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始まる大合唱
永田町で「憲法改正」の大合唱が始まろうとしている。
2月の衆院選挙で、自民党は結党以来最多となる316議席を獲得し、圧勝した。憲法改正案の発議に必要な3分の2の議席を戦後初めて、衆院で単独で確保したことになる。この結果を受けて、高市早苗首相は憲法改正への動きを加速する考えを表明した。
2月18日の会見で、「憲法改正では国民投票の発議まで目指す考えか」と記者に問われた高市氏は、「(憲法審査会での各会派の考えは)かなり熟してきた。論点整理や議論の蓄積も踏まえると、各会派の協力を得て少しでも早く改正案を発議し、国民投票につながる環境をつくっていけるように、自民党として粘り強く取り組んでいく」と語った。衆院選のさなかの2月2日、新潟県上越市であった演説でも、「憲法になぜ自衛隊を書いてはいけないのか。実力組織として位置づけるため、憲法改正をやらせてほしい」と憲法九条改正に意欲を見せていた。
高市氏の改憲シフトは人事でも明らかだ。衆院憲法審査会長に、自民党憲法改正実現本部長を約4年間務めた側近の古屋圭司議員をあてた。2月20日に会長に就任すると、古屋氏は、国会内で記者団の取材に応じ、「議論はほぼ出尽くしている。どの項目で議論を進めるかも含めて、建設的に議論する時期に来ている」と述べ、早期の憲法改正発議に意欲を示した。「(機は)熟してきた」と高市氏が述べたことと歩調を合わせるように、「議論は出尽くしている」とする古屋氏。さらに、衆院憲法審査会の与党筆頭幹事には、野党の反発をおさえて憲法審査会の毎週開催を定着させた新藤義孝議員がついた。政権幹部の一人は朝日新聞記者の取材に、「首相が目指したのは初の女性総理ではなく、初の憲法改正を実現した総理だ」と解説したという(2月19日付朝日新聞朝刊2面)。
高市氏率いる自民党の圧勝という結果は、憲法改正に対する国会議員の意識にも影響を与えている。朝日新聞社と東京大学・谷口将紀研究室の共同調査によると、衆院選の当選者のうち、憲法改正の賛成派が全体の93%に上った。前回2024年衆院選時の67%から大きく上昇した。具体的な改正項目としては、自民党が公約に掲げていた「自衛隊の保持の明記」を挙げる当選者が80%に達した。第二次安倍政権が生まれた2012年以降、衆院選の当選者全体に占める改憲賛成派の割合は、2012年89%から、14年84%、17年82%、21年76%と減少傾向が続いた。石破政権時の前回2024年は67%まで下がり、今回、大きく反転したという(2月12日付朝日新聞朝刊1面)。
戦後の改憲論議の歴史をざっと振り返ると、①独立回復前後から1960年代前半の復古的な改憲論の時代、②憲法改正より経済成長を優先させた1960年半ば~1980年代の凪の時代、③湾岸戦争をきっかけに浮上した1990年代~2000年代始めの国際貢献を理由とする改憲論の時代、④安倍晋三元首相が主導した近年の改憲論の時代、と分類できる。いずれも「3分の2」が壁となり、憲法改正原案の発議にいたることはなかった。しかし、自民党が単独で衆院での「3分の2」の壁を破ったことで、改憲論議は新たなステージに入った。今後の憲法審査会の行方は予断を許さないが、憲法改正原案作りが一気に加速する可能性がある。








