行政作用法)が不可欠であるはずだが、それを欠いたまま組織法のみを成立させるということでは禍根を残すことになろう。

 そして、内閣情報調査室や警備公安警察、自衛隊の情報保全隊、公安調査庁など、既存の情報機関に対する歴史的検証を欠いてはならない。

(2)情報が一括集約される危険性

 今回の国家情報局の設置について、内閣総理大臣の権限を梃子として、すべての省庁が保有する情報を強制的に集約できる権限が産まれるのではないかという危惧がある。

 国家情報会議のトップは内閣総理大臣である。私とともに参考人に招聘された北村滋氏は、2012年9月に公刊した著書『情報と国家』のなかで内閣情報機関の設置を提言し、これまで府省が取り扱ってきた情報のうち、我が国の対外政策、安全保障、危機管理の基本に関わるものについては、法令上の権限として、内閣情報機関の長にアクセス権が保障されるべきだと提言している。参考人の公述でも、北村氏は国家情報局法案の7条2項がこのような権限を認めていると説明していた。

 政府は、マイナンバーに紐づけられた情報や、能動的サイバー防御法に基づいて集められたサイバー上の情報などについても、必要があれば利用すると国会で答弁している。このような答弁をもとに考えれば、個人情報保護法69条が定める情報の目的外使用が常態化するおそれがある。

 情報の分散は権力の分散とほぼ同義である。国家機関が持ちうる情報はきわめて広範にわたる。その情報を一括して国家情報局が集約できる、それも強制力を持って府省の情報を集約できるような制度が、民主的国家制度として妥当なものなのかを、立ち止まって検討すべきである。

(3)これは組織法にすぎないという言い訳

 これらの問いに関して、政府は、国家情報局法案は組織法であり、新たな権限を付け加えるものではないから、その活動の限界を画する法制度は不要であると説明している。しかし、情報収集のための活動が「非権力的行政活動」であり、作用法による規律が不要だということでは、明示的な法的枠組みを欠いた諜報活動を許容することとなってしまう。諸外国のような規制や監督を受けずに、国家の持つ広範な情報を集約できるような組織は、法治国家として許容することはできないのではないか。

(4)政治警察化の危険性

 国家安全保障会議と国家情報会議が、いずれも内閣総理大臣をトップとして、主要閣僚によって構成される組織として、並立することとなった。政治・政策部門と情報部門が分離されておらず、むしろ融合してしまう危険性が大きい。そして、日本の安全保障に関する政治・政策部門と情報部門が、いずれも警備公安警察によって担われるといういびつな政治構造が生まれる危険性がある。

 ジャーナリストの青木理氏は、最新の論説「国家情報局構想の本質」(雑誌『地平』2026年6月号)において、国家情報局は警備公安警察が主導するものとなるだろうと述べている。警察法の第55条は、警察組織の不偏不党、公平中正を服務の基本と定めている。本来、政治からは距離を置き、政治的には中立性をもって遂行されるべき警察組織の中の秘密警察組織である警備公安警察組織が、日本の国家の政治部門と情報部門の中枢を壟断する体制が産まれれば、バランスの取れた経済・外交政策を遂行が困難となり、公益を損ねる可能性が高い。

 高市首相は「政府の政策に反対するデモそのものが情報活動の関心の対象となることは一般的に想定し難い」と答弁している。しかし、この答弁は明らかに事実に反する。多くの公安警察官が、私自身も参加しているスパイ防止法案反対のペンライトデモを取り巻いて情報収集をしている。

 公安警察による市民運動に対する情報収集活動は、それ自体が違法であると判示した名古屋高裁2024年9月13日大垣署事件判決は、公安警察が市民活動の情報を収集している実態を明らかにした(『地平』2025年3月号特集「生きている治安維持法」参照)。

 この判決は、市民活動が民主主義に果たす役割への深い洞察をもとに、憲法上の人格権としてのプライパシーについても深く分析した画期的な判決である。私人が発信する情報を公権力が広く収集し、分析しているとすると、私人が自ら情報発信すること自体を躊躇する可能性があるし、情報発信する内容についても、公権力がこれを収集していることを前提とした内容にしてしまう可能性があること、公権力が、ある者の個人情報を収集しているということは、その者と接触する者の個人情報や、その者が所属する団体ないしグループ等の情報も公権力によって収集されることになるから、そのような者との交友を避けたり、そのような者がグループ等に入ることを嫌ったりすることが考えられ、現実的な社会生活への影響を生じさせることが指摘されている。

 さらに名古屋高裁判決は、このような個人情報の収集及び保有等を警察組織が行なう場合には、その利用のされ方――今回の法案ではこの点自体も明らかではないが――によっては、正確性を欠く情報、たとえば、誤った情報や不十分な情報、最新のものではない古い情報などにもとづき、個人が監視の対象とされたり、犯罪捜査の対象として取り上げられたりして、誤認逮捕などの身柄拘束が生じる可能性も否定できないことが指摘されている。

 ここで思い出すのは加計学園問題だ。当時、安倍総理大臣ら官邸幹部が大学の認可に便宜を図った可能性を文部科学省前事務次官の前川喜平氏が告発した。、前川氏は2017年6月23日、東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見したが、これに先立って、5月22日の読売新聞朝刊は、同氏が「出会い系バー」に通っていたと突如報じた。前川氏は、この記事の掲載について「個人的には官邸の関与があったと考えている」と指摘し、同氏の社会的評価を失墜させる工作であったとの見解を示している。前川氏は毎日新聞のインタビューで、「私は2016年の9月か10月ごろ、警察庁出身の杉田和博官房副長官から官邸に呼び出され『新宿の出会い系バーというところに行っているそうじゃないか』と言われた。「週刊誌から聞いた話だ」と。それなら週刊誌が私のところに来るはずですが、来ませんでした……そういえば杉田さんに官邸に呼ばれた時、『○○省の○○次官にもそういうことがあったよ』と言われたんです。それで『みんな尾行されているのかな』と思った。弱みを握られている人は役人だけではなくて、与野党の政治家の中にも、メディアの中にもいるかもしれない。そう思いました」と述べている(毎日新聞2019年6月20日「これが本当なら「現代の特高」」)。

 デモが情報活動の関心の対象になることは想定しがたいなどという高市首相の答弁は、あまりに歴史に無知であり、情報機関と捜査機関が一体となって暴走することへの問題意識を欠いている。このこと自体が、日本の民主主義の危機そのものである。

国家情報局をつくる前に

――現在の情報法制に必要な法整備

(1)ツワネ原則――情報機関への歯止め

 情報機関と個人のプライバシー、民主主義との関係を考えるうえで、「ツワネ原則」が参考になる。

 この原則は、特定秘密保護法が制定される直前の2013年6月、南アフリカ共和国の主要都市ツワネで公表された権威ある規範である。

 この原則をもとに日本弁護士連合会(日弁連)は幾度も改善の提言を公表してきた。2013年11月15日に日弁連会長声明「特定秘密保護法案に反対し、ツワネ原則に則して秘密保全法制の在り方を全面的に再検討することを求める会長声明」には、ツワネ原則全体の日弁連訳が掲載されているので参照してほしい。

(2)政府の違法行為を秘密指定してはならない

 ツワネ原則10には、政府の人権法・人道法違反の事実や大量破壊兵器の保有、環境破壊など、政府が秘密にしてはならない情報が詳細に列挙されている。

 この項目は、原則37によって内部告発によって免責される開示情報のリストともなっている。このリストを引用する。

(a)刑事犯罪
(b)人権侵害
(c)国際人道法違反
(d)汚職
(e)公衆衛生と公共の安全に対する危険
(f)環境に対する危険
(g)職権濫用
(h)誤審
(i)資源の不適切な管理又は浪費
(j)この分類のいずれかに該当する不正行為の開示に対する報復措置
(k)この分類のいずれかに該当する事項の意図的な隠蔽

 ところが、特定秘密保護法など日本の秘密保護法制には、どのような種類の情報を秘密指定してはならないかという観点から定められた規定がない。運用基準には行政機関の法令違反の事実や隠ぺい目的の秘密指定の禁止等が規定されているが、その実効性は疑問だ。

(3)不十分すぎる日本の規定

 ツワネ原則と照らし合わせた時、特定秘密保護法など情報に関する法制が、きわめて不十分で、政府に何ら実効性のある規制を加えていない――すなわち人権保障の手立てなどを講じていない――ことがわかる。

 まず、秘密指定の解除が定められていない。ツワネ原則16、17は、秘密指定は必要な期間に限定してされるべきこと、自動的な機密解除期限を定めるべきこと、市民が秘密解除を請求するための手続が明確に定められるべきとしている。

 次に、情報機関は政治的に中立でなければならない。警察機関と明確に分離されていなければならない。情報局は、警察機関が捜査権限によって取得した情報を利用してはならない。

 情報機関は、弁護士やジャーナリストの職業上の秘密を侵害してはならないし、個人のプライバシーの中核となる情報を収集してはならない。

 安全保障分野の情報機関に特化した独立監視機関が必要である。

 そして、これらの法規制を確実に守らせるためには、独立監視機関が必要である。ツワネ原則6、31、32、33は、とりわけ、安全保障部門には独立した監視機関が設けられるべきであり、この機関は、実効的な監視を行なうために必要な全ての情報に対してアクセスできるようにすべきであるとしている。

 特定秘密保護法にもとづいておかれた独立公文書管理監は、秘密指定がなされる官庁からの出向者によって担われている組織であり、活動の独立性、透明性が根本的に欠けており、運用の実際を見ても、秘密指定を是正させる実を挙げているとはいいがたい。

(4)注目されるサイバー通信情報監理委員会の活動

 能動的サイバー防御法にもとづく政府の権限の行使について、サイバー通信情報監理委員会が設置された。委員長には近藤宏子氏(元札幌高裁長官)が選ばれている。この機関は、能動的サイバー防御法という特定の法制度の運用だけを監視するための機関であるが、国家情報局の扱うデータのうちでも、もっとも大量で機微にわたる部分であり、そのパフォーマンスが注目される。このような組織が、情報機関の関連するあらゆる活動を網羅して設けられる必要がある。

まとめ

 すでに法案は衆議院を通過しているが、良識の府であるべき参議院においては、時間をかけて、なぜ国家情報局をいま立ち上げなければならないのか、どのような立法事実があるのかという点から徹底した審議をしてほしい。

 そして、以上に述べた我が国の情報法制の欠陥を是正する法制度の提案とセットでなければ、国家情報局の設立を認めることは不可であるという立場に立ってほしい。

 そして、情報局による情報収集の限界の法制化、国家情報局の政治的な中立性の確保および警察組織との明確な分離、政府から独立した第三者機関による実効性のある監督措置という3点の法案修正が必要不可欠である。

 このような修正がなされないままの法制定は、この国の民主主義に禍根を残すであろう。 

海渡雄一

(かいど・ゆういち)弁護士。秘密保護法対策弁護団・脱原発弁護団全国連絡会。

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