マイナ保険証騒動――何をめざしているのか

白石 孝(プライバシー・アクション代表)
2024/12/05

保険証発行停止

 マイナンバーカードに健康保険証機能を登録した「マイナ保険証」を普及させるとして、2024年12月2日をもって従来型の健康保険証の新規発行が終了した。ただし、厚生労働省をはじめ、協会けんぽ(全国健康保険協会)や都道府県国保連合会は、「従来の健康保険証は令和6(2024、以下西暦表記)年12月2日に廃止されますが、現在お持ちの健康保険証は、25年12月1日まで使用できます」「経過措置について―マイナ保険証をお持ちでない方は資格確認書でこれまでどおり受診できます」とも周知している。実際、私の国民健康保険証の有効期限は2025年8月7日、あと8カ月はそのままだ。

 2022年10月13日、河野太郎デジタル担当大臣(当時)は記者会見で「マイナンバーカード(以下、カード)と健康保険証の一体化に向け(中略)、カードの取得の徹底、カードの手続き・様式の見直し、この検討を行なった上で、24年度秋に現在の健康保険証の廃止を目指す」と明言、この時初めてマイナ保険証と従来の健康保険証併用から保険証廃止に舵が切られた。

 河野大臣は、「デジタル社会を新しく作っていくためのマイナンバーカードは、いわばパスポートのような役割を果たすことになるが、そのためのカードの普及、そして利用の拡大、これを強力に推進」とその理由を述べている。カードを限りなく全員に取得させるための切り札に、マイナ保険証を使うことにした。だが、この目論見は大きくはずれた。それどころか多くの市民から強い反発を買うことになる。

そもそもは任意の制度

 カードは番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)で「市町村長は、政令で定めるところにより、当該市町村が備える住民基本台帳に記録されている者に対し、その者の申請により、その者に係る個人番号カードを交付するものとする」(第17条)と規定。なぜ任意にしたのか、真相は分からない。

 その任意のカードを「デジタル社会のパスポート」にするという。本当に個人意思に沿うならまだいい。だが、1回目5000円、2回目2万円のマイナポイントを総額2兆1000億円以上の経費を投入して配布、金にまかせてカード保有率を25%から75%まで引き上げ、総仕上げにマイナ保険証を持ってきた。

 公的医療保険制度は、「被用者保険」「国民健康保険」「後期高齢者医療」のいずれかで全員が加入する「皆保険制度」で、その資格確認用に「健康保険証」がある。全員対象の保険制度と任意のカードをセットにするとしたら、選択肢のひとつに留めるべきだ。

12月以降のこと

 Ⅹデーの12月2日は、特にどうということなく過ぎたが、病院や調剤薬局の受付では、マイナ保険証、従来の健康保険証、新たに交付された資格確認書の三様を受け付けることになった。

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白石孝

(しらいし・たかし)
プライバシー・アクション代表。官製ワーキングプア研究会理事長、共同テーブル発起人、PARC理事など。『マイナンバー制度─番号管理から住民を守る』(自治体研究社、共著)、『ソウルの市民民主主義』(コモンズ、編著)ほか著書多数。

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