消された歴史
リニューアルオープンした東京・虎ノ門にある「領土・主権展示館」。内閣官房が運営している施設だ。竹島、尖閣諸島、そして北方領土について、歴史的経緯や地理的重要性などを、それぞれパネルを使って説明している。北方領土コーナーには、豊かな漁業資源や国境線の変遷、ロシアとの交渉の経緯などが書かれている。
だが、その展示でほとんど触れられていない存在がある。アイヌ民族だ。
アイヌ民族は1万年以上も前から北海道や樺太、千島列島、東北などに暮らしていた先住民族だ。2019年に施行されたアイヌ施策推進法では初めて、アイヌ民族を日本の先住民族として認めた。
一方、展示館の資料は北方領土の文化圏の説明で、「土器を使用する縄文文化、鉄器の使用がはじまる続縄文文化、オホーツク文化、擦文文化、アイヌ文化と変遷し」とするものの、「江戸時代、松前藩は十七世紀初めから北方四島を自藩領と認識し、徐々に支配を確立していきました」とあるだけだ。先住民族であるアイヌ民族の土地を奪い、武力を背景に不平等な交易を行ない、明治に続く同化施策をめぐる歴史的な記録は一切抜け落ちている。
今年4月から同館はパネル展示から体験型・体感型へと大きくリニューアルしたが、その宣伝文句もまた勇ましかった。「北方領土・竹島・尖閣諸島に関する事実や我が国の立場に関する正確な理解を国内外に浸透させていくための発信拠点としてさらなる強化を行う」。
国が示す「正確な理解」とは、どういうことなのか。