【全文公開】日本の公安警察2025(第10回)「国家情報局」構想の本質

青木 理(フリージャーナリスト)
2026/05/24

「国家情報局」設置の真の狙いとは

 いわゆる「国家情報会議」や「国家情報局」などを創設するための関連法案が今国会で審議されている。最初に結論を記してしまえば、この動きの本質は警備・公安警察組織などの権限と権益をまたも大幅に拡大するものにほかならず、政権や与党が呼号する「インテリジェンス機能の強化」などにはさして役立たないばかりか、むしろ市民社会に害悪を振り撒く装置になるおそれのほうがはるかに強いと私は思っている。

 まずは法案の概要からおさらいしていこう。政府提出の関連法案によれば、首相をトップとして外相、法相、防衛相、国家公安委員長らの関係閣僚をメンバーとする「国家情報会議」を新設し、同時にその事務局として「国家情報局」も設置して、①内閣の重要政策に関する情報の収集調査、②各省庁が行う情報活動の総合調整、③情報の集約と総合分析――などを担わせるのが柱とされている。

 だが、実態をひと皮めくるだけで、法案の本質が露わになる。「国家情報局」は従来の内調=内閣情報調査室を「発展的に解消」させる形で設置すると謳われ、そのトップとなる局長職も従来の内閣情報官が“格上げ〟される。「内閣直属の情報機関」などとも称されてきた内調は、内閣官房組織令が第4条で〈内閣の重要政策に関する情報の収集及び分析その他の調査に関する事務〉をその任務と定め、各省庁などからの出向者も抱えてはいるが、1950年代の創設から一貫して警察の警備・公安部門に主導権が握られてきた。

 実際、そのトップは内閣情報官の前身となる内調室長時代から、一人の例外もなく警備・公安部門などに出自を持つ警察官僚の“指定席〟と化している。この権益を警備・公安警察と警察官僚が手放すはずはなく、つまり今回の動きは、冒頭に記したように警備・公安警察とそこに出自を持つ警察官僚の権限と権益を拡大・拡充するものにほかならない。

公安が握りつづけてきた情報中枢

 あらためて言うまでもないことだが、警察組織とは主に国内の治安維持や犯罪捜査を主な任とする治安機関であり、その一部門である警備・公安警察組織はこれまで左右両翼の――いや、現実には「反共」を最大のレゾンデートルとして主に左翼勢力の監視や関連情報の収集活動に当たってきた。その本質に鑑みれば、今般の関連法案の提出にあたって謳われている「内閣の重要政策に関する情報の収集調査」などを本来委ねるべき組織ではなく、そのような能力があるはずもない。

 ただ、これは間違いなく先の大戦時の反省と教訓に基づく矜持と評すべきだが、この国は戦後、大規模な情報機関を持たずにきたがゆえ、いわゆる「インテリジェンス・コミュニティー」の中枢は警察の警備・公安部門によって長く牛耳られてきた。近年は特に「一強」政権以降、警備・公安部門に出自を持つ幾人もの警察官僚出身者が官邸の中枢にまで深々と突き刺さり、特定秘密保護法や共謀罪法、あるいは盗聴法=通信傍受法の大幅強化や重要土地規制法等々、警備・公安警察組織がかねて渇望した強力な治安法を次々と手中に収め、その権限と権益をひたすら拡大させてきたのは、本連載でこれまで記してきたとおりである。

 今般の「国家情報局」創設などを柱とした動きもその延長線上にあると捉えるべきで、このような組織が立ちあがれば今後いったい何が起きかねないか、まさに「一強」政権以降に現出した事象の数々からその不吉な片鱗を垣間見ることができる。

 たとえば、「一強」政権を揺るがした政治問題の真実を実名告発した元文科官僚は、その告発直前に「出会い系バー通い」の醜聞を一部メディアに書き立てられた。警察が警察であるがゆえに収集可能な隠微極まりない「情報」が、時の政権に反旗を翻した“政敵潰し〟に――厳密に評するならば、時の政権の暗部を果敢に明かそうとした“内部告発者潰し〟に悪用されたとみて間違いないのは、これも本連載で幾度か言及してきたことである。

 このほか、「一強」政権の提灯持ちと目されたテレビ記者に発せられた逮捕状が握りつぶされたと騒がれたこともあったし、横浜に本社を置く化学機器メーカー・大川原化工機に襲いかかった明々白々たる冤罪は、当時の政権が盛んに旗を振った「経済安保」の呼号に応じた警視庁公安部の歪んだ組織の論理と顕示欲の所産というべき代物だった。

 つまり、警備・公安警察が主導してその権限や権益を拡大させる「国家情報局」創設の動きは、むしろこうした事象を多発させかねない危険性を孕み、言葉を変えるなら「内閣の重要政策に関する情報の収集調査」などというより、時の政権や与党に都合のいい“私兵部隊〟と化して〝市民監視・抑圧機関〟になるおそれのほうがはるかに強い。

 これは警備・公安警察組織による所業ではないが、今国会での関連法案審議の最中、そのことを如実に示すような事実が野党議員から指摘された。この国の「インテリジェンス・コミュニティー」の一角を占めると自称し、「国家情報局」の情報活動にも深く関与することになる治安機関――法務省の外局に位置する公安調査庁がかつて密かに作成していた内部文書がそれである。

選挙情報を政治への接近に利用

 さる4月15日、「国家情報局」などを創設するための関連法案を審議していた衆院の内閣委員会。質問に立った野党・中道改革連合の長妻昭は、

 「今回の法案によってインテリジェンスの“政治化〟が進むのではないか」

 と口火を切り、内調や公安調査庁がこれまで各種選挙の情勢などを情報収集していた問題に言及した。このうち公安調査庁に関して長妻は次のように政府側に問うている。

 「これはかつて国会でも問題になりましたが、公安調査庁の内部資料といわれるものに、こういうことが書かれている。『議員の最大関心事が選挙及び地元情報であることは明らかである。そこで共産党など当庁得意分野に焦点を当てた地元選挙情報を作成し、説明に赴くことが議員との関係を深めるのが効果的』と。与党の有力国会議員に地元の選挙情報を話し、関係を深めるという文書だが、いまもこんなことをやっているのか」

 指摘された文書の問題点をここで詳述するまでもないだろう。政府機関であり、法務省の外局でもある治安機関が各種選挙の情報を収集し、それを特定の政治家に伝達するなどという所業を許せば、政府機関としての不遍不党性から完全に逸脱し、当該政治家や政党のまさに“私兵〟と化し、民主主義の基盤たる選挙の公平性までを根底から毀損しかねない。

 それを十分に分かっているのだろう、質問を受けて答弁に立った公安調査庁の総務部長・渡部亜由子は、

 「過去に(そういった文書が)報じられたのは承知しているが、正式に決裁した文書ではない」

 などと懸命にかわしつつ、しかし「このようなことを今後やらないと明言すべきだ」と重ねて追及する長妻に対し、渡部は平然とこう突っぱねつづけたのである。

 「当庁が収集した情報の提供に関しては、当庁の業務に影響するので答えを差し控える」「どういった情報を収集するか、どういった情報をどういった方に提供するかは、当庁の業務に影響するので答えを差し控える」……。

 つまり、現にそういう所業を行なっており、今後も行なうと宣言しているに等しい。

 やや手前味噌になるが、実を言えばこの公安調査庁の「内部文書」を最初に報じたのは私である。通信社の社会部記者だった1999年の夏、同庁関係者から文書を入手した私は、次のような見出しの記事を特ダネとして配信し、全国の加盟新聞社に掲載された。

 〈特定議員に選挙情報提供/「関係深めるのに効果的」/公安調査庁が極秘文書/行政機関の中立性に問題〉

 当時のスクラップ帳を開くと、配信日時は同年7月28日の18時53分となっていて、直後の国会でも問題化して当時の公安調査庁長官は「公安調査庁が正式に作成した文書ではない」と答弁しつつ「同一のものが庁内で作成された可能性は否定できない」と文書の存在を事実上認めた。

 当然ながら文書そのものはいまも私の手元にある。冒頭の1頁目に〈取扱注意〉の印が押され、〈情報提報と活用のあり方について(草案)〉と題されたA4版で10枚ほどの文書は、作成日とみられる1998年3月25日の日付が添えられていて、長妻が直接言及した部分を含め、さらに問題視すべき記述が具体的に、かつ赤裸々に刻まれている。一部を引用しよう。

 〈議員の最大関心事は、選挙及び地元情報であることは明らかである。そこで、共産党など当庁得意分野に焦点を当てた地元選挙情報を作成し、説明に赴くことが議員との関係を深めるのに効果的と考えられる〉

 〈情報・資料の提供は、(公安調査庁の)支援勢力や理解者等を醸成・維持するために行うものであって、当庁にとって重要な対外活動の一つである〉

 〈長官、次長は必要に応じて、特定の議員に特定の資料・情報を説明に赴くことを決定する。説明者は、課長・管理官等を基本とする〉

 〈また、重要情報についても、有力議員には場合により長官・次長の決裁を得て部長以上が説明に赴く〉

(原文ママ、丸カッコ内は引用者註)

 あまりに赤裸々であると同時に、政府機関としてはあまりに常軌を逸した記述でもあり、やや余談に属するかもしれないが、当時の公安調査庁がなぜこのような文書を作成したのか、若干の解説を加えておくのも決して無駄ではあるまい。

 前述したように法務省の外局である公安調査庁は戦後間もない1952年、いわゆる破防法=破壊活動防止法の施行に伴って発足した。近年は同庁が自ら「情報機関」としばしば称し、一部にはそう勘違いしているらしき識者も散見されるが、厳密にいえば公安調査庁は「情報機関」などではなく、破防法に基づく調査・規制請求機関にすぎない。すなわち、その情報収集活動は破防法が定める団体規制のために必要な範囲に極限され、のちにオウム真理教事件を受けた団体規制法が施行されて関連団体の調査権限も加わりはしたが、野放図な情報収集活動を繰り広げる法的権限など一切付与されていない。

 また、憲法が保障する集会・結社や思想・信条の自由といった価値と真っ向からぶつかりかねない破防法は、制定時に激しい反対運動が繰り広げられたことなどもあり、公安調査庁はその発足以来半世紀近くもの間、一度たりとも破防法に基づく団体規制請求を行なわず、その「伝家の宝刀」は「抜けずの宝刀」とも、そして組織自体は「遊休官庁」あるいは「不要官庁」などとも揶揄されてきた。

 それでも初の団体規制請求に踏み切ったのは1996年7月、オウム真理教に対するものだったが、すでに警察捜査によって教祖や幹部が軒並み検挙された教団は壊滅状態となっており、しかもスポーツ紙などの記事までを証拠として堂々示した同庁の稚拙さも重なり、初の団体規制請求は翌1997年1月に公安審査委員会で棄却されてしまう。当時、公安調査庁の「伝家の宝刀」あるいは「抜けずの宝刀」は、「実際に抜いてみたら竹光だった」と皮肉られたりしたものだった。

 それはともかく、同時期には東西冷戦が終焉を迎え、警備・公安警察と同じく「反共」を唯一最大のレゾンデートルとしてきた公安調査庁はその存立基盤が大きく揺らいでいた。また、折しも1990年代の後半から高まった行政改革や省庁再編の動きも重なり、公安調査庁に対しては野党ばかりか与党内部からも本格的に「不要論」「リストラ対象」の声が高まっていたのである。

 先の内部文書は、そんな時期に作成された。つまり、公安調査庁にとってみれば必死の“生き残り策〟であり、だからこそ自らの組織の〈支援勢力や理解者等を醸成・維持するため〉と称し、〈議員の最大関心事〉たる〈選挙及び地元情報〉を提供し、なりふり構わず〈議員との関係を深める〉などという論外の逸脱行為に乗り出したのである。

広範な市民活動を監視

  さらにいえば、公安調査庁による論外の逸脱行為はこの程度にとどまらない。こちらも当時、私が同庁の内部文書を入手して報道しているが、1994年に作成された文書を見てみよう。冷戦の終焉や政府内で高まる行政改革論議を受けて作成された文書は〈業務・機構改革の趣旨と改革の骨子〉と題され、まさに「不要官庁」「リストラ対象」などと指弾されはじめた公安調査庁が置かれた厳しい状況への本音が率直に吐露されている。

 〈当庁は、東西冷戦構造による情勢の変化などをきっかけに、この2、3年の間、さまざまな政治レベル等で厳しく組織の見直し、改革問題が取り上げられてきた〉

 〈政治レベルでは行革絡みでの縮小・統合論に晒されており、当面この「業務・機構改革問題」は当庁の存亡に係る重要問題となっている〉

 そう危機感を露わにした上で文書は以下、〈これまで当庁の調査対象は狭すぎた〉と断じ、次のようなことまでを明記している。

 〈従来の調査対象団体にとどまらない幅広い団体等の動向の把握、そしてこれらをもとにした可能な限り早い段階での公安への脅威の分析、予測等に取り組んでいく〉――。

 こうした公安調査庁本庁での方針を受け、近畿圏を管轄する近畿公安調査局が作成した内部文書〈1996年度業務計画〉は、眼を剝くほど広範で具体的な「調査対象」が列挙されている。これも私が当時入手したものだが、一部を引用すれば次のとおりである。

 〈政治・選挙関係〉では〈原発・基地問題などが争点となる各種選挙〉、〈経済・労働関係〉では〈パート、派遣労働者、外国人労働者など未組織労働者の組織化をめぐる労働団体の動向〉、〈大衆・市民運動関係〉では〈市民オンブズマンの行政に対する告発運動の実態〉〈産直運動、食品の安全行政の充実強化を求める運動〉〈大気汚染・リゾート開発・ゴミ問題等への取り組み〉、〈法曹、文化、教育関係〉では〈死刑廃止や人権擁護の取り組みの実態〉〈いじめ・不登校問題、日の丸・君が代反対などに対する諸団体の動向〉〈弁護士会による司法改革や破防法反対の取り組みの実態〉……。

 原発や基地、派遣労働、食品や環境問題、あるいは教育や人権、司法制度の問題等々、およそありとあらゆる分野の市民運動や社会運動、労働運動、さらには市民オンブズマンや弁護士会の活動にまで敵意をまじえた「調査」の眼を向けよと呼号し、果てはこうした団体などから抗議を受けた場合には〈日共(日本共産党)や過激派等の調査に関連づけて説明できるよう(調査官を)訓練させている〉とまで文書は記している(以上、文書からの引用は抜粋)。ちなみにこうした文書群については、本連載の源流となっている拙著『日本の公安警察』(2000年、講談社現代新書)で詳述しているから、興味のある方はぜひ参照してほしい。

 いずれにせよ、「国家情報局」の活動にも深く関与することになる法務省の外局・公安調査庁は、すでに1990年代の段階で、各種選挙の情勢を調査してその情報を「特定の有力議員」に提供するといった逸脱活動にとどまらず、「暴力主義的破壊活動」などとはまったく無縁な市民団体、社会運動団体、市民オンブズマン、さらには労働団体や弁護士会までを情報収集の対象として監視の眼を注ぎはじめていたことになる。

 その活動がどれほどの規模でどれほどの精度だったかはともかく、これは決して過去の話ではなく、公安調査庁にとどまる話でもない。「反共」というレゾンデートルを失った警備・公安警察でも同じような動きはあったし、もっと本質的な治安機関論を直截に記せば、国内の治安維持をその任とする警備・公安警察や公安調査庁といった治安組織は、政治などが適切かつ民主的に制御しなければ常にこうした欲望を抱き、隙あらば肥大化して時に暴走し、果ては市民社会を抑圧する装置と化してしまいがちなのは古今東西の歴史が物語っている。本連載で幾度か指摘したとおり、これは治安機関とか情報機関といったものの本性でもある。

 にもかかわらず――。

「想定し難い」?

 再び視線を今国会に戻せば、「国家情報局」などを創設するための関連法を審議している衆院の内閣委員会では4月17日、野党議員と政府の間で次のようなやりとりも交わされている。質問者はやはり中道改革連合の長妻昭。それに応じて答弁に臨んだのは行政府の長たる首相・高市早苗である。

 「法律とルールを守ったうえで政府の政策に反対するデモや集会に参加しただけの人を調査する、これはしませんね」

 そう確認を迫った長妻に対し、首相の高市は平然とこんな答弁を繰り返した。

 「政府の政策に反対するデモそのものが情報活動の関心の対象となることは一般的に想定し難い」

 「政府の政策に反対するデモや集会に参加しているということのみを理由として、普通の市民の方が調査の対象になるということも想定し難い」

 いや、「想定し難い」どころか、現に公安調査庁などはそれを「やる」と内部文書に明記し、調査現場はそれを実行に移している。そうした治安機関の実態や本性を首相自身も知ってのことか、あるいは知らないままでの答弁か、いずれにせよ治安・情報機関という存在を民主的に制御する意識も矜持すらもない為政者の、なのにその権限や権益をまたも大幅拡大して今後はスパイ防止法やら対外情報庁まで創設するのだと勇ましく吠えている為政者の、失礼ながらあまりの“お花畑〟ぶりに私は言葉を失う。

(文中敬称・呼称略)(つづく)

青木 理

(あおき・おさむ)フリージャーナリスト。1966年長野県生まれ。1990年共同通信社に入社。公安担当記者としてオウム真理教事件などを取材。著書に『日本の公安警察』(講談社現代新書)、『時代の反逆者たち』(河出書房新社)など。

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