ソウル市長選――進歩派候補はなぜ敗北したか

石坂浩一(立教大学兼任講師。専門は韓国社会論)
2026/07/05
Public square with a large modern glass building behind a historic stone building, a green lawn, and a wide tiled promenade with trees and a few pedestrians.
ソウル市庁舎

保守系現職が勝利

 韓国の全国同時地方選挙は6月3日に投開票が行なわれた。3日の夜、開票経過を見るとソウル市長選では与党・共に民主党の候補チョン・ウォノ(鄭愿伍)前ソンドン(城東)区庁長が野党の保守政党・国民の力の現職候補オ・セフン(呉世勲)市長をかなりリードしていた。ところが、朝になって結果を見ると結果は逆転した。チョン候補48.13%に対しオ候補49.15%で、僅差だがオ候補の当選だった。チョン候補は4日午前、敗北宣言を表明した。今回の地方選挙では大接戦の末、与党の共に民主党が敗れるケースが、ソウル市長、テグ(大邱)市長、地方選挙ではないが国会議員補欠選挙プサン(釜山)北甲選挙区と3つを数えた。

 地域によって勝敗を分かつ原因は異なるだろうが、本稿ではソウル市長選を中心に考えてみよう。

行政実績のあったチョン候補

 そもそもチョン・ウォノとはどのような人物なのか。2014年以降、ソウル東部のソンドン区庁長を3期12年務めた。特に2022年6月の前回選挙は、国民の力のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が当選した直後の勢いで国民の力が圧勝した中、ソンドン区ではチョン・ウォノが3選を果たした。

 チョン・ウォノが支持された理由は、着実な街づくり政策にあり、それを象徴するのが地下鉄2号線(駅は地上にあるが)のソンス駅周辺に広がる街ソンス(聖水)である。ひとことでいうと、ソンドン区では、ジェントリフィケーションではない、地域住民の生活に根ざした発展、再開発をめざしてきた。ジェントリフィケーションとは大資本中心に町が再開発され、旧住民が移転、転出を余儀なくされる現象である。もともと中小零細工場が立ち並ぶ下町のようなソンスは、不動産業者に任せておけばホンデ(弘大)と同じような大資本の割拠する町になって、地元の住民は出て行かざるをえなかっただろう。だが、チョン・ウォノ区政はもともとの建物や町の雰囲気を生かし、住民が主体となれる場を作り、無制限な大規模開発を制限した。また若者には就業、起業を支援できるような機会提供をめざしたのである。

 実際にソンスに行ってみると、工場を改造したレンガ造りのおしゃれなカフェや商店などが立ち並び、外国人観光客も多数訪れる活気のある街を見ることができる。若者だけではない。高齢者が猛暑のさなかに出かけやすいよう信号待ちにも日陰を作ってある街角、見やすい信号や標識など、住民に暮らしやすい環境が工夫されている。ソンス駅近くには以前から小さな靴屋を営んできた靴職人たちが、ハンドメイドシューズの「靴屋通り」と銘打ってこぎれいな店を連ねている。

 私が印象深いのは、2016年9月、住民から道路に異常が感じられるとの通報を受け、すぐに区庁長の指示で調査に着手、道路陥没を未然に防ぎ、その後も継続的に道路の点検を怠らずに事故を防いできたことだ。韓国でも道路陥没事故はシンクホールと呼ばれ、しばしば発生している。日本でも2025年1月に埼玉県八潮市で交差点の陥没事故が発生し、原状回復にはまだ相当の年月がかかる重大な結果を生んだことは記憶に新しい。ソンドン区では地中の異常を探知する機器を導入し、2024年に5年間陥没事故ゼロの実績を上げた。出発点は住民の情報提供だった。

 ソンドン区民はチョン区庁長の実績を知っており、今回の市長選でも区内ではチョン・ウォノ候補の票が上回ったし、後任の区庁長も共に民主党が当選した。選挙前の世論調査でも、チョン・ウォノは優勢だったので、共に民主党としては油断したかもしれない。だが、ソウル全体としてはオ・セフン市長への支持が上回ったのである。なぜだろうか。

石坂浩一

(いしざか・こういち)立教大学兼任講師。韓国社会論。近著に『韓国市民社会がめざす希望――なぜ戒厳を阻止できたのか』(かもがわ出版)、編著に『現代韓国を知るための61章【第3版】』(明石書店)など。

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