【伊波洋一さんに聞く】台湾を戦争準備の口実にしてはいけない

『地平』編集部
2026/01/11
日米共同統合演習「キーン・ソード」で、編隊を組む米海軍艦艇と日本の海上自衛隊第1護衛隊群、第4護衛隊群、カナダ海軍の艦艇など。2020年7月26日。(U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Erica Bechard)

軍事要塞化される日本列島

 ——沖縄など南西諸島で軍備強化が進む中、高市首相の「台湾有事は存立危機事態にあたる」との発言がありました。

伊波洋一(以下、伊波)軍事的な問題でいえば、沖縄や南西諸島にとどまらず、実はもう日本列島全体が軍事要塞化される目前だということをおさえておかなければいけません。

 台湾有事は、一般的に中国が武力で台湾を統合するということとして理解されていますが、大前提として、中国は「平和統一」を方針としていて、台湾が「独立」と叫ばなければ中国は決して武力は用いない、ということです。これはもうずっと言われていることで、武力行使は大変なコストをともないますから、合理的に考えて当然のことです。しかしアメリカは、台湾の民進党政権に「独立」という声を上げさせようとしてきました。アメリカの覇権を揺るがす中国を、いわゆる「第一列島線」でくいとめるのに使えるからです。ではアメリカが台湾のために戦うかといえば、その可能性は低い。中国は大国です。もしアメリカと交戦するようなことがあれば、核戦争になりかねない。第三次世界大戦です。この点を十分に踏まえないといけない。

 この状況を前提に高市発言を見れば、日本自らが安全保障環境を悪化させているとしか言いようがない。自然災害だけでも大変なのに、人工的災難を引き寄せようとしている。高市発言に対して批判の声を上げていくと同時に、私たちの国がすでに軍事要塞化されつつある現実を知る機会にすべきでしょう。現実的な危険性を認識した上で、東アジアで戦争を起こしてはならないという基本的な共通理解を作っていく必要があります。

 日本が米軍の戦略のもとで軍備強化が進められている実態がまだまだ知られていません。南西諸島だけでなく、西日本に顕著な軍事要塞化の現実とそこに至るプロセスをおさえないといけない。

 日中の緊張ということでいえば、二〇一二年の尖閣諸島の国有化があります。一九七二年の日中共同声明の時点では、まだ発展途上国並みの経済力しかなかった中国に、鉄鋼産業の再生のためにODAを通じて経済支援を行なうなどして日中関係を良好に保ち、尖閣問題はすぐには解決が困難だということで棚上げしてきました。一九八〇年代に入ると中国も市場経済を導入し、新しい方向性で経済発展のスタートを切ります。一九九〇年代も、アメリカも含めて経済的な結びつきを強めながら中国とわりと穏やかな関係を結んできたわけですが、二一世紀に入って中国は急速な経済発展を遂げ、二〇一〇年にはGDPがついに日本を追いこします。そしてその年、尖閣諸島沖で中国の漁船が日本の巡視船に体当たりするという事件が起こる。日本側は、船長を逮捕して石垣港に引っ張っていきました。中国はそれに抗議し、日本も船長を釈放して国内で反発がおこる。尖閣をめぐってごたごたしてきたときに、東京都の石原慎太郎知事が「尖閣は東京都が買う」と言い出す。石原知事のような人間が尖閣問題に口を出してくると大変なことになるということで、日本政府は国有化するという判断をしてしまう。しかし、これは中国の怒りをさらに買うことになりました。これは決定的でした。日本が実効支配しつつも中国との関係では曖昧にしてきた島を、明確な領土として宣言するわけですから。歴代首相の靖国参拝などの歴史問題もあいまって、中国側の姿勢がどんどん厳しくなり、尖閣周辺海域に入ってくる船も増えてくる。曖昧な「棚上げ」という言い方ができなくなる。アメリカも、中国の台頭に焦ったのか、中国包囲網を形成すべく日本に加えて韓国やフィリピンに協力させる「オフショア・コントロール戦略」を提起します。その時点で日本では第二次安倍政権が誕生し、アメリカは当然、その状況を利用していきます。

 一九九〇年代のアメリカは、自ら中国と戦って勝つという戦略でした。日本は戦場の舞台にはなりますが、直接戦うということはない。アメリカは相手に打ち勝つための訓練を続けていました。しかし中国の国力が増し、核兵器も増やしてきたので、アメリカは自国だけでなく日本など同盟国にも戦わせようという戦略に転じるわけです。

 しかし、中国との関係を悪くしたくない韓国はこの路線を拒み、フィリピンでは前のドゥテルテ政権はオバマ政権のアメリカとはうまくいかず、そこで日本だけがアメリカの新戦略に組み込まれていく。尖閣国有化の直後に安倍政権が誕生すると、アメリカはすぐに抱き込みます。安倍首相が国連総会に行って首脳外交するのに合わせ、ワシントンにある保守系のシンクタンク、ハドソン研究所が開いたパーティーに招待し、安倍首相はその場で「集団的自衛権について憲法解釈を見直す。日本が安全保障の弱い環であってはならない」というスピーチをしました。その翌年には集団的自衛権の行使容認を閣議決定[二〇一四年七月]、安保法制成立[二〇一五年九月]という流れです。安倍首相は、自分のことを軍国主義者と呼びたければそう呼べ、と言いましたが、実際に次々に戦争立法をしていきました。憲法九条も非核三原則も残したまま、実質的にそれを骨抜きにしていったわけです。

 日本とアメリカには「日米防衛協力の指針」、戦争となった場合にどうするかを細かく決めた、いわゆる「ガイドライン」があります。一九九七年のガイドラインでは「アメリカが日本を守る」ということが明確に書いてあります。それが二〇一五年改定の新ガイドラインでは、もはやアメリカは日本を守らないということになる。それどころか、日本は集団的自衛権でアメリカを支える。要するにアメリカは、同盟国日本や韓国あるいはフィリピンの第一列島線を保持する必要はあるが、日本への攻撃については自分で守りなさいということです。

『地平』編集部

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