【連載】ルポ 世論工作――原発と情報統制(3)除染事業をポジティブに

野池元基(「東京電力福島第一原発事故に関わる電通の世論操作を研究する会(電通研)」メンバー)
2026/05/19
全面黒塗りの支出内訳(提供筆者)

除染事業の広報──三つの「取り戻す」

 東京電力福島第一原発事故にかかわる環境省の広報事業が本格的に始まったのは、2012年度からである。二つの事業があり、どちらも約15億円で電通に委託された。その一つは「東日本大震災に係る除染等に関する広報業務」という。この年から推進体制が固まった除染についての宣伝業務で、名称や内容は変化しながらも現在まで継続している。

 情報開示請求をして公開された事業報告書の冒頭部分に、事業の「三つの視点」とともに、「基本方針」として次のように記されている。

「安全と安心を取り戻す」
「ふるさとから離れて暮らしている住民を取り戻す」
「地域の住民としての誇りを取り戻す」
 
 という視点で、除染対象の地域住民が安心して暮らせる場を取り戻すために、国と県が全力で再建に向かう機運を作ることを基本方針として、施策を企画・実施した。

 2012年は12月の衆院選挙で自民党が大勝し、政権に復帰した年である。発足した第二次安倍政権は、それまでの民主党政権が震災後に掲げた「2030年代原発ゼロ」を撤回し、原発再稼働へと舵をきっていく。その総選挙での自民党のキャッチフレーズは「日本を、取り戻す。」だった。

 「基本方針」の数ページ後には、まるまる1ページを使って「業務体制図」が掲載されている(以下図1)。この除染にかかわる広報事業がどのような体制で進められたのか、一目で全体像がわかるものだ。

図1

 東京電力、電気事業者連合会(電事連)、日本原子力学会、日本原子力研究開発機構(JAEA)といった名が並ぶ。「専門的知見統括」と位置づけられている三菱総研(三菱総合研究所)は、科学・安全政策研究本部に原子力事業グループを有する企業である。そして、事業の委託先である電通と、その再委託先とみられる子会社の電通テック、そのチーム名がずらりと並んでいる。あたかも資源エネルギー庁の何らかの業務体制図ではないか、という気がしてくる。

 図の中に、「除染情報プラザ運営委員会」という記載がある。除染情報プラザは、除染にかかわる情報発信と理解促進の拠点として、環境省と福島県が共同運営している施設だ。この運営委員会は外部有識者から構成され、プラザの運営のあり方に助言・提言する役割をもつ。2012年度の委員は10人、委員長は田中知東京大学大学院教授だった。当時、田中氏は日本原子力学会の会長を務め、日本原子力産業協会の理事にも就いている。原子力事業者や関連の団体から寄付や報酬を受け取ったという報道がなされている。自民党が2014年、野党の反対を押し切って原子力規制委員に選出した人物でもある。他の運営委員には、東京電力復興本部の社員や、伊達市の放射能対策政策監付などがいる。

 こうした業務体制のもとで、「安全・安心」プロパガンダが展開されていくのである。

広報事業の二つの柱

 この広報事業の二本柱は、マスメディアを使用したキャンペーン型の宣伝と、そこからこぼれ落ちるターゲット層への浸透戦略である。

野池元基

「東京電力福島第一原発事故に関わる電通の世論操作を研究する会(電通研)」メンバー。長野市在住。農業に携わりつつ、雑誌『たぁくらたぁ』を編集発行。福島原発事故に関する電通事業の情報公開請求活動で日隅一雄・情報流通促進賞2021大賞受賞。著書に『サンゴの海に生きる』(農文協)、共著に『環境を破壊する公共事業』(緑風出版)など。

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