【関連】特集:大阪デモクラシー――維新政治の次へ(2025年1月号)
「勝つまでジャンケンか」
高市早苗首相が仕掛けた大義なき解散総選挙に乗じて、日本維新の会代表の吉村洋文・大阪府知事と副代表の横山英幸・大阪市長は任期途中で辞職し、「出直しダブル選」に臨む。維新の看板政策である「大阪都構想」実現に向けて民意を問うためだというが、これまで二度の住民投票に振り回された市民らは「勝つまでジャンケンか」と怒り心頭だ。
「大阪府は二月議会を控え、来年度予算の編成、組織改正、人員配置など、府政運営の根幹に関わる多忙な時期を迎えています。そんな時に知事の職を投げ出されたら府政運営の停滞を招くのは明らか。それも過去に二度否決された都構想を掲げての出直し選挙とは、極めて無責任で身勝手な対応と言わざるを得ません」
大阪府関係職員労働組合(府職労)の小松康則委員長は、怒りを通り越してあきれ果てた表情で言葉を重ねる。
「知事が重視すべきは、物価高騰がつづく中、日々の生活に困窮し、不安を感じている府民の暮らしを支え、地震や大雨、感染症などの災害に備え、安心・安全の街づくりを進めることです」
小松さんは個人的な意見として、「国政政党の代表、それも政権与党の代表を兼ねて、大阪府知事としての仕事ができるのでしょうか。知事に専念して職員を、府民をちゃんと見ていただきたい」と訴える。
呆れる市長ら——「権利の濫用だ」
大阪維新の会主導で「職員基本条例案」が提出され、二〇一二年三月に大阪府で、五月には大阪市で、それぞれ制定された。徹底した職員数管理と削減が進められ、職場は深刻な職員不足によって長時間労働が常態化し、心身の不調による休職や退職が増えつづけている。精神疾患などで一週間以上休職した府職員は、二〇二四年度で二八五人を数えるという。
「このような状況下で行なわれる出直しダブル選は、府職員のみならず、府内の市町村職員にも、衆院選と重なる形で大きな負担を強いることになります」と、小松さんは指摘する。
吉村知事が一月一六日、府議会に辞職届を提出したのを受け、大阪府交野市の山本景市長がX(旧ツイッター)に投稿した。
「大阪府下三三市の市長の一人としての意見を改めて表明します」と前置きし、「二月八日の衆議院解散総選挙で、大阪府内各市は四苦八苦してます。選挙期間は一二日にも及び、一月二七日公示です。死にもの狂いで交野市役所一丸となり(略)がんばっています」と現状を説明した上で、こう訴えている。
「選挙期間一七日の大阪府知事選挙なんて、もうムリです。一月二二日告示なんて、あと、六日しかありません。公営掲示板は間に合いません。期日前投票所開設も間に合いません。(略)ここまできたら、大阪府知事によるただの権利の濫用による各市長や各市役所職員へのパワハラではないでしょうか」
箕面市の原田亮市長もXで、吉村知事宛に市として抗議文を提出したことを報告した。
「(六日後から)知事選挙が始まるというのは、十分な告知ができずに有権者が適切に選挙権を行使する機会を損ねることになります。また、日程の余裕がなく現場を担う職員や業者の負担も膨大になります。さらに、投票用紙の誤交付や二重交付などミスも起きやすい環境に繋がります。(略)適切に選挙を行うためにも、どうか選挙業務を担う自治体や職員のことも考慮していただきますようにお願いいたします」
吉村氏と横山氏が当選したとしても、公職選挙法の規定から二人の任期は二〇二七年四月までと変わらず、再び選挙となる。しかも、今回のダブル選にかかる費用は合わせて約二八億円と言われており、市民らは「税金の無駄使い」「どこが『身を切る改革』や」と怒りをぶちまける。
大義なき大阪ダブル選を、全国紙もこぞって社説で批判している。
朝日「維新のダブル選 姑息な『都構想ありき』」(一月一五日付)
日経「大阪ダブル選は選挙をもてあそぶ愚行だ」(一六日付)
読売「大阪ダブル選 都構想実現へ何の意味がある」(一七日付)
毎日「維新の大阪ダブル選 民意もてあそぶ自作自演」(一八日付)
産経「大阪ダブル選 都構想挑戦急ぎすぎでは」(同日付)
現場からの悲痛な叫びやメディアの批判にも耳を傾けようとせず、吉村氏は「出直し選で都構想の民意を問う」と前のめりだ。
都構想とは何か
そもそも、都構想とは何なのか。
一言でいえば、政令指定都市である大阪市を廃止し、東京二三区のような特別区に再編することをさす。「都」構想と言いつつ、大阪府が「大阪都」を名乗ることはできず、「都にならない都構想」なのだ。
維新は「二重行政の解消」をうたっているが、二〇二〇年八月の市議会で、当時の松井一郎・大阪市長(大阪維新の会代表)は「今は二重行政はない」と言い切っている。では、都構想の目的は何なのか。
二〇一一年に党の創設者、橋下徹知事(当時)は「大阪市が持っている権限、力、お金をむしり取る」と発言している。大阪市が持つ広域行政の権限と二〇〇〇億円の財源を府に移すことで、IRカジノなどの大型開発に注ぎ込もうとの目論見だ。
実現するには、関係自治体による「法定協議会」が特別区の区割り数などを定めた協定書を可決した上で、住民投票で過半数の賛成を得る必要がある。
維新が都構想の推進力に出直し選を利用するのは、今回が初めてではない。二〇一四年に橋下市長(当時)が議論の停滞を打開しようと辞職し、市長選を仕掛けた。強引な手法に、他党が反発して候補擁立を見送ったため、投票率は20%台と低迷。橋下氏に次ぐ二位は白票だった。翌一五年に初の住民投票にこぎつけたが否決され、橋下氏は政界引退に追い込まれている。
二〇一九年には、松井知事(当時)が任期途中で辞職して市長選に、市長だった吉村氏が知事選に出馬する「クロス選」を仕掛けて勝利した。翌二〇年、公明党の協力も取り付け、万全の態勢で二回目の住民投票に臨んだが、再び敗れた。
否決後の記者会見で、松井氏は市長職の任期満了で引退することを表明。吉村氏は「僕たちが掲げてきた大阪都構想はやはり間違っていたと思う」「政治家として大阪都構想に挑戦することはもうない」と明言した。その目にうっすら涙をためているように見えた。
ところが五日後、松井市長は定例会見で「広域行政一元化条例案」をぶち上げる。都市計画などの事務と財源約二〇〇〇億円を府に移管するという内容で、いわば都構想の代案。吉村氏は「住民投票は否決されたが、約半数の賛成の声を尊重することも大事。仕事と財源はワンセット」と開き直った。住民投票で示された大阪市存続の民意に背き、民主主義を踏みにじる暴挙だと市民らは抗議したが、翌二一年三月、府市両議会とも維新と公明党の賛成多数で可決する。
吉村知事は職員への年頭あいさつの中で、「今年、万博で培った経験をもとに、皆さんとともに次なる大阪を切り拓いていきたいと思います。次に見据えるのは『副首都・大阪』の実現です」と述べている。
昨年一〇月、維新は自民党との連立合意政策として災害時に首都機能をバックアップする副首都を国が指定する「副首都法案」を盛り込んでおり、今年の通常国会での成立を目指している。維新が示す法案の素案は特別区設置を副首都指定の要件としている。
維新は二〇二三年の統一地方選での知事・市長のダブル選で都構想を公約に掲げなかった。三度目挑戦の条件として、吉村氏は民意を問う「民主的プロセス」が必要だと説明してきたが、都構想の修正案も示しておらず、維新の大阪市議団は「来年四月の統一地方選で都構想を掲げて戦うべきだ」としてダブル選反対を決議した。
維新議員の不祥事——終わりの始まり
「吉村氏は追い詰められている」と関西学院大法学部の冨田宏治教授はみる。背景にあるのは「国保逃れの脱法行為など一連の不祥事だ」と。
維新の地方議員が、一般社団法人(代表は維新国会議員の元公設秘書)の理事になることで、国民健康保険料の高額な支払いを回避していたことが発覚した。
本来であれば、議員が加入する国保では、議員報酬などを基準に保険料を納めねばならない。だが、法人の理事になれば社会保険に加入することとなり、法人からの低額な報酬に基づいて保険料を低く抑えることができる。調査はアンケート形式で行なわれ、回答した八〇三人のうち三六四人が社会保険加入者であることが明らかになった。維新は兵庫県議ら六人を除名処分とする一方、党の組織的な関与は否定したが、「自腹も切らずに、何が身を切る改革や」と市民の不信感はつのるばかりだ。
冨田さんは言う。「与党になったことでより批判にさらされる。衆院選を間近に控え、ダブル選を仕掛けることで党への批判をかわそうとの思惑があったのでしょう」。
維新議員の不祥事は枚挙にいとまがない。ここ最近でも、カネにまつわる醜聞が相次いでいる。
昨年八月、石井章参院議員(当時)が自ら理事長を務める社会福祉法人の関係者を勤務実態のない公設秘書として登録、給与約八〇〇万円を国からだまし取った疑いで東京地検特捜部の強制捜査を受けた。石井氏は除名処分となり、議員辞職に追い込まれた。
西田薫衆院議員(大阪六区)は、実態のない人件費を収支報告書に記載していたことが明らかになり、昨年六月に戒告処分を受けた。奥下剛光衆院議員(大阪七区)の資金管理団体が二〇二三年春にキャバクラなどの飲食代計一二万円を政治資金から支出していたことが明らかになった。藤田文武共同代表も、公設秘書が代表を務める会社にビラ印刷などを発注し、公金から約二〇〇〇万円支出した疑惑が浮上した。
住民投票の実施には府市両議会で過半数の賛成が必要となる。いずれも維新の会が過半数を占めているが、市議会では離党や除名が続出しているのが実情だ。
今回の出直しダブル選には、主な他党からも「大義がない」「選挙の私物化だ」などと批判の声が上がり、それらの政党は候補者擁立の見送りを表明した。出直し知事選は一月二二日に告示され、吉村氏のほか、新人二人が立候補を届け出た。
吉村氏は大阪市中央区のなんば広場前で第一声を上げ、衆院選でも主張するであろう副首都構想の実現を訴えた。一方、候補を擁立しなかった他党の衆議院選立候補からは「ずるい」との声が上がっている。告示から衆院選公示までの五日間は選挙運動ができない。公職選挙法は選挙運動ができる期間を、候補の届け出日から投票前日までに限定、届け出前の選挙活動を事前運動として禁じているためだ。
有権者はどういう行動を取ればいいのか。
冨田さんは「まずは無視すること、無投票です。選挙戦に勝っても投票率が低ければ民意を得たということにはならない。衆院選は投票してダブル選は棄権すること。衆院選との投票率の差が維新へのダメージになる。投票の権利を放棄したくない人は白票を投じることです」と語り、こう言い添えた。
「今回の出直しダブル選が、維新の終わりの始まりになるかもしれません」








