【座談会】社会運動をどう再構築するか(前編)

内田聖子×金澤 伶×川崎 哲×能條桃子×深草亜悠美×松久保 肇
2026/02/05

熊谷(司会・本誌編集長) 本日はお集まりくださり、ありがとうございます。

 現在、日本の政治をめぐっては保守化が進む厳しい状況にあります。極右や排外主義の台頭は世界的な傾向ですが、本誌二〇二五年一一月号でも特集(「左派は復活できるか」)したように、諸外国では対抗的な運動が可視化されているにもかかわらず、日本では、率直に言って、そうした動きが静かであるように見えます。この点は共通の認識かと思います。

 左派的な政党が極小化している議会の状況も深刻ですが、根本的な課題は、対抗的な社会運動をどのように復権させ、再構築していくのか、という点にあるかと思います。そこで、本日は領域を横断して、日本の社会運動の第一線で活躍する中堅および若い世代の方々に集まっていただいています。日程等のご都合もあり、本来であればぜひここに参加していただきたかった方々も少なからずいらっしゃいますが、ご了承ください。

 お互いにご存知の方も多いと思いますが、反核・平和、脱原発、ジェンダー平等、若い世代の政治的参加、気候変動、学生運動、地方自治など、さまざまな領域で社会運動に取り組む方々で、国際的な感覚や、社会で起きていることへの鋭敏な感覚をお持ちの方々です。今日は日本の政治状況と社会運動の課題と展望について、現状認識と問題意識、打開の方向性などを自由に議論していただきたいと思っております。それではまず、現在の活動について、自己紹介も兼ねてご紹介していただきたいと思います。あいうえお順で内田さんからお願いします。

内田 よろしくお願いします。内田聖子です。私はアジア太平洋資料センター(PARC)で、もう二五年ぐらい勤めていまして、今は共同代表をしています。

 PARCも、そもそもは反戦平和の活動、ベ平連(ベトナムに平和を! 市民連合)から始まった市民組織です。それ以降、八〇年代以降の日本の経済成長にともなうアジアへの進出、そこで起こる人権侵害や環境破壊、経済植民地化など、主に経済のグローバル化がもたらす負の側面についてフォーカスして調査研究・政策提言を進めてきました。私自身は主に貿易や投資関係の課題にずっと取り組んできまして、その延長で近年はデジタル経済、とりわけビッグテックの問題を追っていて、『地平』でも連載をしているところです。

 一方、二〇二二年に東京都杉並区の区長選挙で、私の長年の友人でもある岸本聡子さんを住民が擁立して選挙を戦い、勝利を果たしたということがあり、現在はPARCの仕事もしつつ、岸本さんの政治活動を支える仕事もしています。ただ、この両者がまったく違うかというと、根底では強くつながっていることを日々感じています。国際政治も厳しく、日本の政治は絶望的とさえ思える状況ですが、ローカルの政治運動や自治の運動には希望を感じる面があります。今日はその観点から議論に貢献できれば、と思っています。よろしくお願いします。

金澤 私は現在、東京大学に在学し、学費値上げ反対運動や難民支援に取り組んでいます。活動の出発点は難民支援で、入管施設での面会活動や大学での支援に関わる学生の全国プラットフォームを運営し、アイデアコンペ、フェス、国際イベント、当事者団体の運営などを担ってきました。現在はとくに、「不法滞在者ゼロプラン」により、日本に生活基盤や日本人配偶者を持ちながら強制送還の危機に置かれる人々や、子どもの強制送還が増えている問題に向き合い、人権と子どもの権利の保護に力を注いでいます。

 最近まで移民労働者の現場を知るため製造業でフルタイム勤務していましたが、高市発言を受けた「東アジア平和スタンディング」など企画して多忙のため、一一月末で退職しました。現在は、市民運動に関わったり、自身の活動や全国での講演・学習に専念したりしつつ、学費を賄うため、様々な社会活動の現場で働こうと思っています。

 また、移民にルーツを持つ友人が「学費を免除しすぎた」として除籍危機に追い込まれた経験から、東大の学費値上げ問題にも取り組んできました。全国に広がる値上げを止め、高等教育無償化を実現するため、『地平』二〇二四年一〇月号・二〇二五年五月号で報告し全国に広がる値上げを止め、高等教育無償化を実現するため、学生院生とともに院内集会を三度開催、政府や与野党への要請を継続しています。さらに二〇二五年七月のJST‐SPRING改悪に対しても、署名、当事者調査、政府要請に関わっています。

川崎 ピースボート共同代表の川崎哲です。ピースボートは一九八三年、すなわち四二年前に発足した団体で、私は二二年前からスタッフとして関わっています。国際交流の船旅を通じて平和について考える人を増やすことが活動の柱です。同時に、平和問題全般への提言やSDGsの普及にも力を入れています。近年では中国からの参加者も多く、船の上でアジア交流を行なう場にもなっています。

 私自身は、核兵器廃絶の取り組みに特に力を入れています。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は二〇一七年にノーベル平和賞を受賞しましたが、ピースボートも団体加盟しており、私はその代表としてICANの執行部に参加し、現在はスイスの法人としてのICANの会長も務めています。ICANは核兵器禁止条約の普及を通じて核兵器廃絶を実現しようとする国際的なNGOの連合体です。核兵器を持たない国々がこの条約を主導しつつ、核保有国や「核の傘」のもとにある国にも参加を働きかけています。

 日本では、政府に核兵器禁止条約に参加してもらうためのキャンペーンを展開しています。その活動として、昨年(二〇二四年)「核兵器をなくす日本キャンペーン」という一般社団法人を立ち上げました。この基盤には「核兵器廃絶日本NGO連絡会」があり、四十余りの団体が参加しています。今日参加されている松久保さんの原子力資料情報室も団体会員で、一緒に活動しています。こうした国際・国内双方での団体連携については一定の経験を持っています。

 一方で、核兵器だけ禁止すればよいというわけではなく、世界では軍事化の流れが深刻です。軍備の増大、さらには社会全体の軍事化も進んでいます。こうした情勢についての議論を深めるために「平和構想研究会」という、日本の平和政策のあり方を広く議論する場も立ち上げました。このように、多面的に平和問題に関わっています。

能條 能條桃子と申します。私は、若い世代の政治参加を促進するNO YOUTH NO JAPANの代表理事と、二〇代・三〇代の女性を中心に、ジェンダーの観点から地方議会への立候補を呼びかけ、応援するFIFTYS PROJECTの代表をしています。

 もともと気候変動やジェンダー平等などをめぐって、長期的視点を欠いた政治の意思決定のありかたに問題意識があり、二〇一九年の参院選時に若い世代の投票を呼びかける活動を始めました。活動を進める中で、若者が変わることだけでなく、若者を排除した政治の場そのものに問題を感じるようになり、現在は「立候補年齢を一八歳に引き下げてほしい」という活動に力を入れています。

 また、若い世代の政治家を増やすうえでジェンダー不平等は大きな課題で、立候補したいと語るのが二〇代男性ばかりという状況があります。そこで二〇二二年から、政治分野のジェンダー平等を実現するため、地方議会レベルからジェンダー平等の価値を共有する候補者を増やす活動を進めています。

 最近では、立候補のハードルとなる資金面を支援するために「わたしたちのバトン基金」という取り組みを立ち上げ、候補者の資金集めをしています。

深草 国際環境NGO FoE Japanの深草亜悠美と申します。環境団体として気候変動・エネルギー分野を広く扱っています。私がこの分野に入ったきっかけは二〇一一年の東日本大震災と原子力災害でした。当時、私は大学一年生で、自分が原発について何も知らなかったことに衝撃を受け、その後ボランティア活動を経てFoEを知り、二〇一二年からインターンとして本格的に活動を始めました。大学卒業後は二〇一六年からスタッフとして働いています。

 気候変動、エネルギー政策、日本の官民が海外で進めるエネルギーインフラ事業への調査提言などに集中的に取り組んでいます。

 今年(二〇二五年)四月に事務局長になりました。FoEはスタッフ二〇人弱の組織ですが、私が入った頃は四人でした。この七〜八年で三〜四倍に増え、組織運営に関わる仕事も増えてきました。そのなかで、自身の担当イシューに傾きがちなため、社会運動全般や政治状況について広く考える時間が減ってきているのが正直なところで、今日はやや緊張していますが、よろしくお願いします。

松久保 原子力資料情報室で共同代表を務めています松久保肇と申します。原子力資料情報室は今年で設立から五〇年を迎えた脱原発シンクタンクです。私はもともと金融機関で働いており、短期金利先物や為替など、金融取引に関わる業務に携わっていました。二〇一一年の福島第一原発事故が起き、原子力の科学技術的な問題は大学で学んで理解していたつもりでしたが、実際の事故に大きな衝撃を受け、自分に責任があるように感じたことが転機になりました。金融の仕事で「お金の流れ」を見る視点を持っていたことから、その観点で原子力の問題に取り組めないかと考え、二〇一二年に原子力資料情報室に転職しました。

 現在は主に原子力をめぐる資金の流れに注目し、調査や分析を行なっています。原子力産業は国からの支援なしには成り立たない構造が長く続いてきましたが、近年はその構造が他産業にも広がり、補助金獲得競争のような状況が加速していることに危機感を持っています。

 また、原子力の「平和利用」という前提自体が揺らぎ、原子力潜水艦の議論など軍事利用の方向へと境界が曖昧になってきていることにも強い懸念を抱いています。本日はその観点から議論に貢献できればと思っています。よろしくお願いします。

現状への認識と世代的断絶

熊谷 それでは、本論に入っていきたいと思います。

 社会運動は民主主義にとって基本的な行為だと思いますが、日本では社会運動という営みに対して冷笑的な、あるいは忌避的な反応が強まっていると感じます。三〇年ほど前に小林よしのり氏が『戦争論』でマンガというメディアを使って活動的な市民を戯画的に「プロ市民」などと呼び始めたあたりが転機だったかもしれません。一言で言えば、日本では社会運動が民主主義を構成するアクターとして認知されなくなりつつあるのではないでしょうか。それにともない、行政権力の肥大化、憲法的制約の無効化が進んでいるようにも感じます。社会運動側の世代交代の問題、あるいはメディア状況の変化など、背景はいくつか考えられますが、まずは皆さんのご認識を伺いたいと思います。

『地平』編集部

『地平』は地球と平和を考える総合月刊誌です。毎月5日発売。

地平社の本

ガザを知る

CHIHEI Podcast

2026年2月号(最新号)