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*聞き手・熊谷伸一郎(本誌編集長)
南西シフトの現状
――まず、熊本でいま進められている軍事的な動きについてお聞かせください。
海北 日本の防衛政策が中国を意識した路線に変わる中で、「南西シフト」として自衛隊の部隊も九州や沖縄などの西日本に重点が置かれるようになってきています。仮に西日本のどこかで戦闘が起きた場合、前線の司令部になるのは熊本市に置かれている西部方面隊の西部方面総監部です。
象徴的だと思うのは、日本には北部・東北・東部・中部とあわせ5つある方面隊の中で、この熊本の司令部に関しては地下化する動きがあることです。2025年度の予算案の中に355億円の関連予算が盛り込まれています。これが何を意味するかといえば、ミサイル攻撃を想定して基地を強靭化するということです。「安保3文書」に「国土が戦場になることも想定し、有事においても容易に作戦能力を喪失しないよう、粘り強く戦う態勢を確保するため、主要司令部等の地下化、構造強化、電磁パルス攻撃対策などを実施する」と書かれており、現在の軍事的な動きはすべて戦争準備だと思います。
西部方面総監部以外にも、九州で司令部の地下化計画が、空自の春日基地、築城基地、新田原基地で進行中です。西部方面総監部がある健軍駐屯地は住宅地にあり、市民病院、集合住宅、学校なども隣接しています。健軍駐屯地は敷地面積が広く周囲を壁と柵で囲まれていて中が見えにくいため、普段の生活では実感が無いかもしれませんが、その向こう側には弾薬庫があり、地対艦ミサイルが配備され、戦闘車と隣り合わせで暮らしているのです。弾薬庫は北熊本駐屯地にもあり、住宅密集地のど真ん中です。
司令部地下化に355億円もの予算をかけるということは、電磁シールド整備などさまざまな工事が行なわれているはずですが、住民に具体的なことは何も知らされていません。地下化された司令部には、「有事」の際に住民も一般の自衛官も入れないとのことです。軍拡で国民を守るという政府の言葉に、基地周辺で暮らす住民や自衛官は含まれていないということです。国の示す矛盾が地方で具体的な形として現れていると感じます。
北熊本駐屯地には第8師団が置かれています。「有事」の際に最前線に派遣される即応部隊で、6000人を超える隊員の8割が、熊本、鹿児島、宮崎出身者です。その第8師団の訓練場所は、北熊本、高遊原(たかゆうばる)分屯地、玖珠、都城(みやこのじょう)、瀬戸内などですが、沖縄でジャングルを想定した訓練も行なっていたと聞いています。訓練の場所や内容も今までと変わってきていると思います。チヌークと呼ばれるCH47輸送ヘリや、ブラックホークというUH60ヘリが熊本市上空をよく飛んでいますし、大矢野原演習場(山都町)では365日中、300日ぐらい演習が行なわれているそうです。南西シフトの「ヘリ拠点」である高遊原分屯地は熊本空港と滑走路を共有しており、米軍機の熊本空港の使用数は那覇空港に次いで2番目の多さになっています。昨年8月に「特定利用空港」にされて以降、米軍や豪軍の大型輸送機やF15戦闘機も新田原空軍基地から熊本空港に飛来し、軍用機を見かけない日はないくらいです。
軍事演習の激化
――以前から変化を感じていたとのことですが、どういった点からでしょうか。
海北 2022年12月の「安保3文書」で決定的に可視化されましたが、もっと前から変化を感じていました。2016年4月に熊本地震が発生した5日後には、全国から自衛隊数2万2000人が動員されていました。今思えば南西シフトはすでに始まっていたのかもしれません。米軍オスプレイが災害対処に投入されたのは発生から4日後でした。避難所で自衛隊員が簡易トイレや風呂を設置し、水や食料、毛布が配られ、人々は自衛官をヒーローだと感じていました。当時高校3年生だった娘の同級生はそんな自衛官に憧れて、「自分も人助けをしたい」と自衛隊に入隊しました。熊本は親族に一人は自衛隊関係者がいるという「軍都」です。もともと自衛隊についてネガティブな発言をする人は少ない。そういう地域で「震災復興」の名の下にインフラ整備が次々と進み、気づいたら強靭化の基盤ができあがっていた。
軍事演習は激化する一方で、沖縄の負担軽減を理由にオスプレイが頻繁に飛んでくるようになりました。その後も復興と軍拡は同時進行し、2022年には大矢野原演習場で一発2000万円するというジャベリンの実弾射撃がマスコミ公開で行なわれました。ウクライナでたくさん使われていた武器です。