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突然のニュース
「自衛隊の弾薬庫があることは知っていたが、あまり気にしたことはなかった」と、地元の人たちは言う。
「2024年度予算案で防衛省が陸上自衛隊祝園(ほうその)分屯地の火薬庫8棟の増設費用102億円を計上」というニュースが配信されたのは、2023年の年末のことだった。
急に8棟増設とはどういうことなのか。住民の間に驚きと動揺が広がった。
陸上自衛隊の祝園分屯地は京都府南部、京都駅から電車で30分ほどの精華町と京田辺市にある。470ヘクタール、東京ドーム100個分の敷地は、精華町の面積の6分の1を占め、本州にある陸上自衛隊の弾薬庫施設としては最大級の規模だ。車で周囲を一周するには30分以上かかる。全体が樹々に覆われた小高い山のようになっていて、敷地内の様子を外からうかがい知ることはできない。弾薬庫が現在何棟あるのか、どんな弾薬が保管されているのか、町役場ですら情報を持っていない。
この分屯地の特徴は、京都・大阪・奈良の3府県にまたがる「関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)」の中央に位置していることだ。国立国会図書館関西館や多くの研究施設、企業、大学、データセンターなどが立地し、1980年代から90年代に開発された住宅地に囲まれている。自然が豊かで大阪市内や京都市内にも通勤可能なので、この町で子育てをしたいと移り住む人も多かった。祝園分屯地の半径10キロ圏内には、奈良市、奈良県生駒市、大阪府枚方市、寝屋川市などの人口密集地がある。
関西に住んでいると、防衛・安全保障政策と自身の生活を結び付けて考える機会は少ない。「集団的自衛権」「台湾有事」「南西シフト」などはニュースの中の言葉で、どこか自分から遠く、沖縄に行って初めて実感する問題のような気がしていた。祝園の弾薬庫増設の一報は、私にとっても、「防衛力強化」を自分の問題として考える契機となった。
「有事の際に標的になるのではないか」「地震や火災、輸送中の事故などで爆発する危険性が高まるのではないか」「敵基地を直接攻撃できる長距離ミサイルが来るのか」など、不安の声が上がりはじめた。
以前から弾薬庫に関心を持っていた地元議員や住民有志が準備会合を重ね、2024年3月、「京都・祝園ミサイル弾薬庫問題を考える住民ネットワーク(ほうそのネット)」の結成集会が開かれた。防衛省に住民説明会の開催を求め、学習会や市民への呼びかけを続けていく方針が確認された。共同代表のひとりで、精華町に隣接する木津川市に住む呉羽真弓さんは、「これまであまり関心を持っていなかったが、弾薬庫のありようが大きく変わり、長距離ミサイルまで保管されるかもしれないと聞き、地域の一員として声を上げなければならないと思った」と語っている。
私は「ほうそのネット」結成の4カ月後の2024年7月から取材に入り、12月にテレビドキュメンタリー「映像24 ミサイル弾薬庫がやってくる」、2025年2月にラジオ報道特別番組「ミサイル弾薬庫がやってくる」を放送した。防衛省への取材は、「自衛隊の能力が明らかになるおそれがあるため、お答えすることは差し控えさせていただきます」という言葉に阻まれ、悩むことも多かった。
全国で弾薬庫増設
防衛省は2032年ごろまでに、全国で弾薬庫130棟を増設する方針だ。祝園以外に、近畿では海上自衛隊舞鶴地方総監部(京都府舞鶴市)、大規模なところでは陸上自衛隊大分分屯地(大分市)、海上自衛隊大湊地方総監部(青森県むつ市)などで計画が進んでいる。現在、自衛隊の弾薬庫は全国に約1400棟あるといわれ、東西冷戦時代の名残で北海道に多いが、それが本州から九州・沖縄にシフトし、全国に広がることになる。
大増設のきっかけは、2022年12月の安保3文書の改定だった。「我が国は戦後もっとも厳しく複雑な安全保障環境に直面している」として、「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を明記した。そこで出てくるのが、「専守防衛」の自衛隊が持っていなかった長距離ミサイルだ。南西諸島に配備すれば、中国の基地を直接攻撃できるようになる。まずは2025年度、国産の12式地対艦ミサイル能力向上型(射程1000キロ)を配備するとともに、米国から巡航ミサイル「トマホーク」400発を購入し、海上自衛隊のイージス艦に搭載する予定だ。この長距離ミサイルの保管場所として、弾薬庫が増設される。