サイバー防御法案の何が危険なのか

井原 聰(東北大学名誉教授)
2025/04/04
米サイバー軍。Photo by U.S. Army

 今国会(第217回)で、3月18日、難解な題名の2つの法案――「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律案」(以後、サイバー防御法案)と「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」――が提出され、審議が始まった。

 今国会では、この2法案とともに日本学術会議の特殊法人化法案も提案されている。いずれの法案も、その本質は戦争する国への準備だと私には映る。

 先に成立した経済安保推進法や経済安保情報保護法は、科学者と技術者、科学と技術の軍事技術への囲い込み、監視、経済統制を可能とするものであった。そしてその仕上げが、学術会議の特殊法人化である。軍事研究に批判的な現在の学術会議をつぶし、政府の事業をその意図に沿って素直に受け持つ組織に代え、軍事研究を推進する団体とするのがねらいだからである。

サイバー防御法案の枠組み

 サイバー防御法案の枠組みは、官民連携、通信情報、侵入・無害化の3分野に絞られる。

 すなわち、これは2022年12月に発表された「国家安全保障戦略」が指定した課題にほかならない。これに呼応してか、マスメディアなどではサイバー攻撃によって被害を受けた事件が喧伝されるようになり、危険な攻撃には未然に対処する必要があるという点が強調された。3月18日の本会議でも、立法事実でもあるかのように、サイバー攻撃が語られた。

 だが、サイバー攻撃による被害のほとんどは、いうまでもないことだが、被害を受けた官民の防備がおろそかであったからで、防備がしっかりした官民は被害には遭っていない。しかし、たびたび経済的被害が語られることで、国家安全保障戦略からの課題であることがいつのまにか忘れられてしまっている。もっとも、3月19日の内閣委員会の冒頭、自民党の議員と担当大臣の間では国家安全保障上の重要課題であることが確認されていた。

 サイバー防御法案の意図するところを、かいつまんでいってしまえば、基幹インフラの事業者、電気通信事業者と官が、官民連携し、通信情報を官が収集し、分析し、危険な通信情報の兆候を発見したら、それを発している外国のサーバーに侵入し、無害化する、というものである。

 むろん通常では、通信の秘密やプライバシーの侵害は国際法違反であるし、通信情報を勝手に収集することは憲法第21条、電気通信事業法第四条で禁じられている通信の秘密の侵害に当たってしまう。これを違法ではないという法律を作れと国家安全保障戦略は要求したのである。

井原 聰

(いはら・さとし)東北大学名誉教授。科学史・技術史。著書に『経済安保が社会を壊す』(地平社)など。

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