問われる「核抑止」――核兵器禁止条約と国際安全保障

川崎 哲(ピースボート共同代表。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員)
2025/05/08

核戦争の危機

 世界の破滅を午前零時として、それまでの残り時間を示す「終末時計」の針は、今年1月、89秒前へと進んだ。1947年にこの時計が始まって以来もっとも零時に近い。ロシアによるウクライナへの侵攻と核の脅しを受け、2023年に過去最短の90秒前となっていたが、そこからさらに1秒進められた。

 その発表会見で、ノーベル平和賞受賞者であるコロンビアのサントス元大統領は、米トランプ政権が地球温暖化対策のパリ協定や世界保健機関(WHO)からの脱退を表明したことに触れ、「国々が自国優先に走り、多国間システムを支えるルールや規範が崩れつつある」と述べた。そして広島・長崎への原爆投下から80年となる今、核戦争の脅威は「過去最高のレベルにある」と警告し、それでも、諸国間の誠実な対話によってこの流れを元に戻すことは可能であると強調した。そして、ネルソン・マンデラの次の言葉を引用した。

 「最強の武器とは、席に着き、話し合うことである」

 世界に今ある1万2000発の核兵器の約九割を保有し、国連安保理で拒否権をもつロシアと米国が、公然と、国際法違反の行動や国際秩序を壊す行動をとっている。このような現実を前に無力感を覚えてしまう人は多いだろう。国連や国際法があっても無力であり、結局、世界の平和は、各国の物理的な力で保つしかないのかと。

 しかし、もう一つの現実がある。それは、2017年に採択された核兵器禁止条約に世界の約半数の国がすでに加わっているという現実だ。

 昨年、ノルウェー・ノーベル委員会は日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)に平和賞を授賞し、その理由に、被爆者の証言活動が「核のタブー」(核兵器は使われてはならないという規範)を形成してきたことを挙げた。ノーベル委員会のフリドネス委員長は「さらに多くの国が、核兵器禁止条約を批准しなければならない」と訴えた。

【地平社の本】『戦争ではなく平和の準備を』著・編者:川崎 哲/青井未帆 

日本はまたもオブザーバー参加せず

川崎 哲

(かわさき・あきら)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員兼会長。ピースボート共同代表。核兵器をなくす日本キャンペーン専務理事。著書に『戦争ではなく平和の準備を』(共著、地平社)がある。

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