続発する制御棒関連トラブル
2025年6月以降、柏崎刈羽6号機をめぐって少なくとも5回のトラブルが続いている。
14年もの間停止していた原発が再稼働するため、準備の段階でトラブルが発生することは十分ありうると思っていた。しかし、次の各トラブルを見ていくと、ある共通項が見えてくる。
① 2025年6月30日 制御棒1本を引抜く際、電動機が動かなかった。
② 2025年8月25日 制御棒1本を引抜く際、部品が引っ掛かり動かなくなった。
③ 2026年1月14日 制御棒を引抜く際に警報が鳴る。
④ 2026年1月17日 制御棒を引抜く際に鳴るべき警報が鳴らなかった。
1月18日に④の事象を東電が発表、20日に再稼働延期決定。21日14時に規制庁再稼働承認、19時に14年ぶりの再稼働。
⑤ 2026年1月22日 制御棒を引抜く際に警報が鳴り1月23日午前0時過ぎ原子炉を停止。
こうして時系列で並べると、制御棒関係の問題に集中的にトラブルが発生していることがわかる。何かがおかしいと考えざるを得ない。しかも、トラブルの対象は、原子炉の核反応を制御する制御棒駆動機構(Control-Rod-Drive、CRD)という装置である。
制御棒駆動機構という仕組み
原子炉の中には、核燃料が約800本入っている。核燃料は、直径約10ミリ高さ約10ミリ程度のセラミックとして焼き固められたペレットが、燃料被覆管という長さ約4メートル、直径十数ミリ程度の管の中に詰め込まれている。その燃料棒を数十本ずつ束ねたものを燃料集合体といい、燃料集合体4本の間に、断面が十文字の制御棒が差し込まれている。制御棒は中性子を吸収する材料でできており、それを燃料集合体の間に抜き差しすることで、核反応を制御している。その制御棒を抜き差しする仕組みを制御棒駆動機構=CRDといい、沸騰水型では、原子炉の下から制御棒を差し込み、核反応を制御する。
通常、制御棒はゆっくり出し入れして核反応を進めたり、止めたりするが、緊急時には蓄圧タンクから高圧の水を噴出し、ピストンにより制御棒は1、2秒の時間で全挿入され、核反応を止める。これをスクラムといい、CRDの最も重要な役割である。
改良型沸騰水型原子炉のCRD
柏崎刈羽原発6号機と7号機は、改良型沸騰水型原子炉ABWRといって、従来型の沸騰水型原子炉BWRからいくつかの改良を行なっている。
その一つが水圧駆動だったCRDの改良で、ゆっくり出し入れできる改良型制御棒駆動機構=FMCRDである。この〝FM〟とはFine Motionつまり滑らかに動かし、核反応の微調整を行なうことを指す。そのために、従来型の水圧駆動に加えて、通常時は電動駆動で制御棒を動かす仕組みを組みこんだ。電動で回転するねじ状の棒が上下に動く。従来型の水圧駆動装置とは別構造になっているため、緊急時に制御棒を挿入する機能(スクラム)は健全であるという。東京電力は、冒頭に並べた事象を受けて、各制御棒を動かして水圧で制御棒を挿入できることを確認したうえで、電動駆動の部分が動かなかった原因は特定されていないが、スクラム用の安全機能は健全である、だから再稼働することは問題ない、として強引に再稼働へむけて準備を進めた。
新潟県の状況確認の結果報告
新潟県は、安全協定にもとづく状況確認を実施した。新潟県のウェブサイトに記載された専門家のコメントを紹介しておく(事実関係や名称は誤解を生じない範囲で簡易表記する)。
1 日時 2026年1月20日13時40分~16時20分
2 確認者 新潟県、柏崎市、刈羽村 小原徹・技術委員会座長(東京科学大学総合研究院教授)、長家康展・評価会議委員(原子力研究開発機構原子力科学研究所原子力工学研究センター炉物理・熱流動研究グループリーダー)
3 内容 原子炉隔離時冷却系(RCIC)ポンプ及び高圧代替注水系(HPAC)ポンプの作動状況を確認
筆者注 いずれのポンプも原子炉の蒸気を用いて駆動し、非常時に原子炉へ注水する。HPACは福島事故後に新設された。なお、この状況確認は原子炉の定格圧力(約7MPa)ではなく、約1MPaにおいて実施された。
専門家のコメント
○小原技術委員会座長
制御棒の設定誤りの事案を受け、一旦立ち止まり、迅速かつ組織的に対応したこと、公表を行ったことは評価できる。東京電力には、今回の事案をきちんと教訓にして、再発防止に努めてもらいたい。
○長家評価会議委員
制御棒の設定誤りの事案については、若手職員が気がついたとのことであり、安全管理や人材育成がしっかりととられていることを確認できた。
さらに翌21日も新潟県による状況確認作業は行なわれた。確認者は前日の小原、長家両氏に加えて中島健氏(技術委員会委員・京都大学名誉教授)が加わっている。その「専門家」コメントを、新潟日報の記事から引用する。
○小原技術委員会座長
本日の起動工程について、運転員が真摯に取り組み、確実に操作をしていた。プラントパラメータも正常で、問題となる点は無かった。引き続き、安全意識、緊張感を持って、しっかり対応していただきたい。
○中島技術委員会委員
非常にスムーズに、命令系統に基づき確認しながら作業が進められていた。運転員が若い方々で、これからの原子力の人材育成や、技術継承をしっかりやっていくという東電の気持ちが表れていた。これから出力を上げていく段階でも、焦らず、一歩ずつ進めて欲しい。
○長家評価会議委員
排気筒モニタ、海水モニタ、モニタリングポストの値などに、問題がないことを確認した。制御棒引抜作業も問題なく進められていた。これからも、着実に、安全を第一に進めていただきたい。
状況を理解していない専門家コメント
以上、2日間にわたって「専門家」の意見が公表されている。しかし、中立的な立場の委員等の発言とはとても思えない。詳細に見てみよう。
小原氏が「評価できる」としていることは事故対応として当然のことで、トラブルが続発してきたことをまったく見ようとしていない。「若手職員」の「技術継承」が楽観的に語られているが、原子力技術の継承問題の重要性が理解されていない。14年間もの長期間にわたって運転されていなかった6号機は、すでに半数近い運転員が一度も実機を運転した経験がない、いわばペーパードライバーである。そのことの危険性が分かっているのだろうか。運転員は交代制で1グループ十数名程度だが、そのうち約半数近くが未経験者なのである。通常運転時はともかく、トラブル発生時の対応は厳しい。トラブルが解決できず事故へ進展するような事態になると、福島事故を見ればよくわかるように、全員がベテランでもまったく手がつけられなくなる。自分で判断して対応できる人間以外は足手まといになるだけである。
長家氏は「安全管理や人材育成がしっかりととられている」とコメントしているが、のんきである。昨年6月以降、東電がやってきた場当たり的な対応をどのように見ているのか。さらに、「制御棒引抜作業も問題なく進められていた」という発言は、制御棒問題のトラブルの意味と深刻さをまったく理解していない発言ある。
総じて、どの委員のコメントも、一連の制御棒問題の意味と原因が理解されていないことをうかがわせる。自ら知ろうとも調べようともせず、東電の説明をただなぞって発言しているにすぎない。本来ならば、専門家には一連のトラブルについてどこに問題があるのかを究明する視点が期待されるはずである。無批判に東電に忖度するだけの「専門家」は、不要なだけでなく、道義的に許されない。
本音を語れない技術者たち
昨年12月16日と25日、本年1月9日の3回にわたって議員会館で柏崎刈羽原発をめぐる市民集会が開催された。その場における東京電力と規制庁の対応状況は公開されている。
この集会は、新潟県知事が、柏崎刈羽原発の再稼働をめぐる技術的な安全性について、東電や規制庁と実質的な議論をすることなく、言葉の上で「安全性が確保された」といった主旨の発言をしたことに対して、柏崎刈羽原発の設計と建設等に携わった元原発設計技術者である筆者と小倉志郎の二人が要望書を出したが無視されたため、東電と規制庁に公開の場で質疑をしたものである。
はじめの2回は、制御棒問題をはじめ、柏崎刈羽6号機の技術的な問題を、正面から、丁寧に質問する形で進めた。同時に、原発の安全性をどのようにみるべきか、技術的な視点で市民にも分かりやすく議論することを試みた。しかし、残念ながら内容のある返事は少なく、東京電力や規制庁の立場を主張するだけで、原発の安全性に関して、内容のある応答は返ってこなかった。特に東電は、1回目は直接参加せず、形式的に文書で答えただけで、中身のある議論はまったくできなかった。規制庁と内閣府は、7~8人の職員を出し、以前よりは多少なりとも議論の入り口が作れたと思い、2回目の会合で、より突っ込んだ議論を持ちかけた。組織の建前を超えて一技術者として議論することを求めたが、組織の一員としての発言に終始したため最後まで本音は聞けなかった。技術者が本音で議論ができない状況では、もはや産業としての未来はない。
東電側説明への疑問点
2月7日付の東京新聞の記事によると、柏崎刈羽原発の稲垣武之所長が6日に記者会見をし、1月21日に再稼働させた際、別の制御棒を引き抜こうとした時に警報が鳴って作業を中断し、約29時間後に原子炉を止めた際のことを説明した。この時、東電は、制御棒を動かすモーターの速さを調節するインバータに不具合があるとみて原因を調べたとのことだが、その結果、2023年にインバータを交換した際、異常を検知すると警報が鳴る機能が加わっていたが、高い感度に設定したことで、異常が起きていないのに警報が鳴る状態だったことがわかったという。しかし、警報が鳴るようにしたのは誰なのか。2023年に改良設計した者が、何らかの理由で警報を鳴るように作りなおしたのではないのか。
これは非常に重要なことで、素直に考えると、「インバータを交換したのは故障があったから」だと思われるが、「なぜ故障したのか」、「故障の要因も分からずに交換したのか」、「インバータの故障と警報が鳴る機能の追加はどう関係するのか」等々を追及すべきであるが、すべてのことがらが断片的な現象の羅列になっている。もしかすると、それとは別に何らかのトラブルや故障が起きていて、その対策として警報が鳴るように変えた可能性も疑われる。
この問題についての東京電力側の説明を整理すると、どうも、インバータに流れる電流の値の振れ幅が把握できないまま「高い感度に設定したこと」が原因だったことがわかったということらしい。東電によると、2023年に6号機の制御棒に関わる全205台のインバータを交換したが、その際、断線でモーターに電流が流れないといった異常が起きたときに警報が鳴る機能が加わった。今回のトラブルを受けて調べたところ、モーターに必要な電流が届くのがわずかに遅れたため、異常と誤認して警報が鳴ったことが分かったという。この遅れについて、東電は「正常な範囲」だが、インバータが異常を検知したと説明する。警報を鳴らす設定は「非常に短い時間」、「短い時間」、「検知しない」の3種類あり、東電は「非常に短い時間」を選んだ。モーターが止まったときに早く原因を特定するための判断だったと説明するが、これが「警報が誤って出る原因となった」としている。
この東京電力の説明への疑問点を列挙する。
① インバータの状況や過去のトラブルの件数を明示すべきである。
② 特に、インバータ全205台を交換した理由を明らかにすべきである。
③ 断線でモーターに電流が流れないといった異常が起きたときに警報が鳴る機能を加えたのは誰なのか。その時に電流の異常に対して検討したのか。電流の遅れを3種類に設定したのはいつか。
④ 警報のハードはいつつけたのか。インバータそのものに初めからついているのか。
⑤ インバータの電流の異常に対する設定が問題だったというが、インバータに流れる電流の遅れが異常であるか正常であるかは今まで分からなかったのか。
⑥ そもそも、改良型制御棒駆動機構(FMCRD)の初期設計の機能要求はどうなっていたのか。また、2023年のインバータ全台交換時の設計上の機能要求は、どこが変わったのか。
以上、6件について東京電力の見解を問う必要がある。
設計ミスを把握できない東京電力
装置の設計要求は、ハードとソフトを組み合わせてできている。ハードが健全であっても、ソフトの設定が間違っていれば機能を喪失すると考えるのが普通だ。東京電力の稲垣氏が、今回の事態について「設定ミス」ではないと説明していることは意味不明だ。制御棒駆動機構の一連のトラブルは、原発の核反応を制御する装置の機能喪失が関係している。制御棒が「動かなくなった」ということは、核反応の制御ができない状態を意味する。複数本の制御棒を引き抜く段階で、本来発すべき警報が鳴らなかった。そのトラブルの裏にはロジックエラーがあり、しかも建設時から30年間、それに気がつかなかったとされている。今回たまたま制御棒を引き抜く時に警報が鳴らないことに作業員が気づいたため発覚したが、気がつかずに運転に入ってしまってもおかしくなかった。
しかも、この警報は、引き抜いてはいけない制御棒を引き抜いてしまうことがないように組み込まれてある、インターロックの役割をする重要な警報である。この問題は、基本的なロジックの段階で設計当初に組み込まれた明らかな設計ミスであり、しかも、プラント立ち上げ時にチェックがかからなかったものである。これは深刻な問題で、こんな設計ミスが30年間も隠されていたことは、驚きというより脅威である。
原発の仕組みの中に安全のための検査をすり抜けているところがないか、全プラントにおいて確認をすべきである。
今回のトラブルについて、再稼働を急ぐ東京電力は、正しい運転状態であるにもかかわらず警報が鳴ったというトラブルであり、ハードに異常はなく、インバータの電流値の設定ミスだから、再稼働には問題ないとする。さらに、その機能自体が不要であるとして警報が鳴らないようにするという。警報装置の設計者は、どう考えていたのか、その警報をなくすことに元の設計者は合意するのか、確認が必要である。東京電力の説明から判断すると、設計した人の意図すら把握できていないようにみえる。
いずれにせよ、東京電力の説明に依拠しても、機器に流れる電流値から警報を鳴らす仕組みにした時点で、基準すら明確に把握できていない警報装置が制御棒駆動機構に組み込まれていた事実は重たい。しかも、ABWRの制御棒駆動機構は、冒頭で述べたように、水圧制御と電動式制御が混在した複雑な仕組みである。こうした仕組みの問題は、30年前に発生した従来型の制御棒駆動機構のスクラム機能の喪失事故まで立ち戻って、ABWRの制御棒駆動機構全体の問題として立ち止まって検証を続けることが必要である。
だが、東京電力にはもはやそうした意志も技術力も失われているといわざるをえない。このまま再稼働を続けることは、さらなるトラブルの重なりによって、福島事故以上の大事故につながる可能性すら否定できない。






