政治が教育を変える愚を繰り返させないために――国旗損壊罪は必要ない

平井美津子(大阪府公立中学校教師、子どもと教科書大阪ネット21事務局長)
2026/01/29

自民党による密告アンケート

 今から一〇年前の二〇一六年六月二五日、自民党は同党のウェブサイト上に「学校教育における政治的中立性についての実態調査」を掲載し、協力を呼びかけた。そこには、次のように書かれていた。

 党文部科学部会では学校教育における政治的中立性の徹底的な確保等を求める提言を取りまとめ、不偏不党の教育を求めているところですが、教育現場の中には「教育の政治的中立はありえない」と主張し中立性を逸脱した教育を行う先生方がいることも事実です。
 学校現場における主権者教育が重要な意味を持つ中、偏向した教育が行われることで、生徒の多面的多角的な視点を失わせてしまう恐れがあり、高校等で行われる模擬投票等で意図的に政治色の強い偏向教育を行うことで、特定のイデオロギーに染まった結論が導き出されることをわが党は危惧しております。
 そこで、この度、学校教育における政治的中立性についての実態調査を実施することといたしました。皆さまのご協力をお願いいたします。

 この呼びかけ文の下に、姓、名、フリガナ、性別、年齢、職業、勤務先・学校名(教職員の場合のみ)、連絡先電話番号、連絡先FAX番号、連絡先の住所、E-mail、政治的中立を逸脱するような不適切な事例を具体的(いつ、どこで、誰が、何を、どのように)に記入する項目を設定して、ネット上で入力して送信できるようにした。

 様々な批判を受け、「子供たちを戦場に送るな」の部分が「安保関連法は廃止すべき」に変更され、その後これも削除された。しかし、調査は続行され、同年七月一八日に終了した。調査への協力を呼びかけた自民党は「相当な件数の事例が集まり、公選法に反する事例も含まれる」「違法性の高いものは文科省に提供する」「公選法違反は警察が扱う問題」と述べた。

 そして、実際にこの調査の効果を示すかのような事件が起きた。名古屋市の市立中学校での参院選に触れた授業で、「与党の自民・公明が議席の三分の二を獲得すると、憲法改正の手続きを取ることも可能になる」「そうなると、戦争になった時に行くことになるかもしれない」などと社会科教諭が発言したことが問題になったのである。市教委がこの発言を「教育基本法で求められている政治的中立性の観点から不適切」と判断し、当該教諭が生徒に謝罪させられるという事態に至った。新聞にも取り上げられ、学校現場を震撼させた。自民党の呼びかけは終了したが、現場を委縮させる効果は大きかった。

 この調査や名古屋での出来事を知ったとき、来るものが来たと感じたのは私だけではないだろう。政府与党である自民党にとって望ましくない教育を行なう教師の授業の密告奨励の呼びかけなのだ。

 この背景には、二〇一六年に一八歳選挙権を実現する改正公職選挙法が施行されることになり、主権者教育が注目されるようになったことがある。

 自民党は、現行憲法否定の立場から、現行憲法は押しつけられたものであり、問題が多く、憲法を改正し自主憲法を作ることが必要だと主張してきた。この考えに立てば、平和主義や基本的人権の尊重、国民主権という現行憲法の理念を教える授業は偏向教育であり、指導する対象となるのは当然といえば当然だ。一方、「教育勅語」を称賛したり、閣議決定のような政府見解を金科玉条のように押し付けたりすることは許されるのだろうか。学校における政治的中立性とは何かを考えさせる出来事だった。

国旗損壊罪のもくろみ

平井美津子

(ひらい・みつこ)大阪府公立中学校教諭、大阪大学・立命館大学非常勤講師。著書に『「慰安婦」問題を子どもにどう教えるか』(高文研)、『近現代史を子どもにどう教えるか』(同、共著)ほか多数。

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