【連載】電力総連の研究(3)秘密文書に見る変質の歴史

後藤秀典(ジャーナリスト)
2026/05/06

秘密文書に記された「職場八分」

 表紙には「㊙」と判が押されている。そして、支店長、次長、労務課長、労務係長の押印。表紙をめくると「労務管理懇談会実施報告」とある。1968年、関西電力神戸支店で、各営業所の管理職(「役付」)が集められて開かれた懇談会の報告書だ。

 「成果」として、「発表者の赤裸々な報告によって全役付に対して強い問題意識を持たせることができた」と記されている。一方、「今後の問題点」として、「全支店にどういう㊕者がいるか現場役付の認識が不十分であり適切な周知、徹底が必要である」と記されている。

 「㊕者」とは、共産党員やその支援者など、関西電力労働組合(関電労組)内の左派活動家のことだ。報告書では、「㊕者」に対する監視、孤立化など、「特殊対策」と呼ばれる対応が赤裸々に語られている。この文書は1970年、関西電力による労組活動家に対する差別問題に取り組んでいた弁護士に匿名で送られてきた。

 まず名前が出てくるのが「速水二郎」。「本人の横顔、家庭環境」の中にこう記されている。

 「入社した当時は本人も特に問題視された形跡はないが(昭和)34年、35年頃から他営業所からの転入者が中心となって民青活動グループができ、このころから速水も左傾化したものと見られている」

 ここで出てくる「民青」は共産党系の青年組織のことだ。これに続く「排除、孤立化について」という項目には、以下のように書かれている。

 「本人が転入前に全係員に対し孤立化の必要性を充分に説明し先ず地固めを行って受け入れに対処した」

 「速水は川西市に在住し阪急宝塚線(略)で通勤しており、阪急宝塚線利用通勤者には通勤途上、特に退勤の途上、行動を共にせぬよう、そして、孤立化の必要性をくどいほど説明し完全に引き離しを行った」

 「速水は将棋が好きな様子で毎日昼食後は必ずと言ってよい程将棋を指しており、その相手にも気を使っている。相手をすることを禁止すれば昼休みの本人の行動を監視する必要が生じるので一応フリーとしている。ただし、そっと役職者、信頼できる人等で観戦のふりを行い言動に注意している」

 関西電力から執拗に監視、孤立化されていた速水二郎氏は、今でも兵庫県川西市に暮らしている。今年89歳になる。秘密文書の自分に関する記述を初めて読んだときのことは、今でも覚えている。

 「そら衝撃的でしたね。こんなやり方がされてるっていうのは、知らんかったもんね。でも、やっぱりそうやったんかと思った」

 速水二郎氏は1955年に工業高校を卒業後、関西電力に就職し、大阪北支店三国営業所に配属された。主に電柱を建て配線線路を作り、それを保守する業務に従事した。当時、関西電力は、高卒の新卒を定期採用し始めたばかりだった。それまでは、敗戦後に中国や東南アジアから大量に復員してきた人々を採用してきた。泥だらけになる危険な仕事、汚れたままの職場、洗濯は手洗い……高校新卒の若い社員にとっては過酷な労働環境だった。

 「若者の不満が渦巻いていたんですよ。要求がいっぱいあるんやね。だから若者のグループができたんですよ」

 汚れた作業服を洗う洗濯機を買ってほしい、泥まみれの職場をきれいにしてほしいなどの要求を実現しようとするグループ、それ以外にもハイキング、文集作り、歌声など、さまざまな若者のグループが自然発生的に生まれたという。さらに当時は、60年安保に向けて、社会全体に政治への関心が高揚しつつある時代だった。速水氏らは、若者の要求をまとめて実現しようと関電労組三国支部青年婦人部を作った。当時、関電労組の主流派は、民社党支持の右派勢力だった(後述)。民社党の選挙応援を押し付けてくる執行部、役員の任期を終えると出世していく組合幹部……青年部の若者たちは、右派の執行部に不満を募らせていく。若者たちが中心となり、いったんは力を失った左派勢力が、関電労組の中で勢力を伸ばしていった。1958年には、関電労組執行委員の内、3分の1が左派によって占められるまでになった。62年の定期大会では、左派の岡村不二夫氏が、1票差で本部書記長に選出された。

関西電力による関電労組への干渉

後藤秀典

(ごとう・ひでのり)ジャーナリスト。1964年生まれ。NHK「消えた窯元10年の軌跡」、「分断の果てに〝原発事故避難者〟は問いかける」(貧困ジャーナリズム賞)など制作。著書に『東京電力の変節――最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』(旬報社)、『ルポ 司法崩壊』(地平社)がある。

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