1955年、5名の被爆者が原告となり、米国による広島・長崎への原爆投下は国際法違反であること、それゆえ日本政府は被爆者に賠償すべきであることを訴えた「原爆裁判」。8年後の1963年、東京地裁は原告の請求を棄却したが、その判決で、米国の原爆投下は国際法違反であるとした。さらに被爆者救済の現状について、「政治の貧困を嘆かずにはおられない」と記した。NHK「虎に翼」でも印象的に描かれていた判決文だ。
本書はこの裁判の経緯、内容、影響などを、わかりやすく解説した一冊。著者は弁護士で、日本反核法律家協会の現会長だ。同協会の初代会長は、この裁判の原告代理人を務めた松井康浩だった。松井が遺した膨大な資料とともに、被爆者救済と核兵器廃絶にかける切迫した思いをも引き継いで書かれたことが、本書の端々から伝わってくる。
広島・長崎の原爆被害と憲法九条との関係に注意を促していることも、本書の特徴だ。人類を滅亡させうる核兵器が登場したからこそ、一切の戦争と戦力を否定する憲法が要請された。九条は「核の時代の申し子」であるという著者の主張は、核兵器廃絶に向けた世界的な動きのなかで憲法九条を生かす課題につながっている。
原爆裁判は、核兵器使用の違法性が裁判で問われた、世界でも唯一の事例であるという。被爆国・日本が国際社会で果たすべき役割を考えるうえで、この裁判に学ぶことは多いと気づかされる。(亮)
〈今回紹介した本〉
『「原爆裁判」を現代に活かす——核兵器も戦争もない世界を創るために』
著:大久保賢一、2024年12月、日本評論社、1870円(税込)