【新連載】再生可能エネルギーの底力(第1回)コンセントの向こう側

まさのあつこ(ジャーナリスト。博士(工学))
2026/06/10
Man in a black jacket and bucket hat sits at an outdoor table with mountains in the background, suggesting a relaxed outdoor setting.
さがみこファームの山川勇一郎社長(2026年4月17日筆者撮影)

 「農業主体でやろうって決めたんです。発電のオマケじゃなくて、農業だけでちゃんと稼げる状態にしたい」

 穏やかな陽の光の下、覚悟を決めた時のことを語ったのは、株式会社さがみこファーム(神奈川県相模原市)の山川勇一郎社長だ。201九年に営農型太陽光発電を始めて6年。農業収益は黒字化し、売電収入を上回るようになった。

 転機は2011年の東日本大震災だった。当時、静岡県富士宮市を拠点とするNPO法人ホールアース自然学校で、プロの自然ガイドを務めていた山川さんは、業務で関わりのあった福島県いわき市に支援に入った。

 「自分が無意識でいる間に、コンセントの向こう側がとんでもないことになっている。それが初めて電気のことを意識した瞬間でした。ただ、問題が大きすぎて何をすればいいかもわからない。技術も知識もないまま、1年ほど悶々としていました」

 そんな中で見えてきたのが、電力を地産地消しようとする全国各地の動きだった。

 山川さんの地元である東京都多摩市では、退職後に悠々自適な生活を送っていた実父も、同市で「人生最後の仕事」の勢いでそうした活動を始めていた。山川さん自身も地元と行き来し、地域の人々と一般社団法人「多摩循環型エネルギー協会」を立ち上げた。多摩市や商工会議所、地域の金融機関を巻き込み、「ヒト・モノ・カネが地域で回る仕組みを作ろう」と実行部隊として「多摩電力合同会社」を2012年に設立。NPOは退職し、多摩地域で学校や公共施設の屋根を借りた売電事業の実績を積んだ。

 再生可能エネルギーを推進する経産省の固定価格買取(FIT)制度が始まったばかりで、売電価格は1kWh当たり40円から30円台。事業を組み立てれば、安定的に収入が入る仕組みだった。

 2015年に、たまエンパワー株式会社を立ち上げた。屋根上の発電を進める一方、山川さんには、地面にパネルを置くいわゆる「野立て」の太陽光発電には手を出したくないという思いがあった。「土地を単一的に使うし、景観も損なう。その後、メガソーラー批判が出てきて、やらなくてよかったと思っていた。しかし、脱炭素を考えると屋根上だけでは全然足りない。どうしたものかと思っていた時に、『ソーラーシェアリング』(営農型太陽光発電)というものがあると知ったんです。これだったら農地を活かしながらエネルギー問題も解決できそうだと思いました」(山川さん)。

 だが、多摩市は住宅開発が進み、農地はほとんどない。そんな折、相模原市の津久井地区出身の太陽光発電工事会社の社長と出会った。「農地が空いていますよ」と遊休農地の地主たちとのつながりを作ってくれた。当初は発電を自分たちが担い、農業は他者に任せるつもりだったが、うまくいかず、単独で進める道を選んだ。FITの売電価格は10円台に下がっていた。

 「自分で農業をやると覚悟を決めた時、農業をおざなりにした発電主体の事業はしたくなかった。よそ者として土地をお借りしてやる以上、地域に信頼される存在になるには、まず農業で足場を築かなければと、農業法人を作りました」

トンチで乗り切ったブルーベリー観光農園

 農業で儲かる仕組みを作るために、作物選びでは、単価が高く、気候に合い、遮光しても育つものを絞り込んでいった。その結果、ブルーベリーがよさそうだと考え始めた。農地はキャンプ場の点在する道志川沿いの道路に面している。週末に訪れる自然派の観光客がブルーベリー狩りを楽しめる「観光農園」を構想した。

 実は、ブルーベリーは手摘みの手間と人件費がかかる。足が早く、輸送も課題だ。だから単価が高い。

 「観光農園なら、観光客がお金を払って摘んでくれる。来た人もハッピー。最終的に36種類のブルーベリーを育て、食べ比べもできるようにしました」

 農薬や殺虫剤を使わず栽培できることも好都合。愛知県のブルーベリー観光農園が、直植えではなく、ポット栽培で液肥と水を送ると品質が高く安定した収穫が見込めるという成功体験を本に書いてくれていたことも参考にした。

 しかし、この構想でさえ、ブルーベリーが実をつけるようになるまでは4、5年かかる。それまでは農業収益ゼロの時間を耐えなければならない。その上、自治体から「パネルの下では観光農園はできない」と告げられた。

 理由は詳しく教えてもらえなかったが、調べていくと、根拠は建築基準法の運用にあった。

 ソーラーパネルの架台は強固な構造物として「建物」と同様に扱われる。自治体から建築確認を取らなければならない。そのためには消防車が入れる「道路」への接道が必要となる。しかし営農型太陽光の農地が接しているのは多くの場合「農道」だ。この壁を乗り越えるため、国土交通省は営農型太陽光の架台を建築確認から除外する技術的基準を設けた。ただし、そこには条件がついた。特定の営農者がその下で営農しなければならない。つまり、相模原市はその運用にあたって「観光農園は不特定多数の人が立ち入るからダメ」と解釈したのだとわかった。

 「わかったけど、困った。従来の農業では儲からないから耕作放棄地が広がっちゃってる。それを変えたいから、観光農園で突破しようとしていたのに。チームでああでもない、こうでもないって考えた。そこで『会員制にすれば特定多数になる』と考えた」

 誰が思いついたのかと聞くと「僕です。トンチなんですよ」と山川さんはニヤリと笑った。

 「行政が『違法じゃないね』と言える理屈ができればいい。グレーを黒にも白にもできる中で、事業がそれで左右されたら損。いろんな方が応援してくれて、期待もされている。みんなが納得できる状態にする必要がありました」

 今では個人会員540人に加え、法人会員も11社に広がった。作物もブドウ、イチジク、レモンが加わった。

 行政とは幾度となく衝突したというが、資源エネルギー庁の「地域共生型再エネ事業顕彰2022」、相模原市の「さがみはらSDGsアワード2023市長賞」、多摩信用金庫「多摩ブルー・グリーン賞・多摩みらい賞2023」、神奈川県「第1回かながわ脱炭素大賞」を受賞した。成功事例を見に視察も相次いでいる。

「電気と農産物と人の思いの循環」という大きな絵

 現在、さがみこファームには7機の発電所(発電容量471・65kW)がある。最初の4機はFIT(売電価格1八円)を活用。その後はFIT制度を使わず、直接契約で株式会社生活クラブエナジーや法人会員に売電する形を作った。今年から来年にかけて生活クラブ東京と同神奈川との共同出資で順次2000kWまで開発する準備を進めている。

 山川さんが描く未来図はさらに大きい。

 「中山間地域で人が減り、高齢化が進むと、農地が維持できない。その問題は、水や食を享受する都市部とは切り離せない。それは日本全体の問題です。だから都市の人間や企業が地方を搾取する構造ではなく、地域の価値をわかってくれるパートナーとして組んで、電気や農産物と人の思いが循環する仕組みを作りたい」

 このコンセプトを「食とエネルギーのテーマパーク」と名付けた。

 「災害や戦争で電気や物流が止まれば、立ち所に行き詰まる。そんな時でも、自分が関わる場所で電気も食料も作られていれば、具体的な食料安全保障にもつながる。今は果樹中心ですが、農地はたくさんある」と山川さんの視野には穀物や露地野菜の栽培も入っている。

 東日本大震災でコンセントのこちら側にいた人間が、コンセントの向こう側へと歩み出した物語。意志あるところに道ができている。

書店員から農家へ――人見知りが開いた人の輪

 個性豊かな農家が主役のもう一つの現場がある。戦後に入植者が開拓した長野県南牧村野辺山だ。核となる一人目は宮下博満さん。1八年前まで静岡で書店員として働いていたが、父親の「帰ってこい」の一言でUターン。花の種苗栽培を家族経営で行なっていた。もう一人は「日本一のほうれん草農家を目指す」ことで八ヶ岳界隈では知られた株式会社アグレスを率いる土屋梓社長だ。

 二人が営農型太陽光発電に行き着いたのは、偶然とも必然とも言える。

 宮下さんが帰郷して九年ほどしたある日、金儲け目的の事業者から野立ての太陽光発電業をやろうという話が父親に持ち込まれた。岩が多くて耕作を放棄し、林になってしまった牧草地を持っていたのだ。しかし、立ちはだかったのは役場だった。荒れていても牧草地は「第一種農地」だから野立てのソーラーは建てられないという。業者は諦めず「営農型太陽光発電」の噂を聞きつけ、「環境エネルギー政策研究所(ISEP)」(所長 飯田哲也氏)に話を持っていったという。ISEPは特定非営利活動法人として自然エネルギーを推進する政策提言を行ないながら、ご当地電力の立ち上げ支援で全国を走り回るシンクタンクだ。岩の除去や林の伐採など整地費用をソーラー事業の資金で賄っていきましょうと話が進んだ。宮下さんは金儲け主義の事業者とは袂を分かつことができた。その話をする時、ホッとした表情が宮下さんの顔に浮かんだ。

 ISEPの助言で、家族経営だった農業を「宮下農場合同会社」へと法人化して、花の種苗栽培を継続。さらに「野辺山営農ソーラー株式会社」を認定農業者として設立し、宮下さんが代表取締役になった。

 宮下農場所有の旧牧草地3.18 haを、野辺山営農ソーラーに賃貸し、その下でほうれん草一筋で農業収益を上げるのがアグレスだ。

野辺山営農ソーラーの宮下博満代表取締役(2026年5月7日筆者撮影)

 「家族経営だった宮下農場は、大きい土地では農業をできない。100%アグレスでも良かったんですけど、『地主だからちょっとはなんかやりなさい』っていうことで、98%がアグレス、あとの2%で僕がブルーベリーと原木の舞茸栽培を、去年の秋からボソボソと始めています」(宮下さん)

 準備で最も大変だったのは、周辺住民への説明だったという。十数名のうち二名からは「絶対に同意しない」と言われる。役場には「ちゃんと話を通してこい」と言われる。「何度もお願いをしに行く精神的苦痛が……」と思い出したように胃のあたりを押さえた。

 「住民説明会も行なって、最終的に一人は『やめるわけにもいかないよね』という形で納得してくれて。もう一人は『同意はできないけど頑張れよ』という感じで。その人も先日、ブルーベリーを見に来て、『来年2、3本売ってくれ』と言ってくれたんです」と宮下さんは嬉しそうに微笑んだ。

 営農型太陽光発電に挑戦してよかったことを聞くと、意外な答えが返ってきた。「私、人見知りで。これやったおかげでいろんな人と出会えて、人の輪が広がりました」とまた微笑むのだ。

 野辺山営農ソーラーには、太陽光パネルの管理を担うNPO法人「上田市民エネルギー」、出資には生活クラブ連合会なども加わる形ができた。資金は八十二長野銀行と日本政策金融公庫から調達、FITを活用して開始から11年で投資を回収する計画だ。宮下農場はその間も地代プラスアルファの協力金を得ることができる。

 実は、野辺山営農ソーラーは、日本一標高が高い営農型太陽光発電施設だ。宮下社長は「パネルは熱を持つと発電効率が落ちるんですけど、涼しいので、計画値の130%以上の発電ができている」という。

 農地の隣には、使われずに放置されていた別荘が一軒あった。それを土地ごと購入し、改修中だ。「野辺山ヌーヴォー」と名付けた交流拠点を構築する目標がある。「みんなでやっている気持ちなので」と宮下さんの顔には気負いのない責任感が表れた。

日本一のほうれん草農家を目指して

 一方のアグレスの土屋さんに、ほうれん草日本一と営農型太陽光発電の二つの挑戦の意味を尋ねると、「目指しているのは、持続的に農業を続けていくことです」と即答だった。

 「僕は、野辺山の開拓農家としては三代目、アグレスとしては二代目。次の世代にしっかり渡していく中間走者として、営農を永続的にやっていくためには、自分たちの強みをしっかり作ることが重要だと考えたんです。野辺山の強みは標高が高くて、消費地に近いこと。持ちが悪い葉物野菜を品質高く作ることが強みです」と立て板に水だ。

 祖父の代は白菜農家。父の代でほうれん草に切り替えて法人化した。2017年に継いでからもほうれん草一筋だったからこそ、遭遇したのが営農型太陽光発電だ。

 「ざっくばらんに言いますと、営農型ソーラーに興味があったというより、ほうれん草を育てられる農地を確保することが最優先でした。このあたりは、今も農地の取り合いで戦国時代。役場から『営農型ソーラーの事業がある。ほうれん草を下で栽培してみるのはどうだろう』ってお話をいただきまして。ハウスの費用は売電費用から出していただける魅力があって」始まった。

 遮光率40%という違った環境下での栽培だが、昨年から始めて「通常と変わらない品質のものが採れました」と述べる。違いは収穫回数だ。

 「通常は4月から始めて、4回収穫して1部は5回転。ソーラーの下では、耕作放棄地だったので、土作りが全然足りない。春先の準備のために、昨年は2回、1部で3回収穫しました。今年は全て3回転する予定です。しっかり土作りができて、何回かやっていけば、2年後ぐらいには通常と変わらない栽培ができるかなと思います」と土屋さん。

 ただし、通常よりもスタートを遅らせた理由がもう一つあるという。

 「このあたりは春に突風が吹くんです。ハウスが風で被害を受けた時に、ソーラーにまで被害が出るリスクがあるなと思って」と、中間走者を自認する慎重さと大胆さを兼ね備えている。

 「お客さんはこういう取り組みに興味は持ってくれますが、求めているのは結局、いいほうれん草が来るかどうか。プロ農家として、ほうれん草を出せることが私たちのミッションです。パネルの下で売電しつつ、というのは、プラスアルファの話だった」とブレない。

 1たす1は2ではない相乗効果だ。三者三様の動機と物語を持って、農業とエネルギーに向き合っている。

 農水省によれば、営農型発電のための農地転用許可件数は2023年度までの累計で6137件、1361ha。一方、全国には荒廃農地が約26万ha(令和6年度食料・農業・農村白書)ある。さがみこファームらのように遊休農地を活用できた場合のポテンシャルは高い。エネルギーや食料の自給率向上だけでなく、地域雇用に役立ち、人々を元気にする力を持つ。

 この連載では引き続き、地産地消の分散型の再生可能エネルギーの現場で紡がれる物語を追う。単に電力だけではない、ヒト、モノ、カネ、夢の循環力を高める人々の試行錯誤とワクワクを届けていきたい。(つづく)

まさのあつこ

ジャーナリスト。博士(工学)。JBpressで「川から考える日本」を連載中。著書に『あなたの隣の放射能汚染ゴミ』(集英社新書)、『四大公害病』(中公新書)ほか。

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