隠されるAIのコスト

ロイス・パーシュレイ(調査報道ジャーナリスト)
2025/02/05
世界有数のデータセンター拠点となっている米バージニア州アッシュバーン。世界の大規模データセンターの約35パーセントがここに集まる。2023年7月。AP/Aflo

膨大な電力利用――情報開示を拒む企業

 2024年5月、Googleが検索エンジンに人工知能(AI)を追加すると発表、運用を開始した[編註:同年8月から日本でも導入された]。この新機能によって、ユーザーが希望するしないにかかわらず、検索結果のトップにAIによる回答が表示されるようになったことは、多くの人々がすでに体験していることと思う。

 しかし、この新機能には、目に見えないコストがかかることは、まだあまり知られていない。

 「たとえば、何かについて一日に必要な摂取量などといった簡単な検索をし、GoogleのAIがそれに答えたとする。するとあなたは約3ワット/時の電力を消費したことになります」と、デジタルトレンドの環境負荷などを調査するDigiconomist社(オランダ)の創設者でデータサイエンティストのアレックス・デ・フリース氏は言う。

 「これは、従来のGoogle検索の10倍の電力消費量であり、(かつてどこの家庭にもあったあの)家庭用電話機で1時間話した場合の消費量とほぼ同等です」

 さらにフリース氏は、AI回答がすべてのGoogle検索に追加されれば、その電力消費量は、ちょうどアイルランド全土での消費量に匹敵する可能性があると試算している。

 しかし実際のところ、AI技術開発を支える企業は、背後にあるこうした負の情報を公開することに積極的ではない。もちろん、フリース氏のような研究者が推定値を出すことはできる。しかし、業界の透明性が欠如しているなかで、実際にAIがどれだけの電力や水資源を使用するのかを正確に数値化することは非常に難しい。

 いま、AIの需要は急上昇しており、iPhoneのオペレーティングシステムから保険料の自動算出まで、その技術はあらゆるものに採用されている。そしてそのAIの運用を支えるのが、大量の電子情報を処理するための大規模施設、データセンターだ。データセンターの「倉庫」には通常、数万台のサーバーが保管され、それらはそびえ立つ垂直ラックに積み重ねられるように設置されている。

 たとえば、ある人が宅配の配達状況について問い合わせるとする。AIが生成したボットと会話をすると、その内容がこれらのサーバーに送信され、高性能ハードウェアがプログラムを通じて質問に回答する。この、いわゆるニューラルネットワーク[人間の脳の働きを模した方法でデータを処理するようコンピュータに教えるAIの手法]は、生成された回答を顧客のデバイスに送り返す前に、大規模言語モデルでトレーニングされるのだが、このプロセスには安定した電力供給が必要となる。そのため、データセンターには、変圧器や回路ブレーカー、送電線に接続するための変電所など、さまざまな大容量電気機器の設置がなされ、床面には、複雑な熱交換機と冷却システムが点在している。

 AIの大量導入で社会のデジタルライフが刻々と進化する一方で、その物理的影響への規制は追いついていない。米国エネルギー情報局(EIA)は、産業分野におけるエネルギー使用に関する情報は収集しているものの、データセンターの電力需要については十分に追跡できてはいない。[EIAは2024年7月、米国の電力消費量が2024年と25年に過去最高を記録するとの見通しを出した。その理由にデータセンターによる需要拡大も挙げている]

 「一般的なAIシステムが使用するエネルギーや資源の使用や消費量について、開示が義務付けられているものはありません」と、非営利研究機関であるAIおよびデジタル政策センター(CAIDP)の社長兼研究ディレクター、マーヴェ・ヒコック氏は説明する。

 実際、私たちジャーナリストが事業者に情報開示を求めても、満足な返事が得られることはほぼない。業界のこの秘密主義によって、公益事業者や規制当局ですら、電力や資源のニーズがどのように変化しているかを知る機会が制限されている。いわばブラックボックスの中で、データセンターは石炭火力のような環境負荷の高い発電源を稼働させながら拡大しつづけ、米国の電力会社もまた、そうした「大口顧客」に特別な割引料金を適用し、彼らを支えている。

 電力だけではない。データセンターでは、サーバーを冷却するために大量の水を使用する。大規模な土地が必要となるデータセンターは土地の値段が安価な砂漠などに建設されることも多く、全体の5分の1のサーバーが「中程度から高度にストレスのかかった流域」から水を汲み上げているとの報告もある。ある論文では、今後数年のうちに、世界全体のデータセンターの水需要が英国の国内需要の約半分に相当する量に達する可能性があると指摘されている。

 それでも、ほんの一握りの事業者しか水の使用量を報告していないし、それどころか、データセンターが公共に与える影響に対する市民の懸念が高まれば高まるほど、企業は自社の業務に関する情報開示を拒む傾向を強めている。

 私たちがGoogleの広報担当者に取材を申し込んだところ、書面で回答を得たが、それによると、同社が検索に生成AIを導入して以来、機械のコストは80パーセント減少したとし、フリース氏の分析は「過大評価であり、当社のシステムははるかに効率的である」とした。一方で、データセンターからのエネルギーと水の消費量については、将来的な増加を予測することは難しいとし、詳細な情報が提供されることはなかった。

 企業は、情報を開示すれば自社の競争優位性が損なわれると主張し、開示を頑なに拒絶する。「実際、透明性の面ではますます後退しています」とフリース氏は言う。

データセンターの一大拠点になる街

 2023年12月、米バージニア州プリンスウィリアム郡の監督委員会が、世界最大級のデータセンター建設プロジェクト、PWデジタルゲートウェイの承認を間近に控えていたころ、スティーブン・ウォード氏は、同地区で開かれた公聴会の演壇に立っていた。整理券を得るために夜明け前から並び、ロビーで5時間待たされた後にようやく発言の機会を得たのだった。

 ウォード氏は、1970年代には環境保護庁の経済学者として、政策立案者らに主に有害廃棄物規制についての助言を行ない、90年代には投資顧問会社「チャールズ・シュワブ・インベストメントマネジメント」社の最高投資責任者(CIO)を務めた人物だ。

 「私は数十億ドル規模の投資決定には慣れています」と、公聴会の委員らに向かってウォード氏は切り出した。「規模が大きいほど、詳細な説明を省くべきではありません。不透明な情報にこそ人々の懸念は高まるのです」

 PWデジタルゲートウェイは、コンパスデータセンター社とQTS社がバージニア州北部の2300エーカーを超える土地に37もの新しいデータセンターを建設する計画で、実現すれば世界最大のデータセンター回廊が誕生することになる。(2016年に)この話題が上がってから、地域住民や郡計画委員会などが強い反対を続けてきた。プロジェクトを推進するか否か、公聴会は白熱した。

 実は、バージニア州北部には、すでに世界最大のデータセンター市場が存在する。アマゾンウェブサービスやグーグルクラウド、マイクロソフトアジュールをはじめさまざまなテック企業が150以上の拠点を置いており、この地域における長いテクノロジー産業史の最新章は日々更新されている。

 振り返れば、インターネットは1969年、ここバージニア州アーリントン郡で誕生した。当時は「高等研究計画局」(米国防総省の研究開発機関「国防高等研究計画局」の前身)によって、軍事目的のために開発されたが、すぐに民間用途に使われはじめる。その後バージニア州は、豊富な光ファイバーケーブルを敷設し、高速接続の提供を始めた。90年代に入ると、これがAOL社のようなインターネットビジネスを手がける初期のベンチャー企業を惹きつけ、この地の一大産業発展の礎となった。

莫大な電力をどうまかなうか

 しかしそんなテクノロジー産業の街でさえ、テック関連企業が次々に新事業を進める現在の状況には、州最大手の電力会社であるドミニオン・エナジー社も慌てた様子を見せる。2022年、ピーク時におけるサーバー業界のエネルギー使用量は約2.8ギガワットで、これは州全体の総使用量の約5分の1に匹敵した。この年、ドミニオン社はとうとう、郡の顧客に対し、必要な電力を供給する保証はもうできないと通達した。

 困ったテック事業者らは、近隣のプリンスウィリアム郡やアイオワ州、ジョージア州などの地域に注目し始めた。ウォード氏ら住民は、同様の電力逼迫の問題は、こうした地域にも目前に迫っていると警告する。さらに批評家らも、デジタルゲートウェイの提案だけで、少なくとも3ギガワットの電力、つまり75万世帯の電力需要に相当する電力が必要になると主張している。

 「その分はどこから賄うつもりですか?」。ウォード氏は、先の公聴会で、壇上から監督委員会に問いかけた。

 実を言えば、この問い自体、米東部13の州とコロンビア特別区にまたがる地域送電会社であるPJMインターコネクション社自身が抱えてきた課題でもある。そしてついに、同社は最近、バージニア州のデータセンターにこれまでより多くの電力を供給することを目的に、51億ドルの追加送電プロジェクトを承認した。

 「問題は、これらの費用負担が(PJMインターコネクション社が)管轄するさまざまな州に分散されることです」と、メリーランド州で住宅用公共サービス利用者の擁護を目的とする独立機関を運営する「メリーランド・ピープルズ・カウンセル」のデビッド・ラップ氏は指摘する。

 「このプロジェクトは、バージニア州の民間企業には利益をもたらすでしょう。しかし、メリーランド州の一般顧客にとっては、データセンターの非公開のエネルギー使用量を補助するために料金の値上げを強いることになる。根本的に不公平です」

 実際、プロジェクトで決定された送電容量は、メリーランド州最大の電力会社がピーク時に送電している容量をゆうに超えている。ラップ氏は、連邦エネルギー規制当局に対し、PJMが不当にメリーランド州に費用を割り当てていると主張したが、それに先立ち、PJMの理事会にも、「(デジタルゲートウェイ)プロジェクトの規模、範囲、および費用は前例のないものである」と書簡を送った。しかし連邦エネルギー規制委員会は5月、彼の要求を却下し、メリーランド州は、プロジェクトの費用5億5100万ドルの負担を強いられることが決定した。

 こうしたことは、今やめずらしいことではない。インディアナ州では最近、電力会社規制当局がFacebookなどを所有するメタ社に対し、新しいデータセンターキャンパスの建設を承認した。私たちは、この新施設の電力利用について同州の電力会社デューク・エナジー・インディアナ社に情報開示を求めたが、電力料金にかかわる特別料金の詳細部分は黒塗りにされていた。分かっていることは、新施設を電力網に接続するために、少なくとも8200万ドルの費用がかかるということだけだ。

 結局、公益事業消費局は施設がそれらの費用を料金支払者に転嫁することを許可し、その理由として地域に資本投資をもたらすからだと説明した。しかし、データセンターは地元に多くの雇用を生み出すわけではない。にもかかわらず、インディアナ州の施設は州から35年間の売上税免除も受けているため、二重の補助を受けることになる。

 電力会社がインフラへの支出で儲けようとするのは、彼らが、新しい送電線などへの投資から利益を得ることができるためである。言い換えれば、電力会社はデータセンターの費用を一般市民に「アウトソーシング」することで利益を得ている。実際、ドミニオン社の最新の投資家向けプレゼンテーションでは、「堅調な料金ベースの成長」を誇らしげに主張し、8500メガワットという驚異的な需要の急増を予測している。

 「公益事業会社が他人のお金を使って儲けるなどというのは、おかしなことだ」とラップ氏は言う。

 もしテクノロジー企業がエネルギーインフラの運賃を自前で全額支払うことになれば、より少ない電力を使用する方法を見つける動機が生まれるだろう。しかし、こうした業界内の悪習によって、多くのテクノロジー企業が正しい選択をしようとはしない。実際、マイクロソフト社は2030年までにカーボンフリーを目指す目標を掲げているにもかかわらず、AIへの最近の投資によって2023年の排出量は前年度比で30パーセント増加している。

 電力研究所の新しい報告書によると、10年後にはAIが米国の総エネルギー需要の約9パーセントを占める可能性があるという。他の推定では、世界のデータセンターのエネルギー需要は2026年までに倍増する可能性があると示唆され、アリゾナ州やワシントン州などの一部の電力会社は最大10パーセントの負荷増を見込んでいる。

 こうしたデータセンターの電力に対する飽くなき渇望は、グリーンエネルギーへの移行も遅らせている。2023年、メリーランド州の石炭火力発電所2基の所有者が閉鎖計画を発表したが、PJM社はこれに反発。送電網の信頼性を確保するためだとして、少なくとも2028年までは稼働を続けるよう求めた。

 さらに、化石燃料の生産量を増やすためにもAIが利用されている。例えば、石油大手のシェル社は深海油田の発見と生産にAIを積極的に導入している。

 「実際、AIモデルは直接的にも間接的にも気候変動に大きく貢献している」と、デジタル政策の監視団体である「電子プライバシー情報センター」の顧問、トム・マクブライエン氏は指摘する。

 そもそも2024年5月にgoogle検索にAIが導入される前から、ネットユーザーのデジタル活動によって、年間で一人当たり229キロのCO2が排出されていた。つまり、現在の世界のインターネット利用は、地球の気温上昇を1.5℃未満に抑えるために必要な一人当たりのCO2排出枠の約40パーセントをすでに占めていることになる。しかし、政府による追跡や規制がないため、テクノロジー業界は日々、野放図に成長しつづけている。

 プリンスウィリアム郡に話を戻すと、350人以上が証言する中、公聴会は長引いていた。外では星が瞬き、やがて夜明けの静けさへと移り変わっていった。そして、会議が始まってから27時間後、郡監督委員会は最終投票を行ない、賛成4票(主に民主党員)、反対3票(主に共和党員)、棄権1票で、デジタルゲートウェイプロジェクトの推進を決定した。ウォード氏は言う。

 「電力網はいま、危機的状況です。手遅れになって初めて、人々は先見性の欠如を自覚し後悔するでしょう」

対応できない規制当局

 AIの急成長に対処する緊急性が高まる一方、政府の動きは呆れるほど遅い。2024年9月、ニューヨークの民主党員チャック・シューマー氏は、AI業界のリーダーたちと業界の将来について話し合う非公開の会議を開いた。

 「AIの時代がやってくることを認めざるを得ません」と、シューマー氏は、イーロン・マスク氏、ビル・ゲイツ氏、マーク・ザッカーバーグ氏などテクノロジー界の「巨人」たちに語りかけ、こうつづけた。

 「この新しい革命のなかで、議会と連邦政府はどのような役割を果たすべきでしょう……」

 デジタルプライバシー情報センターのグラント・ファーガソン氏は、会議は、AI政策の策定に業界がいかに大きな力を持っているかを示す明確な事例だ、と皮肉をこめて話す。「全体を通じて、環境への影響について意味のある議論がされることはついにありませんでした」。

 非営利の監視団体「パブリック・シチズン」の報告書によると、AIのリスク問題に関するロビイストの数は2023年に120%増加した。この年、アマゾン、グーグルの親会社アルファベット社とメタ社、マイクロソフト社はそれぞれ、ロビー活動に1000万ドル以上を費やしたとされている。

 とはいえこれまでのところ、人工知能のリスクに関する議論といえば、チャットボットが意識を持つ可能性や汎用人工知能(AGI)の開発といった、SF小説から出てきたような誇張されたシナリオばかりが中心だ。マクブライエン氏は、業界がそうした懸念を好むのは、「未来の劇的な被害想定は、実際の現在のビジネスにおけるリスクから目をそらすのに好都合だからだろう」と指摘する。

 2023年秋、当時のバイデン大統領は米国標準技術研究所(NIST)に、AI規制についての追加基準策定を指示した。それを受けて、研究所は人工知能安全研究所コンソーシアムを設立、AI技術のリスクについて話し合う非公開会議を数回にわたり開催した。匿名を希望する出席者の一人によると、直近の会議では、業界の代表者が、エネルギー使用についての環境影響とその評価について研究所の草案枠組みに含めることに反対したという。

 私たちはテクノロジー業界の持続可能性について研究所にインタビューを申し込んだが、「AIの専門家が手一杯の状態」で、「そうした専門知識を持つ者がいない」という理由で断られた。「AIの環境への影響について、これまで立法上の議論がほとんどされていない。テクノロジー企業による強力なロビー活動が背景にあるのでしょう」とファーガソン氏は言う。

 もし規制当局がAIの監視を進めることになれば、その実行役となるのはおそらくエネルギー情報局だろう。しかしエネルギー関連の情報分析を専門とするこの機関は現在、データセンターのエネルギー使用量を満足に算出していない。2018年に実施された商業用建物のエネルギー使用調査でもデータセンターは除外されており、同局の報道官はその理由について「協力率が低かった」と答えている。人々の知る権利を守り、AIのリスクを明らかにし、それを軽減するべき規制当局が、能力を失いつつある。

危険な方程式

 アマゾンなど大手テクノロジー企業は長年、自分たちの影響力を武器に、バージニア州のデータセンターに関連する送電線の埋設費用1億7000万ドル(約260億円)を一般の電気料金に転嫁するなど、電力会社に対して特別待遇を要求しつづけてきた。また、アマゾンは最近、オハイオ州公益事業委員会と、今後10年間で同社のデータセンターが使用する電力料金の割引交渉も始めている。秘密保持契約によって詳細は知り得ないが、電力会社の顧客に、年間1億3500万ドルの負担を強いることになることが見込まれている。

 そうした中で、データセンター建設への市民の反発は高まりつつある。サウスカロライナ州は開発推進派が多数を占めてきた地域だが、現在、データセンターが公共料金契約の優遇措置を受けることを禁止する立法を検討している。テキサス州も2023年6月、同州の送電網を管理するテキサス電力信頼性評議会が、データセンターや暗号通貨マイニングに対応するためには今後10年間で同州の電力インフラを2倍に増強する必要があると発表。すると、慌てた州副知事が、「大量の電力を必要とし、雇用をほとんど生み出さないニッチ産業」について「詳しく調べる」意向を示唆した。

 業界関係者の中からも声が上がり始めている。OpenAIの有志社員らは2023年6月、「高度な人工知能について警告する権利」と題した公開書簡を発表。「AIが人類に前例のない利益をもたらす可能性を信じていると同時に、これらの技術がもたらす重大なリスクを理解している」とした上で、「現在の企業統治構造ではAI会社が有するリスクレベルに関する膨大な非公開情報に人々がアクセスすることは難しい。科学界、政策立案者、一般市民からの十分な指導と企業に対する政府の有効な監視が必要である」と述べている。

 もちろん、AIも他のテクノロジーと同様、人類が抱える社会課題の解決に大きな役割を果たす可能性があるだろう。例えばマイクロソフトは、再生可能エネルギーの生産や炭素回収のための新素材開発といった気候変動対策にAIを積極的に活用していくとしている。しかし皮肉なことに、そうした有効活用のために業界が必要とする膨大なエネルギーは、同時に、グリーンエネルギーへの移行を遅らせる要因にもなっている。ミシガン州は2023年、40年までに炭素排出ゼロを目指す画期的な気候変動法案を可決したが、専門家は、データセンターの電力需要によって、その目標達成が妨げられると警告している。

 別の問題もある。AIの悪影響が、より安価に電気や水を使用できるグローバルサウスの国々に押し付けられることだ。実際、ラテンアメリカでは現在、データセンター開発が急増しているが、干ばつに見舞われているメキシコシティ近郊もその一つで、近い将来、水道が枯渇することが懸念されている。

 「不釣り合いな被害を受けているのは誰か、それについ問う必要がある」とオックスフォード・インターネット研究所の大学院研究生ボクシ・ウー氏は指摘する。

 「AIのインフラに必要な希土類鉱物や、急速に進歩するチップ技術によって生み出される電子廃棄物の行方など、サプライチェーン全体の分析が必要でしょう」

 ウー氏は最近、AI生産における世界経済と政治との関係が過去の植民地主義の力学とどのように関連しているかを研究した論文を発表した。中国、アフリカ、ラテンアメリカなどの地域で搾取的に労働力を使い、危険で不衛生な鉱物採掘が行なわれている一方、主に先進国の人々がそうして生まれた製品を享受する。歴史的に繰り返されてきたこうした構造に今一度目を向けるべきだと話す。

 自分のインターネット習慣が、他人の飲料水を盗んでいると考えたい人はいないだろう。毎月の電気料金の請求書を見ても、例えばAppleが最近発表した最先端で未来的なAI技術と料金の値上げの関連性が分かるわけではない。テクノロジー企業も、自らの負の影響についての議論が表出しないように多額の資金を費やしている。

 フリース氏は言う。「身近なテクノロジーに対して疑問を抱くことはおかしなことではありません。私たちは有限な資源をどのように使うかについて選択をしなくてはならない時代に生きているのですから」

 公聴会を終えてヴァージニアに戻ったウォード氏は、近所を車で走りながら、土地が整地され、木々が切り倒された更地を眺めていた。子どものころ、近所にあった南北戦争時代のマナサス国立戦場跡を訪れ、かつてこの戦場で戦った人々の生活がどのようなものだったかを思い浮かべたことを思い出した。まもなく、この歴史的な公園には巨大な4階建ての建物がそびえ立つことになる。

 いま、彼の一番の懸念は、地域の水道水への影響だ。「デジタルゲートウェイプロジェクトは〝白紙の小切手〟を手に入れたね」とウォード氏は言う。プロジェクトが承認されたことで、運営会社は地下水の使用量を報告する必要もなくなり、使用量に制限もなくなった。地下水が枯渇したら他に選択肢がないことに、人々は気づいていない。

 「運営会社の人々は自然界に住んでいないんだ」とウォード氏は言う。

 「彼らは壁にパイプがあって、そこから水が出てくる世界に住んでいる。でも、その水がどこから来るのかはまったく理解していない。一度なくなってしまったら、もう二度と戻ってこないのに……」

※この原稿は”The Hidden Environmental Impact of AI”(Jacobin、2024年6月20日)の抄訳です。翻訳=編集部

ロイス・パーシュレイ

Lois PARSHLEY 調査報道ジャーナリスト、写真家。気候変動やエネルギー問題を中心に取材。The New York Times、National Geographic、Jacobinなどで発表を続ける。2022年、永久凍土の融解とアラスカの地盤崩壊についての報道でAAAS Kavli科学ジャーナリズム賞受賞ほか受賞多数。

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