都市部の市民こそ読むべき語り【書評】『核開発地域に生きる――下北半島からの問いかけ』

『地平』編集部
2025/03/02
核開発地域に生きる――下北半島からの問いかけ

 もう30年も前のこと。下北半島の中央に位置する薬研(やげん)温泉の野営場で、朝、地元の若い漁師にイカを食べさせてもらった。それまであまり好きではなかったイカ刺し。こんなにも美味しいのか、と思った。スキンヘッドの自衛隊員と焚き火を囲み、旧軍には問題が多かった、という点で一致して夜半まで盛り上がったのも、下北の野営場だった。下北のことを書き出せばキリはない。3・11の前に鎌田慧さん、斉藤光政さんと『下北核半島』という本も編んだ。

 核燃再処理施設や東通原発が有名だが、下北半島には20近い核関連施設が集まる。つい最近、使用済み核燃料の「中間貯蔵」施設も稼働した。こうした「核開発地域」に生きるとはどういうことか、本書は、下北に生きる/生きた10人へのインタビューを軸に、豊富な関連資料を加え、立体的にその人生や意見を再構成する。「核開発の始動」「核開発の浸透」「核開発の転調」の3部にわかれているが、とりわけ印象に残ったのが冒頭、「原発に消えた学校」での語りだ。戦後、復員世代が開墾してつくりあげた東通の分校に勤め、全村立ち退きにより村が消えるまで、子どもや親たちの声、家々の光景を記録した元教師の体験である。文集に残された子どもたちのコトバが頭から離れない。

 「あなたは私たちのことを忘れようとしているのではありませんか」という問いかけが重い。本書は本格的なルポルタージュ作品に匹敵するリアリティを持つ。エネルギーを享受する都市部の市民にこそ読んでほしい本だ。(熊)

〈今回紹介した本〉
核開発地域に生きる――下北半島からの問いかけ
編著:安藤聡彦・西舘 崇・川尻剛士、2024年12月、同時代社、2530円

『地平』編集部

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