【張栄恭・国民党副主席に聞く】「台湾有事」危機解決のキーワードは何か

聞き手=本田善彦・早田健文
2026/06/29
Panel discussion with three speakers seated at a long table, microphones in front, and a decorative red screen behind them.
習近平氏との会見後に記者会見に臨む鄭麗文・国民党主席(中)。随行している張栄恭・副主席(左)、蕭旭岑・副主席(右)

 台湾の国民党主席の鄭麗文氏は2026年4月7~12日、中国大陸を訪問(1)し、中国共産党の習近平総書記と会見した。国民党と共産党のトップ会談は10年近く行なわれておらず、会談は国際的に注目された。

(1) 「一つの中国」で指す広義の「中国」との混同を避けるため、ここでは「台湾」「中国大陸(または大陸)」という地理的名称を使用する。

 この訪問に随行した国民党副主席の張栄恭氏は、訪問実現の立役者でもある。その張栄恭氏に、国民党の対中国大陸政策について話を聞いた。

 張栄恭氏は、1990年代の李登輝総統時代から、中国大陸との間の交流窓口を務め、長年にわたり中国大陸との交流の実務に裏方として従事し、国民党と共産党の上層部を結ぶコミュニケーション・チャネルを守ってきた。中国大陸のリーダーである江沢民氏には1回、胡錦濤氏には12回、習近平氏には今回を含めて7回も面会している。現在の国民党と共産党との関係は、こうした張栄恭氏のような存在が積み上げてきたものといえる。

 鄭麗文氏は、2025年11月に主席に就任すると、中国大陸担当の副主席として張栄恭氏を指名した。張栄恭氏は指名を受けて、11月にさっそく中国大陸を訪問し、対台湾事務を担当する高官と鄭麗文主席の中国大陸訪問についての交渉を始めている。

 今回の鄭麗文氏と習近平氏の会談で、双方の「平和」追求の基本原則として繰り返されたのは「92年コンセンサス(92共識)」(2)と「台湾独立反対(反対台独)」だ。そのうち、「92年コンセンサス」は非常に分かりにくいが、最も重要なキーワードである。

(2) 「92年コンセンサス(中国語は92共識)」は、国民党の李登輝時代の1992年、台湾側窓口団体「海峡交流基金会」と中国大陸側窓口団体「海峡両岸関係協会」が香港で会談を行なった際、双方が口頭で「一つの中国」を認めたというものだ。国民党はこれを「一つの中国、各自解釈(一中各表)」と説明し、「中国」とは中華民国のことであり、中国大陸側がこれをどう解釈しようがかまわないと主張した。中国大陸側は台湾の国民党のこの解釈を認めたことはないが、黙認する形で「92年コンセンサス」を双方の交流の基礎と位置付けた。これに対して独立を志向する立場の民進党は、「一つの中国」に関する合意の存在を認めず、「92年コンセンサス」を認めるよう求める中国大陸の要求を拒否している。

 台湾と中国大陸との関係が悪化し、「台湾有事」が取りざたされるようになったのは、2016年に総統に当選した民進党の蔡英文氏が「92年コンセンサス」を否定、中国大陸側とのコミュニケーションが断絶したことが発端だ。

 では、「92年コンセンサス」とは何なのか。それを語る最適任者は交渉の詳細を知り尽くした張栄恭氏を置いてほかにない。張栄恭氏は今回のインタビューで、「中国大陸との平和を維持するため、台湾では各種の方法が考えられた。だが、事実が証明するように、『92年コンセンサス』以外に有効な方法は見つかっていない」と指摘する。

 また、張氏は、「両岸関係の最終的な解決には、まだその時期が来ていない」とも述べる。国民党は中国大陸との関係をどう考え、進めてきたのか。国民党は「統一派」だとする先入観は置き、まずは張氏の話に耳を傾けたい。(聞き手=本田善彦・早田健文)

鄭麗文訪中の成果

  ――今回の鄭麗文主席による中国大陸訪問の成果は何か。

張栄恭 もっとも重要なことは、台湾海峡両岸の政党指導者が同じテーブルにつき、平和について話し合ったことだ。鄭麗文氏は訪問の最初から最後まで、両岸には平和が必要だと説いた。そして、すべて台湾の立場から話をした。双方が交渉を再開するには、相互信頼を再構築しなければならない。その鍵となるのは「92年コンセンサス」だ。

 習近平氏は公開の場面で、「統一」や「一国二制度(一国両制)」などは持ち出さなかった。メディアの前で統一を語れば、国民党を困らせることになると知っている。これは、国民党に対する非常に大きな善意だ。「92年コンセンサス」「台湾独立反対」以外に、台湾に対する何らの具体的な要求も示さなかった。

 習近平氏の発言からは、彼が両岸関係に対して一定の忍耐を持っていることがわかる。習近平氏にもプレッシャーがあるのは確かだ。2027年には共産党の第21回党大会が予定されている。2028年には台湾で再び総統選挙が行なわれる。そうした中で、結果として、台湾の人々が再び台湾独立志向の政権を支持することになるのかどうか。ここが習近平氏にとって難しい点だ。

 私は、鄭麗文氏の訪問によって、中国大陸側は少なくとも2028年までは待てると考えている。2028年に国民党が政権を獲得し、「92年コンセンサス」を堅持すれば、両岸関係には一定の時間的・空間的余地が生まれる。しかし、引き続き民進党が政権を維持した場合、その時の両岸関係は非常に面倒で、かなり困難な状況になるだろう。

 蔡英文総統の時代には中国大陸側による台湾周辺での軍事演習が2回行なわれ、さらに頼清徳総統が就任してから2年足らずで4回の演習が実施されている。こうした状況の中で、2028年の総統選挙に向けて国民党が両岸関係について何も行動を起こさなければ、国民党は何もしていないと有権者は受け止めるだろう。だからこそ、私たちは具体的な行動を示し、国民に見える形で成果を示す必要がある。それが今回の鄭麗文氏の訪問だ。

「10項目措置」をどう見るか

  ――中国大陸側は鄭麗文氏の訪問後、両岸の交流拡大を主眼とする「10項目措置」を発表した。これをどう評価するか。

張栄恭

(チャン・ロンゴン)中国国民党副主席。一九五〇年、台北市生まれ(七六歲)。輔仁大学法律学科卒業、政治大学東亜研究所法学修士。国民党傘下の通信社だった中央通訊社で中国大陸関連のニュースを担当し、大陸新聞部主任、副編集長を務める。李登輝総統の両岸密使チームに入り、一九九八年に国民党中央大陸研究工作会主任に就任。国民党大陸事務部主任、国民党副秘書長、総統府国家統一委員会研究委員などを歴任。趣味は日本の温泉巡り。

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