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警察が、企業の活動に反対、または反対しそうな個人の病歴や学歴、人となりを勝手に調べてこっそり企業に提供する――。信じられないような岐阜県警大垣署警備課の秘密の活動が、企業側の社内メモから明るみになり、関係住民が同県などを訴えたところ、2024年9月、名古屋高裁が「違法」と断じ、国家賠償を命じたうえ、県に保有データの抹消を命じた。賠償額は、請求通り1人110万円、合計440万円という異例の住民側「圧勝」判決だった。裁判や国会で、警察側は再三、「公共の安全と秩序の維持」という活動目的を唱えたが、これが野放しにされたら、住民は自由に意見を言えなくなってしまう。原告・弁護団は公安警察の活動について法的規制を求め、活動をつづけている。

公安警察と企業の議事録
筆者がこの事件の発端になる文書を手に入れたのは、2014年の夏だった。
それは、中部電力(名古屋市)の100%子会社で、電力施設の建設、保守などをするシーテック社(同市)の社内連絡用メモ「議事録」(本文末に写真)だった。大垣市の出先に設けた地域対応グループが2013~2014年に4回、岐阜県警大垣署警備課と行なった情報交換の一問一答のメモだ。
岐阜県警のウェブサイトなどによると、警備課は、国際テロ対策や極左、悪質右翼対策、要人警護、災害警備などを担当する。いわゆる公安警察だ。
議事録は毎回A42枚程度の要旨記述だが、日時や時間、場所、警備課長ら双方の出席者名まで記されていた。情報交換後に毎回、同グループが打ち込んでPDF化し、社内で共有していたとみられる。
同社は同県関ケ原町と、大垣市の飛び地の旧上石津町の境の尾根の上に、最大出力4万8000キロワットの風力発電施設建設を計画していた。当時は県の環境アセスメント手つづきを進めつつ、工事に向けて関係住民の同意を取り付けようとしていた。
再生可能エネルギーといえば自然に優しい印象だが、実際は高さ130メートル、羽根の長さ50メートルの巨大な風車を16基、尾根の上にたてるという大規模なもの。静かな山里の住民にとっては建設にともなう土砂崩れ、低周波による健康被害、景観破壊など心配な点がいくつもあった。旧上石津町の上鍜冶屋地区(当時46戸)では、養鶏業三輪唯夫さん、住職松島勢至さんらを中心に講師を呼び、勉強会を始めた。
勉強会は、地元の岐阜新聞に小さく報道された。
大垣署警備課はそれに目を留めたらしい。第1回議事録(2013年8月7日実施)によると、中部電力大垣営業所経由で、シーテック社の地域対応グループを同署に呼び出し、面談した。会議名は「大垣市上石津町風力発電反対派による勉強会の実施について」とある。同署は事業概要やアセスの現状などを聞き取ったほか、三輪さん、松島さんについて、「風力発電に拘らず、自然に手を入れる行為自体に反対する人物であることを御存じか」と社側の認識をただしている。
さらに当時、勉強会とは無関係だが、大垣市でかつて徳山ダム(同県揖斐川町)建設反対運動などをした近藤ゆり子さん、同市の「ぎふコラボ西濃法律事務所」の名前を挙げ、「繫がると、やっかい」「大々的な市民運動へと展開すると御社の事業も進まないことになりかねない。大垣警察署としても回避したい行為であり、今後情報をやり取りすることにより、平穏な大垣市を維持したいので協力をお願いする」と告げている。住民運動を敵視し、シーテック社の危機意識をあおるような警察のどぎつい言動が目を引く。

第3回議事録(2014年5月26日実施)には、上鍜冶屋地区の市長あて嘆願書などの動きについて、同署が「今回の行動は、来年の統一地方選挙に向けて動き出した気配がある。共産党の株を少しでも上げることに利用したいのではと思う」と「分析」を告げている。
さらに三輪さんと「強くつながって」いる存在として、ぎふコラボ元事務局長船田伸子さんの名前を挙げ、「そこから全国に広がってゆくことを懸念している」。
船田さんについて「気を病んでおり入院中であるので、速、次の行動に移りにくい」と、偽りの病気や入院を示唆。一方で「今後、過激なメンバーが岐阜に応援に入ることが考えられる。身に危険を感じた場合は、すぐに110番して下さい」。荒唐無稽な「妨害工作」が水面下で進行しつつあるかのような「情報交換」をつづけていた。
事業者のシーテック社が上鍜冶屋地区の動向に神経をとがらせるのは、ある意味で当然だ。巨大な構造物を尾根に運び上げるため、自治会の同意を得て林道を拡幅することが不可欠だった。勝手に測量に入って住民を硬化させ、上鍜冶屋自治会に反対を決議されて焦っていたことも議事録に記載されている。とはいえ、それは事業者と自治会の問題でしかない。当事者間で話し合い、理解を得られなかったら、計画を変更するか、別の方法を考えるしかなかっただろう。
実際には三輪さんたちは地元の関心の盛り上げに苦労していた。近年は大垣や名古屋へ車で通勤する人もいるが、基本は農業や林業で何百年もつづく小集落の人たち。助け合って生きてきた地域で、住民はとくだん戦闘的でも何でもない。議事録でも触れられているが、バブル経済当時、ゴルフ場開発に反対したこともあったが、これも農薬で地域が汚されることを心配したから。高齢化がすすみ、勉強会も参加者はせいぜい10人程度だった。
そんな小さな運動に警察がなぜ関心を示すのか。近藤さん、船田さんに至っては上石津町の問題と関係ないのに、警察から名前を挙げて教えている。近藤さんの動向についてはわざわざ電話連絡もしたようだ。何のために警察はここまで企業に加担するのか。異様な文書だった。
「役に立つ」という事業者
同僚記者とシーテック社の大垣市の地域対応グループの事務所を訪ねた。アポなし取材だったが、議事録に登場する加藤広グループ長らが居合わせ、応対した。議事録のコピーをみせると、自社で作製したものだとあっさり認めた。警察との情報交換についても「何かあれば、役に立つだろう」「いろんなことを知っていたほうが良いと思う」と悪びれずに認め、意義を語った。