言葉の軽さについて――原発再稼働にまつわる政府と県のビヘイビア

松久保 肇(原子力資料情報室共同代表・事務局長)
2026/01/13
新潟県の東京電力柏崎刈羽原発。2025年11月7日(共同通信社機から)/共同

 二〇二五年一一月二一日、新潟県の花角英世知事が東京電力柏崎刈羽原発の再稼働を了承、県議会から自身の判断について、信任または不信任の判断を得たいとの考えを示した。

 判断の理由として、花角知事は原子力発電所の必要性、原子力発電所の安全性、避難の安全性、東京電力の信頼性、地域社会のメリットを挙げ、さらに県民意識調査で、柏崎刈羽原子力発電所における安全対策・防災対策への認知度が上がれば再稼働に肯定的な意見が増える傾向が明らかになったとした(1)。県議会の勢力図から、議会から信任を得られることは確実な情勢だ。

 筆者は東京電力柏崎刈羽原発再稼働に反対する。だが、再稼働するにしても条件を満たしているかどうかが重要なはずだと考える。そこで、花角知事の論理に合わせて、原子力発電所の必要性、県民意識調査、そして県知事の対応について、言葉の観点から検討したい。

誇大に謳われる電気料金抑制効果

 二〇二四年九月六日、経済産業省は第一二回原子力関係閣僚会議で示した「柏崎刈羽原子力発電所の再稼働の必要性」と題した文書で「東京電力によると、柏崎刈羽原子力発電所一基の再稼働による燃料費削減効果は年約一千億円であり、原子力発電所の再稼働による電気料金の抑制効果は極めて大きい」と説明した。一方、東京電力は東京新聞の取材に柏崎刈羽原発の再稼働で「さらに電気料金が安くなるという事実はありません」と説明している。

 東京電力エナジーパートナー(東電EP)は二〇二三年の電気料金(規制料金)値上げ時、柏崎刈羽原発七号機の二〇二三年一〇月再稼働、六号機の二〇二五年四月再稼働を見込んで、値上げ幅を圧縮していた。その額は年九〇〇億円。電気料金平均単価を推計すると再稼働がなかった場合、三〇・一二円/kWhとなるのに対して、再稼働を見込むと二九・六五円/kWhとなった。「極めて大きい」はずの電気料金抑制効果は〇・四七円/kWhと1.5%に過ぎないことになる。

 そもそも一〇〇〇億円の削減効果という点にも疑問がある。仮に柏崎刈羽原発六号機(電気出力135.6万kW)が再稼働したとして、設備利用率80%、所内率4%で運転する場合、年間およそ90億kWh発電する。二〇二四年度の東京エリアの卸電力市場の平均価格は一三・六六円/kWhだった。仮に外部調達分を原発で代替したと考えると、およそ一二三〇億円の削減が見込める。一方、二〇二三年の値上げ資料(2)によれば原発の変動費(核燃料費等)は二・五一円/kWh(二〇二三~二〇二五年度平均)のため、およそ二三〇億円の費用増となる(3)。差し引きで燃料費の削減効果は一〇〇〇億円になる。ちなみに、同じ資料で東京電力EPは卸電力市場の平均価格を二〇・九七円/kWhと見積もっていた。もしこの価格で推定すれば、値下げ効果は一六六一億円になる。ただ、そのような高い市場価格になることはかなりまれだ(図1)。

3     先行して再稼働している関西電力や九州電力、四国電力の原発の平均変動費は約三円/kWhだった。実績値に合わせると、削減効果はさらに厳しくなる。

 問題は再稼働すれば、原発の維持費も増える点だ。二〇二三年の値上げの際、東電EPは柏崎刈羽原発六・七号機の再稼働によって修繕費や減価償却費など合わせて一三〇〇億円の費用増(二〇二三~二五年度平均)を見込んでいた。固定資産の減価償却は「事業の用に供した日」、つまり再稼働のタイミングから始まる。修繕費も稼働後に追加的に発生する費用だ。東京電力EPが示した原発運転計画を見ると、六号機は二〇二五年四月に稼働、七号機は二〇二三年一〇月に稼働、その後は通常運転することを前提としている。つまり全体では延べ三・五年で固定費が計上されていると考えられる。一方、固定費は三年間で計三九〇〇億円のため、一基が一年間フル稼働した場合の固定費は一一一四億円だと推定できる。固定費込みで考えると、費用削減効果はそもそも存在せず、むしろ一一四億円の赤字になるのだ。稼働するのは当面一基のため、固定費額を二基、平均設備利用率50%を想定した一三〇〇億円の半分である六五〇億円としたとしても削減効果は三五〇億円でしかない。

 なお、原発を持たない東電EPは東京電力ホールディングスなどから原発の電気を購入している。二〇二三年の見積もりでは、東電EPの原子力購入電力量は119億kWh、費用は四九四〇億円(いずれも二〇二三~二五年度平均(4))、単価は四一・五円/kWhだった。二〇二四年度の卸電力市場価格が一三・六六円/kWhだから、市場価格の三倍以上高い電気を買っていることになる。稼働の有無を問わず、原発には維持費などが必要となる。再稼働によって増える燃料費や固定費以外に、これらを含めるので、このような単価となってしまうのだ。

 本来であれば、電源別のコストを積み上げて最も経済的で脱炭素に貢献できる電源構成を追求するべきだ。東京電力にとっては、再稼働しようがしまいが原発に支払っている維持費、修繕費や減価償却費といった再稼働により増加する固定費は、所与の前提だ。そのため燃料費の差額だけを見て考えているのだろう。しかし電力消費者には関係ない話だ。東京電力の原発の発電する電気は明らかに高い。東京電力は自らが起こした福島第一原発事故の付け、そして柏崎刈羽原発六・七号機の再稼働にむけて約一兆一六九〇億円もの巨額費用を投じてしまった経営判断の付けを電力消費者に転嫁しているのだ。原発の高い電気をあえて購入している東京電力と安価でクリーンな電気を求める電力消費者の間には利益相反が発生している。この事実を踏まえるべきだ。

国富流出

松久保肇

(まつくぼ・はじめ)原子力資料情報室事務局長。1979年兵庫県生まれ。国際基督教大学卒、法政大学大学院公共政策研究科修士課程修了。金融機関勤務をへて2012年7月より同室スタッフ。経産省原子力小委員会委員。著書に『原発災害・避難年表」(原発災害・避難年表編集委員会、すいれん舎)、『検証 福島第一原発事故』(原子力資料情報室編、七つ森書館)など。

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