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2022年12月に閣議決定された「安保3文書」のうち、「国家安全保障戦略」には「有事も念頭に置いた国内での対応能力の強化」が、この下位文書にあたる「国家防衛戦略」には「特に南西地域における空港・港湾等を整備・強化するとともに、既存の空港・港湾等を運用基盤として、平素からの訓練を含めて使用する」と明記された。
これを受け、平時から自衛隊や海上保安庁が訓練のために使用することを前提に、民間の空港や港湾などの公共インフラを整備、拡大するとし、政府は当初、38の空港・港を整備候補に挙げた*1。しかし、自治体が管理している空港や港湾では「軍事利用」を否定しているケースも少なくなく、自衛隊や海上保安庁が円滑に利用するためには「枠組み」を設ける必要がある。そのため指定には時間がかかり、2024年4月に全国で16の空港と港湾が、8月に12の空港と港湾が追加で指定され、現在は全国で8空港、20港湾が指定されている。
さらに、「平素から円滑な自衛隊の人員・物資輸送等に資するよう、『特定利用空港・港湾』と自衛隊の駐屯地等とのアクセスの向上に向け、道路ネットワークの整備を図る」として、2025年度から、「特定利用空港・港湾」に加えて、「道路」も追加されることとなった。内閣官房のウェブサイトによれば、自衛隊が道路を通行するにあたり、空港・港湾を利用する際のようなインフラ管理者との利用調整は生じないことから、道路については「円滑な利用に関する枠組み」は設けず、自衛隊はこれまでどおり、道路法等の既存の法令にもとづき通行するという。
特定利用に指定されれば、国の予算で整備事業が促進される。政府・与党は、道路整備が進めば、自衛隊の災害対応や民間利用にも資すると見ている*2。
だが、民間の空港や港湾、さらには道路が日常的に軍事利用に供されることとなれば、武力攻撃予測事態を政府が認定し、住民避難が開始された段階において、これらの公共インフラは軍民共用施設として攻撃対象とされる可能性がある。平時から自衛隊や海上保安庁が訓練のために使用するとなれば、ジュネーブ諸条約の定める軍民分離の原則に反するからである。
PAC3の搬入遅れる
2023年4月、北朝鮮が計画する軍事偵察衛星の発射に備え、「破壊措置準備命令」が出たことを受けて、防衛省が宮古島、石垣、与那国に航空自衛隊の地対艦誘導弾パトリオット(PAC3)を配備しようとしたところ、沖縄本島内の港湾が民間船の利用で岸壁の予約が埋まっていて使えず、必要な車両などを運び出せないことを理由に、宮古島への配備が遅れた。
特定公共施設利用法にもとづき、自衛隊が空港や港湾、道路などを優先的に利用できるのは有事の時のみで、平時の利用については原則、自治体などの施設管理者との協議で決めることとされてきた。このため、この事例では自衛隊を優先する法的根拠がなく、県側の協力が不可欠であった。防衛省内では「インフラ利用で見直すべき課題を浮き彫りにできた」と述べる一方、沖縄県は「法整備されれば自衛隊の民間施設の利用が拡大する可能性は十分考えられる」と警戒を強める*3。