電気代はなぜ高騰したか――日本最大の発電会社JERAの不正とエネルギー政策

吉田明子(パワーシフト・キャンペーン事務局長、FoE Japan)
2025/02/05

JERAへの業務改善勧告

 JERA(ジェラ)とは、東京電力と中部電力が共同で2015年に設立した日本最大の発電会社で、火力発電を中心に日本の発電量の3割を占める。2024年11月12日、経済産業省(電力・ガス取引監視等委員会、以下監視委)は、 JERAが卸電力取引所の翌日市場(スポット市場)において、市場相場を変動させる認識を持ちながらも、余剰電力の一部を供出していなかったことについて、同社に対する業務改善勧告を行なった。

 国のガイドラインでは、市場支配力を持つ大手電力会社等が、需要を超えて発電した「余剰電力」が出た場合に、そのすべてを市場に供出することが定められている。だが、JERAは東京エリアで、2019年4月から2023年10月までの間、余剰電力の一部が未供出の状態がつづいた。

 問題となったのは、必要に応じて稼働できるよう待機した状態の停止中火力発電ユニットについてであった。系統工事等が行なわれている際に、部分的な稼働ができる場合とできない場合とを区別せず、一律に「供出不可」という扱いにしていたという。

 担当していたのは、東京エリアのスポット市場入札を担当する東日本プラント運用センターである。JERAはこの原因について「システムの設定不備」だとするが、2019年の時点で問題を認識していた社員がおり、2022年2月には所長も認識するにいたっていたにもかかわらず、長期間にわたり改善が行なわれず放置されていたという。市場で売買される電力量が減れば、当然、価格は上昇する。

浮上した不正利益

 監視委は、「仮に早期にシステムの改修を実施し、停止する発電ユニットの余剰電力を合理的に供出していたならば、試算のためのデータが現存する2020年10月から2023年10月までの3年あまりにおいて、約54億kWhの売り入札が追加的になされていた可能性があり、そのうち約6億5000万kWhの売り入札が約定していた可能性がある」と指摘する。もっとも影響が大きかったとみられる2021年11月の一部の時間帯では、取引価格が1kWh当たり50円以上値上がりした可能性があるとしている。報道によれば、特に影響の大きかった3日間について、JERAは一日最大1億円の不正利益を得ていた。しかし、期間全体での不正利益額は明らかになっていない。いずれにしても、不正利益が生じていたことは確かである。ところが、現状ではその返還を求めたり相応の罰金を科したりする法的枠組みがない。原子力資料情報室の松久保肇氏によれば、金融商品取引法では厳しい罰則規定があるのに対し、電気事業法では罰則が規定されていないという。

 影響はJERAの不正利益だけではない。市場価格が吊り上がれば、市場に電力を供出する発電事業者全体の収入が増える。JERAを含め発電市場の約8割を占めているその他の大手電力や大手新電力も、その分、収益を増やしたことになる。一方で多大な影響を受けたのは、市場から電力を購入する新電力等である。

新電力への影響

 今回の電力未供出は、停止・待機する火力発電のあった低需要期に起こっていたとみられ、2020年末から21年1月なかばに起きた異例の市場価格高騰との関連は必ずしも大きくないとされる。この時は、LNGの在庫低下による焚き減らしに寒波や石炭火力発電、原子力発電の停止などが重なっていた。だが電力市場価格は2021年秋から2022年冬にかけても高騰がつづいた。一部の新電力は倒産や事業停止をし、そうでなくても多数が大規模な赤字を抱えていた事態に当然ながら影響している。

吉田明子

(よしだ・あきこ)パワーシフト・キャンペーン事務局長、FoE Japan。FoE Japanでは気候変動・エネルギー担当。

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