これまでの記事はこちら
予想では、AGI(汎用人工知能)の開発は雪崩のような勢いで進む。そこには制御不能で巨大な力があることを想像してみてほしい。そして、地球全体が太陽光パネルとデータセンターで覆われる可能性はかなり高い。
イリヤ・サツケバー(注1)
1 ドキュメンタリー映画『iHUMAN』(2019年11月)
2019年、Open AI共同創設者であり元チーフサイエンティストのイリヤ・サツケバーは、AI開発への強烈な欲望と同時に、それがもたらす終末論的な未来について複雑な表情でこう述べた。
それからわずか6年、彼の予測は現実となりつつある。生成AIの急速な進化と大規模化により、AIモデルの学習・利用にはかつてない規模の計算リソースが求められるようになった。旧来のデータセンターに加え、これに対応する「AIデータセンター」(ハイパースケールデータセンターとも言われる)が世界各地で急増しているのだ。AI開発は研究と巨大インフラ産業を両輪として成り立っており、そのどちらも驚くべき勢いで進んでいる。
米国に一極集中するデータセンター
2025年8月時点で、世界には約1万1800のデータセンターがあるとされる(表1)。その半数近くは米国の5381で、AI開発で米国を猛追する中国でも449、欧州各国や日本、オーストラリアなどは200~500カ所程度に過ぎない(国土面積からすれば日本には密集していると言える)。これらはマイクロソフトやグーグル、メタ、アマゾンなどの米国企業が所有・投資している場合が多いことからすれば当然の数字であるが、この圧倒的な差は少数の米国企業によるAI支配を物語っている。

世界の生成AIへの投資額は今後5年間で2兆ドル以上になると予測されるが、これにともない米国ではデータセンターの建設ラッシュが加速することが確実だ。今年7月、米国トランプ政権は「AI行動計画」を公表した。米国のAI開発を前例のない速度で進め、他国に輸出し国際覇権を増強しようとするもので、バイデン時代のAI規制を緩和するだけでなく、半導体製造施設やデータセンター、発電施設に対する規制を緩和・撤廃すると宣言した。また連邦政府が調達するAIシステムからDEI(多様性、公平性、包摂性)などの「イデオロギー的教義」を含む出力を排除することも盛り込まれ、あらゆる面でトランプ色が鮮明に出された。その極端な姿勢は、行動計画の導入部分に書かれた言葉に集約されている。
「我々は、広大なAIインフラとそれを動かすエネルギーを構築し、維持する必要がある。(中略)我々は気候変動に関する過激な教義や官僚主義的な形式主義を今後も拒否する。端的に言えば、“建てて建てて、建てまくれ!(Build, Baby, Build!)”である」
並行してトランプ大統領は、データセンターに必要なエネルギー生産のための原子力発電の拡大を掲げ、独立機関である原子力規制委員会(NRC)の権限を弱体化させる大統領令にも署名した。さらには環境保護局(EPA)の機能も大幅に縮小するなど、AI開発の障害となるあらゆる規制や制度が崩されてきた。
差別と排除の上に──米国南部の建設
これまで米国のデータセンターは、ビッグテックの拠点であるカリフォルニア州やニューヨーク州、テキサス州などに集中してきた。だが近年、ジョージア州やルイジアナ州、テネシー州、ミシシッピ州などの南部州での増加が顕著に見られる。土地の価格やエネルギーコストが低い地域に集中するという傾向だ。これら都市では2000億ドル規模の建設プロジェクトが多数進行し、農村部では大手IT企業やデータセンター関連不動産企業による土地買収も頻繁に行なわれるようになった。
「私はデータセンター施設を『エネルギー・バンパイア』と呼んでいます。大量のエネルギーを吸い取るだけで、地元の人々が求めている経済的利益はもたらしません」
テネシー州の住民組織「汚染に反対するメンフィス・コミュニティ」代表であるケショーン・ピアソンは、2025年9月にニューヨークで行なわれた「ニューヨーク市気候週間(Climate Week NYC)」でこう発言した。毎年国連総会に合わせて行なわれる気候週間の今年の主要テーマの1つは「テクノロジーと気候危機」だった。このセッションではピアソンをはじめ米国南部のデータセンター建設に反対する草の根の活動家たちが次々と登壇し、その模様は全世界に向けライブ配信された。
テネシー州ではすでに34のデータセンターが稼働中で、アルファベット(グーグルの親会社)やメタが所有する大規模施設から、ルーメンやコンパスなどIT企業の小規模施設までがある。そんな中、あるデータセンターが全米の注目を集めることになる。2024年7月、xAIの創業者兼CEOであるイーロン・マスクはメンフィスにスーパーコンピュータを建設する「コロッサス」計画を発表した。AIモデル学習用の大量のデータを高速処理する78万5000平方フィート(東京ドーム1.5個分に相当)もの巨大施設がわずか122日で建設され、10万基のGPU(画像処理装置)が調達された。さらに今年7月、マスクはこの拡張計画を発表。隣接する土地を買収し、複数の投資元から120億ドル以上の資金を調達するという。その規模やスピードからしても前例のない巨大インフラであり、メディアでは「狂気の開発」とまで批評された。












