問われるAIの倫理――軍事利用に歯止めをかけられるか

内田聖子(ジャーナリスト。NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表)
2026/04/20
Hand holding a smartphone displaying the Claude by Anthropic app on an orange screen, with the AI Anthropic logo and an abstract orange background in view.

 「最前線から後方まで、あらゆる構成要素において『AIファースト』の戦闘部隊となることで、米軍のAI優位性を加速させるよう指示する」

 2026年1月9日、ピート・ヘグセス国防長官(戦争省長官)は国防総省上級幹部に対し、AIを米軍で活用するための戦略を指示した

 すでにトランプ第二次政権は、中国とのAI覇権争いに大きく舵を切ってきた。2025年1月の就任当日にバイデン政権時のAI規制大統領令を撤回。新たにAI開発促進大統領令に署名した 。7月には「AI行動計画」を公表し、規制緩和や巨大データセンターへの投資、米国のAI輸出促進などあらゆる手を講じてきた。この計画を受け、米国政府はOpenAIやアンソロピック、xAIなどの企業との契約を拡大。AI企業への民間投資も920億ドル(約13兆7000億円)にも膨れ上がったとされる。

 ヘグセスが指示した戦略は、これをさらに軍事面で加速させるための方針だ。ここでは戦闘と知能、事業運用の3領域でAI利用を推進し、AIを用いた「新たな戦い方」の発見と拡大を目指すほか、米軍が蓄積した実戦データを活用するため集中的に投資するとした。民間の最先端AIモデル発表後、30日以内に軍に配備することや、AIの「あらゆる合法的な利用」を可能にする契約の徹底も記されていた。

 それから約1カ月半後の2月28日、米国・イスラエルはイランの最高指導者ハメネイ氏殺害作戦を実行した。この前後からAI企業と米国政府の激しい対立が繰り広げられることになる。

イラン攻撃で使用されたAI技術

 米国のAI軍事利用は、今に始まったことではない。潜在的敵国や標的に関する情報収集と分析、作戦の立案など一連の流れの中では膨大なデータを扱うことになるが、2010年代からこれら各分野にAIを投入し、2017年にはAIを使った「プロジェクト・メイブン」を始動させてきた。

 だが、今回のイラン攻撃で使用されたAIシステムはこれまでとは異なる次元に進んでいた。イラン攻撃では標的の居場所の特定や作戦シミュレーションの支援するためにアンソロピックのAIモデル「Claude」と、パランティア・テクノロジーズ社のデータ分析基盤「Gotham」が使用されたとされる。イスラエルと米中央情報局(CIA)、米軍は、長期間にわたる標的の行動履歴や警護チームのシフトなどを含む膨大なデータをAIに入力した。そのデータ量は約1億2000万件におよぶ断片的な情報で、それらを分析し最終的に防空レーダーの死角と警護交代が重なる3分間の隙を特定し、標的の位置の誤差半径を500メートル以内にまで絞り込んだと言われる。人間の分析チームでは100日はかかると言われるこの作業を、AIはわずか90分ほどで遂行し、攻撃当日の所要時間もわずか11分ほどだったという。

内田聖子

(うちだ・しょうこ)ジャーナリスト。NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表。自由貿易協定やデジタル政策のウォッチ、政府や国際機関への提言活動などを行なう。著書に『デジタル・デモクラシー ビッグ・テックを包囲するグローバル市民』(地平社)など。

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