福祉排外主義の高まりとその文脈――イギリスの事例

日野原由未(岩手県立大学社会福祉学部准教授)
2025/12/08
2024年の英総選挙で、キングストン・アポン・ハル東選挙区に掲示されたReform UKの選挙ポスター。

 2024年7月の総選挙において、イギリスでは14年ぶりに保守党から労働党へと政権が交代した。この政権交代の背後では、移民・国境管理の強化や、インフラを含む主要産業の再国有化などを掲げる政党Reform UKが、保守層を中心に一定の支持を獲得した。Reform UKは、後述する福祉排外主義の特徴を有する政党である。

 本稿では、イギリスにおける福祉排外主義の背景を踏まえたうえで、近年のイギリスにおける福祉排外主義の動向とその政治的影響力について、Reform UKを通して検討することとしたい。

福祉排外主義とは何か

 福祉排外主義(ウェルフェア・ショービニズム)とは、福祉サービスは自国民のために限定するべきという考え方である(1)

1 Goul Jørgen Andersen and Tor Bjørklund, 1990, “Structural Changes and New Cleavages: the Progress Parties in Denmark and Norway”, Acta Sociologica, Vol.33, Issue3, p.212.

 福祉給付や福祉サービスを維持することを前提に、その対象を国民に限定することを主張する。したがって、自国民に対しては左派的な福祉拡充の立場を取りながら、非自国民に対しては右派的な排除の立場を取る(2)。このことから、政治的な左右の次元を横断した支持の獲得が見込まれる。また、福祉排外主義は、国内に暮らす外国人による福祉給付や福祉サービスの利用を制限するという、外国人への「厳格な給付政策」という形態と、外国人が入国し包括的な社会保障制度を利用することを防ぐための「厳格な移民政策」という二つの形態を取ることも指摘される(3)。これは、移民政策における選別が、受け入れ後に移民が福祉給付や福祉サービスの対象となりうることを前提に、その厳格さの程度が設定されるためである。

2 Ennser-Jedenastik Laurenz, 2018, “Welfare Chauvinism in Populist Radical Right Platforms: The Role of Redistributive Justice Principle”, Social Policy & Administration, Vol.52, No.1. p.295.
3 Banting Keith, 2000 “Looking in three directions: Migration and the European welfare state in comparative perspective”, Bommes Michael and Andrew Geddes(eds.) Immigration and Welfare: Challenging the borders of the welfare state, Routledge, p.23.

 排外主義が文化的・民族的排斥の主張にとどまらずに、福祉排外主義として展開されるに至った背景にはどのような要因があるのだろうか。政治学者のヘルベルト・キッチェルトは、経済的な安定を公的年金や医療給付、失業保険といった社会政策に大きく依存している社会集団で排外主義がとくに生じやすいとしたうえで、産業構造の転換によって社会的地位と経済的安定を失った製造業ブルーカラー層の労働者が福祉排外主義に突き動かされ、外国人を排斥する態度を取るようになる場合があると指摘している(4)

4 Kitschelt Herbert, 1997, The Radical Right in Western Europe: A Comparative Analysis, University of Michigan Press, p.22;259.

ヨーロッパにおける福祉排外主義の展開

 2000年代以降、ヨーロッパでは福祉排外主義的な主張を掲げる政党が有権者の支持を動員して勢力を拡大してきた。典型例は北欧諸国である。

 たとえばデンマーク国民党は、1972年に結成されたデンマーク進歩党の党内分裂を経て、1995年に元介護士のピア・クラスゴーによって設立された。福祉給付は自国民に限定すべきだと主張しつつ、高齢者ケアの充実を訴えて支持を広げた。同党は2001年の総選挙で第3党となり、自由党政権に閣外協力というかたちで参加した。その後も2015年には得票率21.1%、37議席で第2党となり、右派政権に再び閣外協力で加わった。一方、2022年選挙では得票率2.6%で5議席と大きく後退したが、その背後では福祉排外主義の主張を展開する新党デンマーク民主党が、地方の公共サービス改善を訴えて有権者の支持を得て、得票率8.1%で14議席を獲得した。デンマーク民主党は、厳格な移民政策とともに高齢者ケアや地域医療サービスの質向上を主張しており、福祉排外主義の新たな担い手と目される。

 また、ノルウェーでは1973年に結成されたノルウェー進歩党が、福祉重視と反移民を主張してきた。2001年に第2党となり、2013年以降は保守党と連立政権を組み、2020年まで与党として政権運営に参加した。2025年の総選挙では、得票率23.9%、議席数48でともに過去最多を獲得し、野党第1党となった。

 そしてスウェーデンでは、「スウェーデンの福祉制度はスウェーデン国民のためにあるべき」と主張するスウェーデン民主党が1988年に創設された。同党は、2010年に国政入りして以降、支持を拡大し、2022年には得票率20.5%で第2党となった。

北欧諸国に加えて、オランダでも福祉排外主義の台頭が見られる。自由党は2006年以降議席を維持し、2010年には第3党として閣外協力に加わり、移民制限と自国民向け福祉の強化を掲げて勢力を拡大した。2023年には第1党となったが、2025年選挙では中道左派政党の民主66に第1党の座を譲った。

 このように、北欧・オランダでは福祉排外主義の主張を展開する政党が持続的に勢力を伸ばし、政党システムに組み込まれてきた。いずれも高福祉国家として知られるこれらの国は、もともとは移民も含めて住民の包摂を進めてきた。高福祉国家における福祉排外主義への支持という現象は、移民の労働市場への3入が制限される一方で、高水準の福祉給付の対象には該当するために、福祉国家の一方的な受益者、あるいは福祉国家そのものへの「脅威」として認識されやすいため生じるという(5)

5 水島治郎(2006)「福祉国家と移民―再定義されるシティズンシップ」宮本太郎編『比較福祉政治―制度転換のアクターと戦略』早稲田大学出版部、213頁。

 また、福祉排外主義の政治的成功を左右する要因の一つとして選挙制度が挙げられる。先に挙げた国の選挙制度は比例代表制であるため、多党制の政治体制を築き、小規模政党が政治的影響力を獲得しやすい。ただし、政党の議席獲得に必要な最低得票率を定めた阻止条項が存在する。デンマークでは2%、ノルウェーでは補正議席の配分に限って全国得票率2%を設けている点を除いて阻止条項がなく、スウェーデンは4%、オランダでは下院の議員定数150議席に占める1議席分の得票率、すなわち約0.67%が設定されている。前述の最近の選挙結果は、これらの国の福祉排外主義政党の多くが阻止条項をものともしない支持を有権者から獲得していることを示している。

イギリスにおける福祉排外主義の文脈

日野原由未

岩手県立大学社会福祉学部准教授。1986年生まれ。博士(政治学)。専門は比較福祉国家論。著書に『帝国の遺産としてのイギリス福祉国家と移民』(ミネルヴァ書房)など。

地平社の本

注 目 特 集

ガザを知る

CHIHEI Podcast

2026年1月号(最新号)

Don't Miss