【5月限定全文公開】ガザ後の世界――不処罰という鮮明な課題(上)

ヤコヴ・M・ラブキン(モントリオール大学名誉教授、歴史学者)翻訳=南部真喜子
2026/05/19
Group of civilians walking along a dusty road carrying belongings, with a burned-out car and desert landscape in the background (historical scene).
1948年に起きたNAKBAで家を追われガリラヤ地方から逃れてきたパレスチナ難民たち。

翻訳=南部真喜子(東京外国語大学大学院総合国際学研究院特別研究員)
※本稿は東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター、東京大学附属図書館U-PARLの共催により2025年11月15日に東京大学で行なわれたラブキン教授の公開講演「イスラエルの不処罰が世界について物語ること」の内容を2026年2月半ばの時点で加筆したものである。


 これは普遍的な悲劇であると、私は常に確信していた。これは中東における紛争の一つではない。これは国連後の世界、ジュネーブ条約後の世界、人権宣言後の世界における実験室であり、この世界とは理性的でさえないために非常に恐ろしいのだ。ただただ凶暴なのである。

ジャン=ピエール・フィリウ著『ガザの歴史家』(原題:A Historian in Gaza)より

 ガザのジェノサイドを容易にするために、国際法の最も基本的な規範を骨抜きにした結果、現職の国家元首を拉致し主権国家を乗っ取ることが「自衛」と称して可能となった。ガザで犯された残虐行為はもはや封じ込めることはできない。

ヌーラ・エラカート 人権活動家・ラドガーズ大学教授(米国)

プロローグ

 現代イスラエルの不処罰は神学、より正確にはキリスト教プロテスタント宗派の起源に根差しています。イスラエルの地はユダヤ教の伝統において核となる精神的地位を占めているものの、聖地へのユダヤ人の大規模入植、ましてや軍事力を用いた入植は明確に禁じられています。したがって、17世紀初頭から「聖地のヘブライ人の集結」を目指したのがユダヤ人ではなくキリスト教徒だったことは驚くに当たりません。彼らの目的はキリストの再臨を早め、ユダヤ人をキリスト教徒に改宗させることでした。

 プロテスタントの福音主義諸派の信仰との親和性は、イスラエル国家が今日、米国をはじめとする国々において絶大な支持を得ていることを説明する一助となっています。これらの国々は数千万人にのぼる福音主義的プロテスタントを擁し、強力な親イスラエル勢力となっています。

 不処罰はこのような信念から自ずと生じます。旧来の宗教を政治化した一派である現代の国民ユダヤ教の信奉者たちも後にこの考え方を取り入れました。ユダヤ教徒よりもキリスト教徒により顕著ではあるものの、どちらのグループも、神が現代イスラエル国家をユダヤ人に与えたと確信しています。さらに、多くのシオニストたちは聖書の預言者たちが告げてきた約束された地へのメシア的帰還の前兆を目撃していると信じていますが、これは当然ながら政治的近代性に対する深刻な挑戦であると言わざるを得ません。あるイスラエル人の同僚は、イスラエルの建国に関わった非宗教的シオニストたちの主張をこう揶揄しています。「神は存在しない。だが神はこの地を我々に約束された」。

 ユダヤ人によるシオニズムは19世紀末に出現しましたが、その前身であるプロテスタントのシオニズムより数百年遅れてのことでした。当初は多様な諸潮流を汲んでいたシオニズムのなかで最終的に勝利を収めたのは、次の4つの主要目的を掲げたヨーロッパ型のナショナリズム運動でした。それらは、第1に、トーラーを中心に形成されてきた越境的なユダヤ人アイデンティティを、他のヨーロッパ諸国を模倣した民族的アイデンティティへと転換すること。第2に、聖書とラビ・ヘブライ語に基づく新たな国民言語を創ること。第3に、ユダヤ人を従来の故郷からパレスチナに移住させること。第4に、パレスチナにおいて政治的・経済的支配を確立することでした。他のヨーロッパのナショナリズムが主に政治的・経済的主権の獲得に注力していたのに対して、シオニズムは最初の3つの目的、すなわちユダヤ人のアイデンティティ、言語、そして地理の再定義というはるかに困難な課題を自らに課すことになりました。当時の感覚では、シオニズムの思想は斬新で大胆、かつ異端とみなされ、大多数のユダヤ人が反発したのも不思議ではありません。

 初期のシオニスト入植者たちが最初にパレスチナに到着したのは、シオニズムが政治的に結晶化する10年以上前の1880年代でした。ロシアの著名なシオニスト知識人アハド・ハ=アム(本名アシェル・ヒルシュ・ギンズバーグ、1856‐1927)は、これらの初期入植者たちの先住パレスチナ人への残酷な行為に遺憾の意を示しています。パレスチナ訪問後の1891年にサンクトペテルブルクで発表した記事において、彼は先住民たちの怒りと憎しみを招いた入植者たちの「非難されるべき行為」を嘆きました。

 これらの行為がいかに非ユダヤ的であったとしても、それが当たり前のことのように思われていたのは、20世紀初頭のヨーロッパ人が入植による植民地主義(入植者植民地主義)を正当でむしろ立派なものと見なしていたからです。植民地下の先住民は未開とみなされ、入植者と同じ配慮を受けるに値しないとされたのです。人種主義が正当性を失い始め、第二次世界大戦後に複数の入植者植民地が解体されると、シオニズムのイデオロギーは時代にそぐわないものとなり、イスラエル国家は1948年の一方的な独立宣言以来、ヨーロッパの植民地主義の遺物として西アジアにおける恒常的な紛争と不安定化の原因となりつづけました。シオニスト国家としてのイスラエルはさらに、核兵器と世界中の熱心な支持者ネットワークを装備し、東地中海から離れた国々さえも危険にさらすようになりました。

 シオニズムの公式なイデオロギーは、イスラエルを国境のない国家としました。地理的には、軍事的征服や植民地化によって拡大する可能性があります。シオニズム運動と歴代イスラエル政府は、自国の国境を決して明確に定めないことに多大な労力を費やしてきました。この国境不在の性格は、イスラエルが自国の市民ではなく、世界のユダヤ人に属するのだとする主張にも表れています。これにより、世界中のユダヤ人組織がイスラエルの従属組織へと変貌しつつあることがますます顕在化しています。シオニストの億万長者による強い支配は依然として強固である一方で、ガザの殲滅を支持する諸政府の偽善に対する民衆の不満は爆発寸前です。欧米諸国ではイスラエルへの失望感が高まっており、各国政府がイスラエルに圧力をかけることに躊躇しているために、各地のユダヤ人は民衆の怒りの矢面に立たされる恐れがあります。ともすればイスラエルの行動が各国のユダヤ人の考えを代表していると見なされてしまうためです。ユダヤ人は最もシオニスト的な者であってもイスラエルの行動にほとんど影響を与えませんが、皆がイスラエルの人質となっているのです。イスラエルは、大衆の意識においてユダヤ人とイスラエルを混同させることにほぼ成功しています。ユダヤ教とシオニズム、そしてユダヤ人とイスラエル人の区別を曖昧にすることでこの混同をさらに助長しているのです。これはシオニズムを強化し、反ユダヤ主義を煽り、最終的にはより多くのユダヤ人がイスラエルへ移住することを駆り立てる可能性さえあります。シオニスト国家はこれを双方にとって有利な状況とみなすことでしょう。新たな移民は知的資源、起業家精神、金融資源を培い、イスラエル国防軍(IDF)により多くの兵士を提供することになるからです。

 欧米諸国の政治家たちも、自国のユダヤ人市民をイスラエルと結びつけるようになっています。トランプ大統領は米国でユダヤ人聴衆に語りかける際、イスラエルを「あなたがたの国」と呼んでいます。バイデン前大統領は「イスラエルなくしては、ユダヤ人はどこにいても安全ではない」と言い、合衆国憲法で謳われている基本的自由ではユダヤ人を守れないと示唆する発言を行ないました。こうした部族主義的な見解は、ファシストを含むイスラエルの最も熱心な支持者たちの間で広く浸透しています。アドルフ・ヒトラーは1941年の演説で、「英国ユダヤ人のディズレーリ卿はかつて、人種問題こそが世界史の鍵であると語った。われわれ国民社会主義者はこの思想とともに成長してきた(1)」と述べました。このことは、反ユダヤ主義者たちがシオニズムを高く評価する数多い例の一つです。

(1)  Pankaj Mishra. 2025. World after Gaza: A History (London: Penguin), p.17 脚注より引用

 国連特別報告者フランチェスカ・アルバネーゼを含む複数の国際政治の専門家たちが、ガザ・ジェノサイドに運命的な普遍的意味があると考えるのも当然です。これはパレスチナ人の悲劇のみならず、世界の最も強力な支配者たちが侵略者を容認し、正当化し、資金と装備で支援する現代世界の縮図でもあります。植民地主義帝国の衰退は通常、反植民地抵抗運動に向けられた、しばしば狂乱的な暴力の増大を伴うものです。イスラエル研究の第一人者であるアニータ・シャピーラは、「シオニストの心理は民族解放とヨーロッパによる中東の植民地化運動という相反する要素によって形成された」と書きました。ほとんどのイスラエル人は自らを植民者とは見なしていないため、パレスチナ人に対して暴力を振るう際に、自分たちが生存をかけた正当な闘いに従事していると信じています。このような考えは、欧米諸国の大半を特徴づけてきた独善的な自己正当化と、自分たちならば責任を免れることができるという不処罰性を体現していると言えます。

イスラエルへの支持

 イスラエルの不処罰性は、ガザに対するジェノサイド戦争が多数の国によって正当化され、それらの加担によって助長されていることに表れています。ロシアのウクライナに対する軍事行動は、経済、文化、スポーツ、政治の各分野で大規模な制裁を引き起こしました。しかし、イスラエルは、比較にならないほど深刻な被害を民間人に与えているにもかかわらず、手出しできない状態のままです。欧州連合(EU)はロシアに対して数十件の制裁措置を発動していますが、イスラエルに対しては何一つ合意に至っていません。イランは民生用の核濃縮活動を理由に厳しい制裁を課されている一方で、イスラエルは非公表の核兵器保有に対して何ら制裁を受けていません。ロシアは2022年以来オリンピックへの出場を禁止されているのに、イスラエルの代表選手たちはこの間の冬季オリンピックでも自国の国旗を誇らしげに掲げて行進していました。

 ロシアに課された厳しい経済制裁は、イスラエルのパレスチナ人に対する虐殺と強制飢餓への対応として、外交的な自制要請のもとでわずかに抑制されながらも継続する武器供給と著しい対照をなしていると言えます。EUは欧州の航空会社にロシアへの飛行を禁止しましたが、イスラエルから欧州への直行便を阻止することはありませんでした。イスラエルのサッカーファンたちは他国でパレスチナ人とその支持者を攻撃しています。もっとも顕著な事例は、ガザのジェノサイドが始まって1年以上が経った2024年11月にアムステルダムで起きた襲撃でしょう。

 イスラエルに対する不処罰は、世界の国々による加担の構図を反映しています。イスラエルが米国から一貫した支援を受けていることは周知の事実であり、米国はドイツとともに、武器と軍事情報の90%に上る軍事的・政治的支援を提供しています。国連特別報告者のフランチェスカ・アルバネーゼは、62カ国の政府が(そのすべてが欧米諸国ではありませんが)、イスラエルに武器、弾薬、部品、燃料、そしてジェノサイドを継続するためのその他の手段を供給しつづけている実態を明らかにしています。欧米諸国を中心とする17カ国が、ガザを破壊したF‐35戦闘機の共同生産に参加しています。キプロスにある英国の軍事基地は、イスラエル軍の戦闘機の予備飛行場として機能しています。

 イスラーム諸国やアラブ諸国の政府は、イスラエルによるガザの破壊を非難し抗議しているものの、経済制裁はもとより軍事制裁を課した国は一つもありません。これらの国の政権が、構造的に米国に依存している事実があるからです。例えば、トルコの大統領はイスラエルに対して激しい非難を浴びせているにもかかわらず、ロシア、アゼルバイジャン、カザフスタンから自国を経由してイスラエルに送られている燃料供給を遮断していません。2025年6月にイランのミサイルがイスラエルに向けて飛来した際には、エジプト、ヨルダン、サウジアラビアの軍が米国、英国、フランスとともにその防衛にあたりました。ロシアや中国、そして大半のグローバルサウスの国々は、ガザにおける破壊の規模と民間人の被害に強い非難を表明するものの、イスラエルや米国との対立は避けています。

 イスラエルへの不処罰は、ドイツのメルツ首相が2025年夏のイスラエルによるイラン攻撃を賞賛した際にも鮮明に浮かび上がりました。彼は欧州の多くの支配者たちが考えていることを口にして「イスラエルは我々のために汚れ仕事をやってくれている」と発言したのです。言い換えれば、イスラエルは欧米諸国の覇権を永続させるための軍事的前哨基地としての役割を全うしているのです。フランスの詩人ポール・ヴァレリーはヨーロッパを「アジアの小さな岬」と定義しましたが、アジアの残りの大部分を数世紀にわたり支配してきたという事実は、今日イスラエルがその維持に貢献している現実として残りつづけています。

 実際、イスラエルは「アジアの野蛮」に対するヨーロッパの防波堤として構想されました。政治的シオニズムの創始者セオドール・ヘルツルはこれについて極めて率直に語っています。代表作『ユダヤ人国家』において、彼はイスラエルの使命をアジアにおけるヨーロッパ文明の防壁と位置付けています。欧米諸国のイスラエル支持は広範かつ多面的であり、欧米の覇権に抵抗する者たちに対してイスラエルが行なう「汚れ仕事」の見返りでもあるのです。

 イスラエルはしばしば、西アジアにおける欧米諸国の地政学的利益の推進者と見なされます。当時はデラウェア州選出の若き上院議員だったジョー・バイデン前大統領は、イスラエルに対する自身の認識を次のように述べています。

 「イスラエルは我々が投資する『最高の30億ドル』だ」と彼は1986年の上院で発言し、さらにこう付け加えました。「もしイスラエルが存在していなければ、米国はこの地域に対する利益を守るために新たなイスラエルを創造しなければならなかっただろう」。

 この意味で、イスラエルはエジプトのガマール・アブドゥル=ナーセル元大統領のようなカリスマ的指導者たちが率いたアラブ民族主義や汎アラブ主義を弱体化させる上で大きな役割を果たした代理人として見られるでしょう。

 しかし、米国やその他の西側諸国の利益にとってイスラエルがどれほどの戦略的価値を持つかについては定まった評価はなく、むしろ懐疑論者は増えています。シカゴ大学の地政学者ジョン・ミアシャイマー教授は、イスラエルと米国が「密接に結びついている」と認めつつも、イスラエルはこの地域における米国の立場を弱めていると主張しています。イスラエル・ロビーに関する本の共著者でもある彼は、キリスト教シオニストとユダヤ教シオニストたちの影響によって米国の外交政策が歪められていると非難しているのです。長年イスラエルの首相の座に就き、米国との関係を強固にしたベンヤミン・ネタニヤフはかつてこう述べています。「私は米国の本質を知っている。米国とは、容易に正しい方向に動かすことのできる存在だ。彼らは我々の邪魔をすることはない」。ガザで継続されるジェノサイド、残りの被占領地におけるパレスチナ人に対する暴力的な収奪、そしてイラン攻撃への米国の関与は、彼の主張が正しいことを証明しています。現在、イスラエルは米国にイランを攻撃することを促しているのです。

 しかし、親イスラエル団体は大きな損失にも直面しています。少なからぬユダヤ人たちはパレスチナを支持し積極的に抗議活動に参加し、キャリー・プレジーン・ボラーのような有名な保守的キリスト教活動家はシオニズムを公然と非難しています。ガザのジェノサイドは、キリスト教徒とユダヤ教徒の双方によるイスラエル支持を、決して終わらせたわけではないものの、著しく弱めました。例えば、多くのキリスト教シオニストたちは、イスラエル軍がガザにある世界最古の教会の一つを攻撃したことや、ベツレヘムの聖誕教会へのアクセスを制限していることに憤っています。福音主義的プロテスタントの間で人気のあるタッカー・カールソンら複数のジャーナリストたちも、イスラエルが米国の政治家を操っていると非難しています。そのような政治家たちは、米国の国益よりもイスラエルの利益を重視しているからです。カールソンはさらに、イスラエルとその支持者たちがメディアや大学における言論の自由を著しく制限し、それによって米国の精神において不可侵な権利の一つが脅かされていることも非難しています。

 保守派と左派の反対勢力の融合は、イスラエルの立場を著しく弱めていると言えます。保守派ジャーナリストのアンドリュー・ナポリターノ元判事は、イスラエルへの厳しい批判で知られる左派批評家マックス・ブルーメンソールを番組に迎え、イスラエルによるパレスチナ人に対する虐待と、熱烈なキリスト教保守運動の活動家であったチャーリー・カークの暗殺にイスラエルが関与したとする主張の両方について説明させました。この見方によれば、カークが徐々にシオニズムと距離を置いたことが、同氏の米国での活動資金を支えてきた裕福な支援者たちとイスラエルを狼狽させました。カークの暗殺は、イスラエル・ロビーからの離脱を考える人たちへの教訓となるでしょう。

 このように、イスラエルに対する風向きは変わりつつあるものの、ロビー活動は依然として強力です。その背景には、CBSやTikTokなどのメディアを直接支配しているシオニストの億万長者たちの膨大な資金力があります。これらの「イスラエル・ファースト」の支持者たちは、地方の教育委員会からホワイトハウスに至るあらゆるレベルにおいて、米国の選挙でイスラエルの利益を確保するために懸命に活動しています。英国では、ジェレミー・コービン元労働党党首が党から追放されましたが、同氏が反ユダヤ主義者であるとする偽りの口実のもとで、明らかにイスラエルの支持者たちによって仕組まれたものでした。イスラエルによるこうした規模の政治的介入でさえ主流メディアではほとんど批判や精査を受けません。特に中国やロシアの介入疑惑をめぐる懸念に比べるとその違いは明らかです。最近になりようやくオランダがNATO加盟国として初めてイスラエルを安全保障上の脅威として名指ししました。

 最後に、欧米諸国がガザのジェノサイドを支援している理由の一つに、これら諸国の政治階級の多くがジェフリー・エプスタインのネットワークに関与していたことも挙げられるでしょう。真摯な観察者たちの見解では、エプスタインがイスラエルのために欧米諸国の高官を脅迫し、コントロールするための罠を仕掛けたと示唆されています。エプスタインの活動の目的が何であれ、それらは支配階級の堕落と犯罪性への不処罰を露呈し、彼らに対する信用を著しく失墜させたことは間違いないでしょう。

他国への攻撃と標的暗殺

 イスラエルはこれまで長年、越境侵攻を行ない、複数の国家間戦争を仕掛けてきました。これらの侵攻は、当初はイスラエルが「潜入民」と見なした人々、すなわち1947年から49年にかけて住居を追放され、国連安全保障理事会決議194によって帰還の権利が認められたパレスチナ人を対象に向けられました。イスラエルは近隣諸国からの難民の故郷への帰還を禁じただけでなく、「不在者」という区分を作り出し、イスラエル国家の領内に留まりながらも、委任統治領パレスチナから追放されたり、家からの避難を余儀なくされたりしたパレスチナ人の諸権利をも否定しました。イスラエル建国から最初の8年間、イスラエル領内のパレスチナ人は軍政下で生活し、イスラエル軍による度重なる虐殺を経験しました。

 イスラエルは1956年に、国連憲章を明白に侵害してエジプトを攻撃しました。当時はまだ、シオニストの代理組織であるイスラエル軍に軍事を完全に委ねることなく、自らもその不正行為を担っていたフランスとイギリスに加担する形の参戦でした。1967年にはさらに大規模な侵攻をエジプト、シリア、ヨルダンに対して行ない、パレスチナ人の居住地の大半がイスラエルに占領されました。イスラエルの外交官たちはこの攻撃を先制的な自衛であると説明しましたが、軍指導部はそうではないことを知っていました。軍人モシェ・ダヤン(1915‐1981)は、イスラエルが仕掛けて勝利することになるその戦争の数カ月前にイスラエル軍についてこう述べています。

 「イスラエル軍は『国防軍』と呼ばれるが、防衛のための軍隊ではない。(…)1956年のシナイ作戦、報復行動、そして越境侵攻は純粋な攻撃作戦であり決定的な価値があった。(…)実際に行なわれた作戦に限らず、イスラエル国防軍の構想そのものが攻撃的である。(…)イスラエル国防軍は、理論・計画・実行において、またその実体と精神において本質的に攻撃的な軍隊である」

 イスラエルはまた、繰り返しレバノンを攻撃し、1982年のサブラとシャティーラ虐殺をはじめとするパレスチナ人の大量虐殺を助長してきました。イスラエル軍機は定期的にレバノンやシリアに侵入して標的を攻撃し、両国の領土の一部を占領しています。核兵器を保有するイスラエルは、1981年にイラク、2025年にはイランという自らと国境を接していない両国の核施設を狙った空爆を行ないました。

 イスラエルが実践する別の暴力に標的暗殺があります。核科学者、政治・軍事指導者、対イスラエル攻撃を行なった容疑者、そして非武装の多くの民間人をイスラエルは殺害してきました。こうした暗殺は誤った標的を攻撃することも多く、例えば1973年にノルウェーでモロッコ人ウェイターが殺害された事件などがあります。イスラエルは2024年に、ハマースの政治指導者イスマイール・ハニーヤをテヘランでの外交任務中に暗殺しました。2024年9月には、イスラエルの秘密機関がレバノンで数千台のポケベルと数百台のトランシーバーを爆発させ、42人を殺害し、4000人以上の民間人を負傷させました。その1週間後、イスラエルはベイルートに80個以上の強力な爆弾を投下し、ヒズブッラーの本部とその周辺地区一帯を破壊し、同組織の指導者ハッサン・ナスラッラーを殺害しました。2025年のドーハで、表向きはまさに交渉中の相手であったハマースの交渉チームを暗殺しようとして失敗した際にも、非武装の民間人が殺害されました。

 以上はほんの一例に過ぎませんが、この手法はイランに対しても実行されています。2025年6月、イランへの攻撃の準備において、イスラエルの工作員がイランの政府高官や科学者を暗殺したのです。もしテロリズムが敵対者に恐怖を与えるために民間人に暴力を振るう手法であるならば、イスラエルは間違いなくテロ国家と言えるでしょう。

 イスラエルに対する不処罰は、米国が中東、東南アジア、ラテンアメリカで繰り広げる違法な戦争と密接に結びついています。米軍はオバマ政権下でドローンやミサイルによる標的暗殺を実践し始めました。こうして2020年には、イランのカーセム・スレイマニ司令官が隣国イラクの外交訪問中に殺害されたのです。2026年にベネズエラの大統領が拉致された事件も、米軍による暗殺作戦の一種です。

収奪、追放、そしてジェノサイド

 イスラエルは地域内の国とはときおり外交を行なうことがあっても、パレスチナ人に対する対応においては主に武力を行使してきました。これは入植者植民地主義の論理を映し出すものであり、それはしばしば、イスラエルが「危険な近隣環境」にあるために自衛しなければならないのだという不満めいた主張によって覆い隠されています。複数のイスラエル人学者たちがこの現象について説明しています。例えば、イスラエル人の歴史家ベニー・モリスはこう述べています。

 シオニズムのイデオロギーと実践は必然的かつ本質的に拡張主義的である。シオニズムを実現するには、入植者集団を組織しパレスチナに派遣する必要があった。各入植地が根を下ろすにつれ、自らの孤立と脆弱性を痛感し、当然ながら周囲に新たなユダヤ人入植地の創設を求めるようになった。これにより、既存の入植地はより「安全」となるが、新たな入植地はそれ自体が「前線」となり、今度はそれらを防衛する「新たな」入植地を必要とした。六日戦争の後、同様の論理がゴラン高原やエルサレム周辺地域へのイスラエル入植地拡大の根拠となった。前者はヨルダン渓谷の入植地をシリアの攻撃から守るため、後者は市の北、東、南側の無防備な側面を守る防壁とするためとされた。

 この論理を踏襲するように、わずか数カ月の間にイスラエル軍がガザへ投下した爆弾の量、殺害し負傷させた民間人の数は、ロシアがウクライナで3年以上にわたる戦争で引き起こしたものより大きなものでした。これによりガザでは、民間人と戦闘員の死傷者比率が大幅に上昇し、2025年5月時点では4対1と推定されています。これは想定される戦闘員一人につき、主に女性や子どもの民間人4人が殺害されているということです。

 イスラエルは建国初期の戦争を通して作られた「アラブの大国に対峙するシオニストの弱小国」のイメージを覆し、地域全体を支配する巨人のイメージへ転換させました。核武装国家であるイスラエルは、いずれ窮地に立たされた際、自らの「存続上の危機」を回避するために地域的な核戦争に訴えるかもしれません。大多数のイスラエル人がこの「存続上の危機」を、民族的排他主義にもとづくシオニスト体制への脅威であると認識しています。この軍事戦略は「サムソン・オプション」として知られています。

 パレスチナ人の解放のために核攻撃されるリスクを冒す覚悟のある国は世界に存在しないと言えるでしょう。イスラエルはさらに、より強力な同盟国である米国に、イスラエルの代わりに戦争を行なわせる目的で核兵器の使用を脅迫するかもしれません。論者の中には、2025年6月にイスラエルがワシントンに強要してイランの民間核施設を爆撃させたのもこの手法であり、本稿執筆時点でも、イスラエルが戦争を呼びかけ煽りつづけていると主張する人々もいます。同様に、ウクライナの指導者たちは、NATOをロシアとの直接紛争に巻き込ませようと試みてきました。イスラエルによるジェノサイドは、世界のあらゆる場所において、恥知らずの攻撃的な潮流を増幅させています。トランプ大統領が2025年秋にカリブ海で複数の船舶を爆撃した行為は、麻薬密輸を防ぐという口実が何であれ、ベネズエラを威嚇するためのものでした。麻薬密輸疑惑はあまりにも不自然なものであることが明らかになり、米国のテロ行為を受けて海から救出された生存者数名を逮捕どころか起訴さえできませんでした。ノーベル平和賞志願者のこの大統領は、「最高司令官」の正式名称を揶揄され「暗殺司令官」と呼ばれています。

 イスラエルの長年の慣行に倣い、「力こそ正義」という言葉が、米国で国際法の考慮に取って代えられ、ひいては世界の他の地域でも重大な変化を予兆しています。トランプ大統領は2026年1月、世界の権力を制約できる唯一のものは自身の「独自の道徳観」と「独自の感覚」であると述べ、国際法の必要性を明白に否定しました。トランプ大統領の副主席補佐官スティーブン・ミラーも「我々は現実世界(…)、すなわち、強さによって支配されている世界に生きている。武力によって、権力によって支配されている世界だ。(…)これが世界の鉄の法則だ」と述べています。

 こうした現在の潮流を物語る出来事に、2025年11月にガザに関するトランプ案を国連安全保障理事会が承認したことがあります。この20項目の計画は、ドナルド・トランプを名ばかりの終身顧問とする植民地行政を導入するものです。ガザのジェノサイドに最も深く加担した国の指導者が、ガザの未来を担うことになったのです。国連の基本原則である民族自決の権利は完全に無視されました。この計画ではハマースは武装解除されることになっており(これはイスラエル軍がジェノサイドを犯した後でさえ達成できなかった重要な目標とされています)、その一方でイスラエルは複数の欧米諸国から武器供与を絶え間なく受けています(ドイツはトランプ案承認直後に武器供与を再開しました)。

 要するに、安保理は、イスラエルとその共犯国である米国の勝利を宣言したのです。決議に賛成票を投じた国の政府たちは、自国の世論に背いたのです。これは特に、イスラーム諸国やアラブ諸国の民意において顕著だったと言えます。むき出しの力が国際法に勝ったのです。こうして不処罰の時代が公式に幕を開け、それと同時に外交は「宥和政策」として信用を傷つけられました。この一連の出来事は、国連に修復不可能な打撃を与えたかもしれません。

 この傾向は、冷戦終結直後の一極体制の出現とともに始まりました。米国はカラー革命を組織し、なかでも2013年から2014年にかけてのマイダン革命はとりわけ重要な結果をもたらしました。2021年と2022年に欧米諸国がロシアの外交的働きかけを拒否したことは、ウクライナでの戦争を激化させ、欧州をはじめとする他の地域での戦争リスクも高めました。米国がすべての軍縮条約から脱退したことは、トランプが大統領に就任するはるか前から始まっていた傾向の一部なのです。

国際法の蹂躙

 国際公法は一般的な法の理解とは異なり、国際関係における執行のメカニズムが弱く、存在していません。国際機関、とりわけ国連は、紛争を予防し緩和することをその使命として存在します。イスラエルは、こうした機関を弱体化させる先頭に立ち、はじめは法を遵守しているふりをしながらもそれに反する行動を取りつづけ、のちには公然と国際法を完全に無視しています。もちろん、「力こそ正義」の言葉に倣う国はイスラエルが初めてではありません。しかし、これほど露骨に行動する先例はないでしょう。

 広範な非難や世論の批判にもかかわらず、シオニスト国家は国際的な圧力には動じないことを恐れ気もなく示しています。イスラエルが国連、ひいては道徳的議論を侮辱していることはよく知られています。イスラエル当局は、ジェノサイドの容疑に関する国際司法裁判所(ICJ)の調査を一蹴し、これは「蔓延する反ユダヤ」の一例だと非難しました。イスラエルの国連代表は2024年に、壇上で国連憲章をシュレッダーにかけて破り捨てるという仰々しい振る舞いを見せました。イスラエルは、その国際的な正当性が1947年の国連総会決議に基づいていると言える唯一の国であるにもかかわらず、今やこの国際機関を「反ユダヤ主義の温床」として非難しているのです。

 イスラエルは長年にわたり、米国の後押しを受けながら国際公法そのものを弱体化させる動きの先頭に立ってきました。こうした動きには、主要な欧米勢力による国際刑事裁判所(ICC)への脅迫という圧力も含まれています。米国のリンジー・グラハム上院議員は、ICCのカリーム・カーン主任検察官に対し、ICCは「イスラエルのような民主主義国家のためではなく、アフリカや暴君のプーチンのためにある」のだと発言し、その露骨な二重基準をさらしました。カーン検察官は多大な圧力と身の安全への脅威に直面し、モサドが身辺で活動しているとの警告まで受けています。米国は同氏に加え、フランチェスカ・アルバネーゼ国連特別報告者に対しても制裁を発動しました。制裁対象の彼女とその家族は米国への入国を禁じられています。米国に保有する資産も凍結され、米国の法律下では、あらゆる米国人または米国法人、ならびに海外の個人や企業とその子会社などが、制裁対象者である彼らに資金や物品、サービスを提供することを禁じられているのです。

 米国はかねてより国際法に懐疑的でした。トランプ政権はその延長線上で、国連や世界保健機関(WHO)などの国連機関に対する攻撃をさらに激化させ、多くの国際機関からの脱退を命じました。世界の裁判所は、主にイスラエル国家に対する告発や告訴を理由に、ワシントンと一部の従属国からの封鎖攻撃を受けています。米国はイスラエルの要請に応じ、かつ国連本部を置く国としての義務に違反する形で、2025年秋の国連総会に出席するパレスチナ代表団へのビザ発給を拒否しました。

 イスラエルとその欧米諸国の同盟国は、パレスチナ人住民への主な支援の源となっている国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動を著しく損なわせることにも成功しました。イスラエル軍がガザで殺害した国連の人道支援スタッフは126人に上り、その多くは意図的なものでした。グテーレス国連事務総長は、これは国連史上最悪の犠牲者数だとし、「人道支援関係者、ジャーナリスト、医療従事者、あるいは民間人の殺害を新たな常態として容認することは、いかなる場所、いかなる状況下においてもあってはならない。不処罰の余地はあってはならない」と述べていますが、これは今のところ空虚な願いに過ぎません。

 米海軍がカリブ海の公海上で麻薬を密輸していたとされる複数の漁船を爆破したことは、イスラエルがガザに向かう人道支援物資を積んだ非武装の船舶を公海上で繰り返し攻撃し、時には乗組員を殺害してきたやり方を倣ったものに思えます。イスラエルは政治移行期にあるシリアへの爆撃を繰り返し、3世紀ものあいだ他国を攻撃したことのなかったイランを攻撃しているのです。

 イスラエルは「スタートアップ国家」と呼ばれていますが、そのスタートアップ企業の多くは、イスラエル軍のハイテク諜報部門である第8200部隊の退役軍人により設立されています。その多くは米国に拠点を置き、現在の企業価値は数千億ドルにも達しています。これらの退役軍人は大手ハイテク企業への参入を果たし、ネット上でのイスラエルに対する批判を抑圧したり、イスラエル軍にAIやクラウドサービスを提供したりしています。これにより、モサド元長官が最近認めたような「広範な破壊工作ネットワーク」を構築するシステムを形成しているのです。

 イスラエルへの不処罰が続いている重要な理由は、それが世界資本主義経済にとって「不可欠な国」の地位にあるからです。イスラエルは最先端の軍事・監視技術を開発してきましたが、その多くは何十年にもわたりパレスチナ人を実験対象に試験されてきたものです。武器はイスラエルの輸出品の3分の1を占め、その一部(約12%)はアラブ諸国によって購入されています。例えば、モロッコが保有するミサイルの半数以上はイスラエル製です。同国はイスラエルの軍事企業エルビット・システムズと提携して攻撃用ドローンを生産しているのです。拡大しつづける経済格差と気候危機は社会不安のリスクも招き、支配階級はこれを未然に防ぎ、制御し、必要なら暴力的に鎮圧しようと躍起になっています。これこそイスラエルが人口管理に費やしてきたノウハウを世界が熱心に求めている理由なのです。

 十数カ国の政府が、その政治的立場や同盟関係にかかわらず、サイバーセキュリティや監視に関する協定をイスラエルと締結しました。こうした協定の締結は、イスラエル政府にとって重要な戦略目的でもあります。なぜなら、これらの締結国は、イスラエルの暴力行為に対して弱々しい言葉で非難するに留まり、実際にはジェノサイドを直接的または間接的に助長するしかなくなると期待しているからです。これは国際法と国連をさらに弱体化させるものであり、つまるところ、国連とは「連合した政府」の集団でありながらも、その多くはイスラエルの技術やノウハウに依存しているのです。

ヤコヴ・M・ラブキン

(Yakov M. Rabkin)モントリオール大学名誉教授の歴史学者。著書のうち3冊が日本語で出版されている。『イスラエルとは何か』(菅野賢治訳、2012年、平凡社)、『イスラエルとパレスチナ―ユダヤ教は植民地支配を拒絶する』(鵜飼哲訳、2024年、岩波ブックレットNo.1099)、『トーラーの名において シオニズムに対するユダヤ教の抵抗の歴史』(菅野賢治訳、2025年、平凡社)。

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