【関連】カジュアルな差別への加担――オルタナティブな言論へひらく[前編]
【関連】「特集 排外主義、再び」(2025年10月号特集)
【座談会登壇者】
金澤 伶(かなざわ・れい)
東京大学四年生。国際関係論専攻。EmPATHy代表。難民の保護や、教育を受ける権利のために活動。
崎浜空音(さきはま・そらね)
慶應義塾大学法学部法律学科四年生。基地と性暴力の問題に取り組む。
岩本菜々(いわもと・なな)
一橋大学大学院社会学研究科修士課程在籍。NPO法人POSSE代表。
安田浩一(やすだ・こういち)
ジャーナリスト。『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社)『地震と虐殺 1923-2024』(中央公論新社)など。
後半では、参政党的な動きに対し、未来ある運動をいかにつくっていくかをテーマに語り合われました。(編集部)
安田 参政党の支持は、20〜40代がコア。30代では参政党支持が一番多いという出口調査の結果も出ています。
みなさんも、同じ活動をして、志を一つにしている人たちの輪を一歩出たとき、そこにいる同世代の人たちの空気感は何かありますか。参政党に票を投じてしまう行動に、納得できる理屈みたいなものを見出せるのでしょうか。
それ以上の世代にはその世代なりのロジックはありますが、みなさんの世代ではどうなのか気になります。
崎浜 学校でも地元でも、何人かから、れいわと参政、どっちがいいかなってきかれて。私からしたら真逆だけど。
岩本 いや、でも、理屈としてはわかります。
崎浜 一生懸命説明したらわかってくれたけど、日々の暮らしがしんどいのかもしれない、だから、目の前の生活が一ミリでも良くなってほしいという気持ちで投票した。
岩本 どのあたりにシンパシーを感じたかは想像するしかないですが、たぶん減税でしょうね。外国人がもっていくから、それを日本人に分け与えるんだという。
安田 根底に、外国人に奪われているという意識があるのかもしれない。
崎浜 自分たちが苦しい理由には外国人もあるんだって主張されたら、そうかもしれない、みたいに思っちゃう。
金澤 政府や世間に見捨てられてきたという感覚のある人たちが、「日本人ファースト」と聞いて、「待ってました」となってしまった。これまで変わらなかったと感じる閉塞感が、自分たちの受け皿になってくれると感じた「新しい政党」への支持に転化されたのだと思います。
あとは、TikTokやYouTubeが大きな影響を与えているということも、身近な実感としてあります。20代後半くらいの日系ブラジル人の同僚と参院選前に雑談していて、その同僚はTikTokをよく見るけども、政党系の動画は参政党の切り抜きや、当時の石丸伸二のような「バズっている」政治家の動画しか流れてこない、と話していたので驚きました。まさか、選挙権をもたない、迫害されやすいマイノリティにすら、偏った情報しか届かないのかと。
崎浜 しかも参政党の党員の動画だけじゃなくて、それこそ若い女性の政治的発信もたくさんあって、党名までは言わないけど参政党が言っていることを発信しているんです。それを見ちゃったら、なんか同世代の言葉だし、って。
金澤 TikTokやYouTubeでの発信がパワーをもったのは、インフルエンサーの存在だけではなくて、政権党首として神谷氏がテレビの党首討論会に参加したことも大きかったと思います。さらにそれが切り抜かれて拡散されることで、うまくSNS戦略とかみ合い、権威化され、ここを支持しても恥ずかしくないのではとなった。
最近は選挙行動や政治家への支持表明が「推し活」化し、一種の娯楽のように消費されたり、支持者同士で連帯感を共有して「いいね」を集め、承認欲求などを満たしたりするために利用されています。前編でもお話ししたとおり、実際に私の友人も被害に遭いましたが、収益化済みアカウントや影響力のある人が外国人差別やデマを拡散し、差別を収益化して煽動しているのもよく見かけます。参政党は、批判をアンチとして排除していますし、自分たちは攻撃されているからそれに屈せずに闘うというロジックでもって、支持者同士の結束をますます強めてしまいます。
岩本 若者世代の投票行動について、たしかに排外主義にフォーカスして考えることもできますが、もう一つ、今回の選挙の重要な争点は減税だったと思うんです。これは、「自分の手取りが奪われている」という非常に具体的な生活感覚に由来している。私は、この変化は、差別意識の広がりというより、「自分と家族は生き残りたい」という動機を反映しているのではないかと考えています。
日本は、高度経済成長期のころから、家族と企業によって生活保障を成り立たせることを基本にしてきました。国が救済するのは最後の最後。そこには、生活保護くらいしかセーフティネットがない。
住宅ローンの支払いも、子どもが大学に行けるかも、すべて両親の稼ぎにかかっている。家族に頼らずある程度生きていける、欧州の福祉国家とは対照的です。物価高騰もあり貧困が広がるなか、自分と自分の家族だけは、他の人を犠牲にすることになっても生き残りたいという切迫感と、家族主義的な正義感が強まっているのでは。
そこにおいて、外国人が自分たちの平穏な生活を脅かす存在であるかのように思えてくる。テレビでも、ベビーカーを押しているお母さんが、「子どもには安全な環境で過ごしてほしい」と、参政党支持のコメントを述べています。それが排外主義の基盤になってしまう。高齢者や障害者をスケープゴートとした減税の主張も同じです。昨年の選挙でも「高齢者の尊厳死」を法制化することで社会保障費の減額や減税を実現するという国民民主党の主張が、手取りを増やしたい現役世代から熱烈に支持されました。
一方、「切り捨てられる側」の人々の生活は悲惨です。年金が足りず生活保護を受給者するお年寄りの家に訪問すると、エアコンなしの茹だるような暑さの部屋で、安いコッペパンを三等分にして、それで三食しのいでいたりする。生活保護受給者にもそういう過酷な状況が広がっています。社会保障費がこれ以上削られたらどうなってしまうのか、想像するだけでも恐ろしいです。
自分の手取りを減らしているのは、税金を食らう外国人、高齢者、障害者だと、あらゆる弱者、他者を切り捨てて自分だけ生き延びようとする衝動が強まっている気がします。
金澤 非正規雇用が拡大し、社会の成長指標が悪化している状況で生きている人びとのなかには、現状が苦しいし未来にも希望が持てないからいっそのこと、とことん社会を壊してほしいという、ある種の破壊願望に寄っている人も少なくないと思っています。私のまわりにも、参政党がヤバいこともわかっているし、生活を良くしてくれる保証もないけれど、とにかくいまの社会を壊してくれそうだから支持しているという人が複数人いました。
安田 とことん壊したら、革命になるんですけどね。
みなさんのおっしゃるとおりで、その延長線上で次々とデマが都合よく流される。あれだけさまざまに報じられているのに、いまだに生活保護には不正受給が多いと思われている。しかも、外国人が奪っているということを主張するために、生活保護利用者の8割は外国人が占めているというデータまで捏造する。厚労省や国税庁などによると、生活保護利用者の97%が日本国籍、日本人世帯なんです。
そういうデマによってどこか安心している人たちがいる。奪われているのだから、参政党や国民民主党から減税の選択肢を与えられて、なんとなく流されてしまう。これは、若者だけでなく、私の世代もそうです。