大軍拡へ向かうドイツ——反軍国主義と兵役維持の論理

レシュケ綾香(エアランゲン・ニュルンベルク大学准教授)
2026/06/09
ドイツ連邦議会議事堂前を更新するドイツ連邦軍。(ドイツ連邦軍HPより)

「時代の転換点」

 2026年、ドイツの防衛政策は未曾有の転換期にある。ドイツ連邦議会は2029年度までに防衛予算を年間約1500億ユーロ(GDP比3.5%)へ増額する方針を可決し、2035年までに連邦軍を26万人に増強する戦略に踏み出した。トランプ米政権による駐留米軍削減の表明もあり、大軍拡は不可避のものとして進められている。

 冷戦終結後、ドイツは軍事費を抑制し、その余剰を社会福祉や経済成長に充ててきた。しかし、ロシアがウクライナへの攻撃を開始した2022年以降、政府は、軍事力強化を「時代の転換点」(Zeitenwende)と呼び、異例の速さで関連予算を増やしている。政府による説明、公的な議論が十分にないまま、兵役制度の再開や不透明な兵器調達が進行しているのである。

 以下では、最新の研究をもとに、日本とは異なるドイツの防衛意識を概観し、その上で、軍に対する市民の監視がさらに難しくなっている現状、そして、それに対する若者たちの抗議行動が広範な社会的支持を獲得できていない現状について報告する。

ドイツの防衛意識と兵役「神話」

 ドイツの防衛意識を把握するには、第一に、ドイツは、日本が憲法9条に基づいて自負してきたような平和主義を掲げてこなかったという点が重要である。戦後のドイツは歴史的に、ナチスへの反省から軍部の独走を嫌う「反軍国主義」を貫いてきたが、絶対的な非暴力としての平和主義を掲げてきたわけではない(1)。冷戦期のドイツは、現在以上の防衛費を投じ、80年代以降の世論調査でも、対象者の7割超が連邦軍兵士に好意的であった。また、多国籍軍による人道目的の軍事介入への支持も高い。ドイツは兵器生産や輸出にも力を入れてきた。ドイツのNATO諸国との協調関係も、日本のアメリカへの依存的な二国関係とは本質的に異なる。

1 Stengel, Frank. A. (2025) “German ‘pacifism’ and the Zeitenwende”. Defense & Security Analysis, Vol. 41, Issue 3, pp. 416-440.

 第二に、防衛関連の組織において、ドイツではここ30年来、「静かな軍事化」が進行してきたとの分析も重要である。

レシュケ綾香

エアランゲン・ニュルンベルク大学准教授。1981年生まれ。博士(チューリヒ大学)。社会運動、行政やメディアによる社会統制を研究。単著はFukushima Legacies: National Advocacy and Mothers Against Radiation (Springer、2026年)。日本語では「行政によるヘイトデモ規制」(『社會科學研究』(74巻))などを出版。

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