【海北由希子さんに聞く】この土地を戦争の拠点にはさせない――台湾有事とミサイル配備

月刊『地平』編集部
2026/01/14
陸上自衛隊健軍駐屯地(熊本市東区)への12式長射程ミサイル配備計画に反対する「ストップ!長射程ミサイル健軍集会」で声をあげる人々。集会が開かれた健軍商店街は駐屯地から約1.5キロ。住民ら約1200人が集結した。 2025年11月9日。提供:海北由希子

高市発言からの波紋

 ——熊本県の県庁所在地、熊本市の住宅街に位置する陸上自衛隊の健軍駐屯地に長射程ミサイルを配備する計画があります。前回(本誌二〇二五年四月号)は住民としてその計画に反対する論理と取り組みについて話をうかがいましたが、その後、大規模な反対集会が開催され、国会でも住民説明会の開催などをめぐって質疑が交わされるなど、さまざまな動きがあります。まず、現在の状況について教えてください。

海北由希子(以下、海北) (二〇二五年)一一月七日の高市首相の「台湾有事」発言の前と後では、この敵基地攻撃能力を有するミサイルの配備計画の意味についての私たちの認識は大きく変わりました。あの発言以降、地域全体に危機感、怒りが一気に広がりました。このミサイル配備計画も、「専守防衛」で「抑止力を強化」するためではなく、中国を相手に「台湾有事」に介入して参戦するためのものではないか、という怒りです。

 一一月九日は朝から雨でしたが、健軍がある東区の地域住民が中心となって二カ月ほど前から準備し、健軍商店街で開催した反対集会には、一二〇〇人もの人が集まりました。それは高市発言からわずか二日後だったというタイミングも大きかったと思います。

 さらに、ミサイルを保管する弾薬庫の新設も明らかになっています。(二〇二五年)八月五日には一億一五五〇万円で落札が終わり、健軍駐屯地の敷地内に新たに弾薬庫が二つ建設される計画です。もともと地上式の弾薬庫が八つあり、Google Earthなどからも確認できるほどですが、市民の暮らす住宅地との間に確保すべき「保安距離」をまったく満たしておらず、国際法的にも問題のある状態です。

 もともと健軍駐屯地は、前回のインタビューでも少し紹介しましたが、明治初期の「熊本鎮台」以来、軍事拠点として存在していたこともあって、駐屯地周辺の住民は自衛隊と長く共存してきました。戦前からの「軍都」という歴史だけではなく、自衛隊があることで交付金もきますし、自衛隊の家族も地域に溶け込んでいて、商店街で買い物をしたり、保育園に子どもが通ったりもしています。地域の経済基盤にもなっています。私は「平和を求め軍拡を許さない女たちの会・熊本」として活動していますが、集会や申し入れには右翼団体の街宣車が来ますし、平和運動への風圧が強い地域であることは間違いありません。

 でも、今回のミサイル配備計画と高市氏の発言をきっかけに、保守的な基盤の熊本でも大きな反発が生まれました。長射程ミサイルが配備されることで攻撃を受ける可能性が強まるという危機感だけではなく、「こんな首相のために生活や生命が危機に直面するのか」という怒りです。高市氏は全国的には支持率が高いようですが、それは、ああいう言動によって生命が危険にさらされるというリアリティを感じていない人が多いからだと思います。トランプ大統領の訪日の際の高市氏の振る舞いを見て、「自衛隊の最高責任者が米軍兵の前でこんな振る舞いをするのか」と多くの自衛隊員やその家族は感じています。

 興味深いことに、いま熊本でかつてなかった軍拡に反対する機運が高まっている根底には、「自分の土地や家族、安全な暮らしは自分たちが守る」という、いわば「保守的」な感覚が基になっている気がします。それは平和主義や理性的な外交を重んじる左派の感覚とは違う形の地域防衛意識かもしれません。しかし、右派の「国体を守る」といったリアリティのない感覚ともまったく異なっていて、「自分たちの家族や生業を守る」という感覚です。熊本で起きている動きは、まさにそうした土着の思いから湧き出ています。これは大事にしなければならない感覚だと思っています。

 ——地元の人々の意識が変わってきたということでしょうか。

海北 そう思います。これまでは、そうした自分たちの安全と安心の確保を国や県に任せてきた人たちが、それではもうだめだ、自分たちのことは自分たちで守らなければ! という意識に変わり始めています。これは、ある意味で昔の「百姓一揆」のような感覚なのかもしれません。地方自治の「原点」に立ち戻る動きの始まりと言えると思います。

 地方自治とは本来、住民の生命と生活、幸福追求権を守るものです。それがないがしろにされ、県も市も国の下請けのように扱われている。そこに疑問を持ち、原点に戻る必要があると感じています。高市氏の発言は、そうした気づきを促すきっかけになったとは思いますね。

 ——一一月九日の集会には一二〇〇人もの参加者が集まり、話題になりました。

海北 正直なところ、地元の実行委員会も最初は五〇〇人くらい来てくれたらいいなと思っていて、足りなくなったらいけないので資料はいちおう一〇〇〇部準備していたのです。ところが準備していた資料は開会前にすべてなくなってしまいました。その後も雨の中どんどん人が集まり、さらに県内外からも参加してくれていました。肩をぽんぽんと叩かれて振り向くと、わざわざ水俣からチラシを見て来たよ、という方もいて、最終的な主催者発表では一二〇〇人と発表しました。これは熊本では異例のことです。商店街の許可を取るところから地元住民の方々が動いてくださり、商店街の会長さんも、PTAの会長さんも趣旨に賛同してくれました。

 準備段階では右翼の妨害対策も念入りに行ない、警察とも繰り返し打ち合わせをしていました。熊本市東区の地元の人たち自身が中心となって計画を進めることがもっとも重要ですので、平和団体や市民団体は側面的な支援に徹しました。本番当日のリレートークでは、PTA会長や商店主、元自衛官、元教員など、地域の一四人がそれぞれの生活に根ざした発言を堂々とされていました。私も市民団体の代表として話し、熊本で平和イベントのために来日中だった元米国軍人も飛び入り参加してくれました。右翼の街宣車数台が健軍商店街の周りを走り回る中、地元の人たちが自分の言葉で語る姿は、まるで映画の一場面のようで、本当に感動的でした。

 二〇一五年の安保法制反対の取り組みのときにも市民集会は開催されましたが、熊本では数百人規模にとどまりました。今回は人数が大幅に増えたことも事実ですが、何よりも違っていたのは、参加した誰もが「自分はこの問題の当事者だ」という意識を持って集まっていた、ということです。単なる一聴衆としてではなく、自分ごととしてそこに来たという実感がありました。

官僚知事が地方自治を投げ捨てる

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