はじめに
2022年から23年にかけて、全国各地のPFAS(有機フッ素化合物:Perfluoroalkyl substances)汚染が報道された。
汚染は汚染源により二つに大別される。その一つは泡消火剤による土壌の汚染や貯蔵槽からの漏えいによる地下水汚染である。このタイプの汚染は、主としてPFOS (Perfluorooctansulfonic Acid)およびPFHxS(Perfluorohexisansulfonic Acid)による汚染であり、横田基地周辺の三多摩地域、沖縄県の基地周辺の地下水汚染として報道された。
もう一つのタイプは産業利用および産業廃棄物による汚染であり、主としてPFOA(Perfluorooctanoic acid)による。大阪府摂津市のダイキン工業の周辺の地下水、岡山県吉備中央町の水道水汚染などの報道が有名となった。
PFASによる環境汚染は、潜在的な汚染も含め、国の対処を求めて国民の関心事となりつつある。
このような状況に対して、国の内閣府は2024年6月にPFASのリスク「評価書 有機フッ素化合物(PFOS)」(以下、評価書)を決定。この内容によれば、1日当たりの耐容量(1日耐容量、Tolerable Daily Intake:TDI)としてPFOSとPFOAともに体重1kgあたり20 ng/日、すなわち70 kgの人であれば1400ngまで安全であると基準を定めた。体重kgあたり20 ng/日という値は、2016年に米国E PAが水道水基準を70 ng/Lに決めた根拠とした値であり、2019年に厚生労働省が決定した現行の水道水の指針値である50 ng/Lの算定の基になった値でもある。
一方、米国のバイデン・ハリス政権は、2021年の10月にPFASの戦略ロードマップを発表し、2016年以降の世界のPFASの毒性に関する最新の科学的知見を採り込む作業に就任直後から着手。水道水基準の設定、汚染者負担の原則に基づき除染を義務化するスーパーファンド法案への登録と、一連の工程を予定通り2024年4月中に完了した。中でも水道水基準は、従来の動物実験に基づく70 ng/Lを大幅に低減させ、PFOS、PFOAとも4ng/L未満という厳しい法的拘束力のある基準を決定した。またEUでも同様に規制の見直しが行なわれ、PFOS、PFOA、PFHxSおよびPFNAの4種のPFASの合計値として体重kg週当たり4.4ngの値が提案され、今後さらに強化される見通しである。
わが国のPFAS規制は極めて世界の中で緩く、現状追認の批判を免れない。本稿では、世界のPFAS規制の動向を踏まえ、PFASによる環境汚染に対しておさえておくべき基本的な事項を考えてみたい。
PFASとはなにか?
PFASとは、過フッ素化メチレン(CF2)あるいは過フッ素化メチル(CF3)を1つ以上分子中に含む化学物質をいう(OECDによる定義)。分子内にフッ素Fが導入されることで安定化し、紫外線で劣化しにくく、熱に強く、水や油をはじく性質を得る。従来約5000種といわれてきたが、新規の未規制のPFAS化合物を入れて検索すると1万を超える化学物質が該当する。
PFASの代表であるPFOSは、航空機燃料の消火剤である泡消火剤として、PFOAは種々のコーティング剤やフッ素樹脂の原材料として生産されてきた。PFAS規制の強化にともない、未規制PFASも開発され、半導体製造、電気自動車の電池の製造、自動車部品、医薬品、食品の包装容器、冷蔵庫の冷媒など多様な用途で現在も使用され、引き続き開発も進んでいる。
また土壌中で酸化されPFASを放出する前駆体も化粧品の基剤などとして開発されてきた。そこで、多様で多数のPFASを分類するための分類が必要となってきた。最終的に環境中に残るであろうPFASを、残遺PFAS(Legacy PFAS)と呼ぶ。残遺PFASはPFOAやPFOSを含み、非常に安定で「永遠の化学物質」(Forever Chemicals)と呼ばれる。また、現在も未だ構造が決められていないPFASが存在する点は留意したい。