子どもの貧困と食支援としての学校給食── 選別的福祉から普遍的福祉へ

鳫 咲子(跡見学園女子大学マネジメント学部教授)
2025/01/05

 日本では、効率化重視のもと1980年代から行政改革の一環として、学校給食の民間委託やセンター化が進んだ。学校給食の合理化が根強くうたわれる一方、物価高騰下で、委託事業者の倒産リスクも高まっている。さらに近年では、コロナ感染症や地震などの災害、物価高騰などによる大きな環境の変化が、子どもたちの食を脅かしている。本稿では、環境の変化によってダメージを受けやすい経済的困難を抱える子どもに焦点を当てて、韓国の親環境無償給食を参考にしながら普遍的な食支援としての学校給食の役割を再考する。

子どもの貧困と食事の状況

 内閣府は2021年、コロナ禍における「子どもの貧困」の実態を初めて全国的に把握しようとする「子供の生活状況調査の分析報告書」を公表した。この調査では、世帯を収入によって貧困層(158.8万円未満)、準貧困層(158.8万円以上317.5万円未満)、一般層(317.5万円以上)の3つに分類している註1。ひとり親世帯では貧困層の割合が高く、とくに母子世帯の貧困層の割合は54.4%にも上った。

 さらにコロナの影響によって世帯収入が「減った」と回答した世帯は、一般層では24.0%に過ぎないが、準貧困層では39.6%、貧困層では47.4%に上る。コロナ禍が長期化した中で、世帯収入が少ない世帯ほど経済的な影響を受けやすく、子どもの間の格差が拡大していることが明らかになった註2

 この調査では、世帯収入ごとの子どもの食事の状況についても調べている。毎日朝食を食べている子どもが一般層では86.5%いるが、準貧困層では80.5%、貧困層では71.2%と減少する。逆に、貧困層では、朝食を食べるのが週1、2日あるいは、ほとんど食べない子どもが8.6%もいる(図1)。

図1 世帯収入の水準別食事の状況朝食
出所内閣府2021子供の生活状況調査

 保護者の健康状態も子どもの食習慣に大きな影響を与えている。横浜市の調査では、朝食を「ほとんど食べない」と回答した子どもの割合は、保護者の健康状態が「よくない」「あまりよくない」家庭では18.0%で、保護者の健康状態が「普通」の家庭よりも2倍近く多かった註3

 こうした背景からも、経済面などの困難を抱える世帯の子どもにとって学校給食は重要な役割を担っている。歴史的にも、地震等の災害・戦争など子どもの食が脅かされる出来事をきっかけに、給食が発展してきた。

給食費未納と就学援助制度の限界

 戦後、連合国からの給食への支援が打ち切られると、給食費の保護者負担の増額による未納者の増加で当時の学校給食の4分の1が中止となる事態となった。1956年の学校給食法改正によって、学校給食の対象が中学校に拡大されるとともに、生活保護受給者以外への給食費の支援である就学援助制度が導入された。

 文科省の報告書によると、2022年度は全国の14%、公立小中学生の7人に1人が就学援助や生活保護による給食費の支援を受けていた。コロナ不況下では貧困層ほど収入が減少したが、一方で、援助を受ける小中学生の割合は、2011年をピークに11年連続して減少している。

 就学援助制度は、東京や大阪など規模の大きい自治体では、4人に1人の子どもが支援を受けるほど活用されている。しかし、申請しなければ給付されないため、規模が小さな町や村では都市部と比べて、あまり活用されていない註4。東日本大震災で被災した宮城県石巻市では、被災枠の就学援助ができたことで被災した子どもの大半が申請し、大幅に給食費未納が減った。規模の小さな町や村では、特定の子どもに対する就学援助による給食費支援より、子ども全員の給食費を無料にする方が地域住民の理解を得られやすいと考えられる。

自治体で広がる給食無償化

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鳫咲子

(がん・さきこ)跡見学園女子大学マネジメント学部教授。筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、博士(法学)。参議院事務局で国会議員の立法活動のための調査業務などに二七年間携わる。著書に『給食費未納 子どもの貧困と食生活格差』(光文社)、『子どもの貧困と教育機会の不平等』(明石書店)など。給食無償化に関する書籍を近刊予定。

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