特集:東アジアの不再戦のために
――(聞き手:熊谷伸一郎/本誌編集長)衆議院議長、外務大臣、自民党総裁など歴任されてきた河野先生は、現在もアジア諸国との交流を続け、とりわけ中国との交流事業に長年にわたり取り組まれています。この6月にも日本国際貿易促進協会の会長として100名の訪中団を率いて中国を訪問、李強首相との会談を行なうなどして注目されました。
現在、米中対立などを背景に日本と中国との関係は厳しい状況にあります。まがりなりにも日本は戦後80年、戦争をせずに過ごしてきました。まず、その戦後の歩みについてどのように評価されるかうかがいたいと思います。
河野 この80年、日本は敗戦後の貧しい時代から歩みを始め、戦争は二度としないという強い決意のもと、豊かさをめざして頑張ってきました。よく知られているように、吉田茂内閣がとった経済優先と軽武装の政策のもとで、国民一人一人が貧しさから抜け出したいという思いで頑張ってきたのです。戦前のように、自国の領土を拡げるとか、そのような欲は持たなかった。なんといっても、敗戦という強烈な経験が、戦後の日本人をまっすぐ歩かせたのだと思います。
しかし、戦後80年が経ち、今の状況を見ていると、人間の記憶力というものは、いったい何年もつのだろう、と感じますね。少なくとも半世紀は、日本人は戦争の記憶を持ちつづけてきた。しかし、戦後80年が経った現在はどうでしょうか。
戦後の中国をはじめとしたアジア諸国との付き合い方を見ても、戦争の記憶が基本にありました。それはあまりに敗戦という体験が強烈だったからでしょう。国会にも与野党問わず、戦争に携わった体験者がまだまだ多くおられたから、そういう共通の記憶が残っていた。
時の流れの中で仕方のないことではありますが、戦争体験者が次々に亡くなられて、いまや政治であれ経済であれ、戦争を知らない世代ばかりになり、体験者から戦争の話を実際に聴くという経験もできなくなってきています。記録を読んだり言い伝えを聞いたりする程度では、痛切な戦争の記憶はなかなか継承できないように思えます。戦争の悲惨さ、戦後の決意、そうした思いがだんだん薄れてきていると感じます。
それは何も日本だけのことではありません。アメリカであれヨーロッパであれ、同じ状況があります。最近はアメリカでも日本でも、自国ファーストという言葉を聞きますが、先の大戦の記憶が薄れ、そこから得たはずの教訓が忘れられつつあるように思います。
「対等なパートナー」として共に考える
――今年6月上旬の訪中では、李強首相との会談など、中国側と交流してこられました。近年、日中間の往来が細っている中、報道などでも注目されました。厳しい状況にある日中関係について、どうお考えでしょうか。